
1月も半ばを過ぎてしまいましたが、あけましておめでとうございます。今年も1年、お付き合いのほどよろしくお願いいたします。
昨年末、製薬業界にとっていろいろと良くないニュースがありました。2025年度の薬価の中間年改定は全体の半数以上の品目を対象に行われることが決まり、新薬メーカーに資金の拠出を義務付ける「創薬支援基金(仮称)」の創設を政府が検討していることも明らかになりました。年始のコラムは明るい話題にしたかったのですが、これはぼやかずにいられません。
今回のコラムのテーマについて編集長と打ち合わせをしたのは昨年12月の半ばでした。その時点ではもう中間年改定の廃止は難しそうな感じでしたが、それでもわずかな期待を持って見守っていたんです。昨年11月のコラムに書いた通り、衆院選前までは医薬品産業に政策的な追い風が吹いているように感じていましたから。昨年は、4月の薬価改定でイノベーション評価の充実が図られ、創薬環境の整備に向けて様々な施策が打ち出されました。イノベーションの推進、そしてドラッグ・ラグ/ドラッグ・ロスという社会課題の解消に向けた機運の高まりに期待した人も多かったのではないでしょうか。
それなのに、結局、政府は来年度の中間年改定の実施を決めました。改定による薬剤費の削減額は約2500億円に上り、中堅製薬企業2~3社の年間売上高を足し合わせた額と同じくらいの市場が失われることになります。改定の対象範囲を医薬品のカテゴリごとに設定し、メリハリのついた改定と言われますが、昨年の衆院選前まで感じていた期待もほとんど消え去ってしまいました。
そんなところに出てきたのが、創薬支援基金(仮称)の話です。報道によると、ベンチャーやアカデミアによる創薬を支援するため、新薬創出加算の対象品目を持つ企業に収益規模に応じた基金への資金拠出を義務付けることが検討されているといいます。これには欧米の業界団体も「市場の魅力をさらに低下させる」と猛反発。そんなことをしていたら、いよいよ日本市場は本当に海外から見放されてしまいます。
製薬業界だけが頭を抱える問題ではない
それだけ日本が世界の中で相対的に貧しくなったのだと思うと同時に、だからといって市場の魅力を下げるようなことを続けていては、国内外の製薬企業が日本を回避する流れが加速していく未来しか見えません。
年始からかなりぼやいてしまいましたが、この問題って本来は製薬企業だけが頭を抱えるものではないと思うんですよね。薬があれば助かるはずの命が、日本では救えなくなるかもしれない。そんな世界が近づいてきていることは、多くの人が知っておくべきことだと私は思います。
医療費の増大、そして社会保険料の負担増は大きな課題です。限られたお金をどこにどうやって使うのか、優先順位の議論をしなければなりません。透明性があり、論理的かつ合理的で、エビデンスに基づいた政策決定がますます重要になってくると思います。
そのためにも、私たちはどんな「あるべき未来」を設定するのか、ということを話し合うところからスタートしないといけない気がしています。
※コラムの内容は個人の見解であり、所属企業を代表するものではありません。
黒坂宗久(くろさか・むねひさ)Ph.D.。アステラス製薬アドボカシー部所属。免疫学の分野で博士号を取得後、約10年間研究に従事(米国立がん研究所、産業技術総合研究所、国内製薬企業)した後、 Clarivate AnalyticsとEvaluateで約10年間、主に製薬企業に対して戦略策定や事業性評価に必要なビジネス分析(マーケット情報、売上予測、NPV、成功確率、開発コストなど)を提供。2023年6月から現職。SNSなどでも積極的に発信を行っている。 X:@munehisa_k note:https://note.com/kurosakalibrary |