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日本の医薬品市場、向こう5年の展望は―欧米に比べ依然低調、薬価政策が成長の足かせに

更新日

穴迫励二

薬価中間年改定の実施が決まるなど、依然として先行きの不透明感が拭えない日本の医療用医薬品市場。製薬各社はMR体制をスリム化させ、より効率的な営業活動へとシフトしつつあります。一方、イノベーションに対する評価は2024年度薬価制度改革で充実が図られ、新薬開発力による優勝劣敗の構図が明確になっています。今年以降、国内市場はどのように変化していくのでしょうか。IQVIAや富士経済など民間調査会社の中期予測をもとに探ります。

 

 

IQVIA予測、24~29年の年平均成長率は1.4%

IQVIAは、新型コロナウイルス感染症関連薬を除く薬価収載品の24年の国内売上高を、薬価ベースで前年比2.5%増の11兆3300億円と推計。5年後の29年には12兆1520億円と8220億円の増加を予測しています。この間の年平均成長率(CAGR)は1.4%で、欧米の3~4%程度と比べて低い伸びにとどまる見通し。25年は前年比2.3%増の11兆5890億円を見込んでいます。

 

【薬価収載市場の成長予測】〈年度/全額/伸び率〉24/11.3/2.5|25/11.6/2.3|26/11.6/0.1|27/11.9/2.6|28/11.9/-0.2|29/12.2/2.3|※出典:IQVIA

 

予測にはさまざまな前提を置いていますが、結論を左右する大きな要因に薬価制度があります。IQVIAは中間年改定が「乖離が大きい品目に限定される」として、その影響をはじいています。25年度の中間年改定は、医薬品のカテゴリごとに引き下げ対象となる品目の範囲を定め、結果として2466億円の薬剤費を削減することが決まりました。前回の中間年改定と比べると、新薬の改定対象範囲は縮小したものの、新薬創出加算の累積額の控除が中間年改定で初めて行われます。

 

IQVIAの予測では、25年度中間年改定の影響をマイナス3.9%と想定。27年と29年もほぼ同じマイナス3.9%と見積もっています。通常改定の影響は26年、28年ともマイナス6.2%としました。薬価と市場実勢価格の乖離率が縮小傾向にある中、イノベーション評価と医療保険財政の両睨みでどのような政策が展開されるかによって、市場の成長は左右されます。

 

【薬価収載品市場 成長率の要素分解】〈年/市場規模/成長率・自律成長/新薬貢献/薬価改定/計〉24/113,300/6.7/0.4/▲ 4.7/2.5|25/115,890/5.7/0.5/▲ 3.9/2.3|26/115,970/5.6/0.7/▲ 6.2/0.1|27/119,030/6.1/0.4/▲ 3.8/2.6|28/118,760/5.6/0.3/▲ 6.2/▲ 0.2|29/121,520/5.6/0.5/▲ 3.8/2.3

 

スペシャリティ薬が市場の半分超

将来にわたって市場の成長ドライバーとなるのはスペシャリティ医薬品。29年には24年から1兆3000億円以上増加して6兆2250億円に達すると予測しています。市場全体に占める割合も43.1%から51.2%に拡大し、半分を超える見込みです。バイオ医薬品(スペシャリティ医薬品と一部重複)も約1兆4000億円増えて4兆7470億円となり、構成比も29.5%から39.1%に上昇します。

 

向こう5年間の市場成長額8220億円への貢献額を医薬品のカテゴリ別に見ると、最も大きいのは既存の特許品で2兆1094億円。新薬も1兆3800億円のプラスです。一方、長期収載品は既存と新規を合わせて2兆7000億円を超えるマイナス。後発医薬品は若干のプラスを見込みます。結果、29年には新薬と特許品が市場全体の約7割を占め、その金額は8兆5000億円程度になる予測です。

 

【薬価収載品市場の増減要因】24年/11.33兆円|29年12.15兆円。

 

後発品をめぐっては、政府が「金額シェアを29年度末までに65%以上」とする目標を設定していますが、昨年9月取引分を対象に行われた薬価調査では、前年から4.8ポイント増の62.1%に達したことが判明しました。長期収載品への選定療養の導入もあり、今後もシェアを高めていきそうで、政府目標は達成の可能性が高まったように見えます。

 

最大市場の抗がん剤、拡大は緩やかに

一方、富士経済が昨年11月に発表した市場調査結果によると、現在、疾患領域別で最大となっているがん領域の市場の伸びは今後、緩やかになっていく見通しです。新規作用機序の開発品が少なくなるとともに、大型品に後発品が参入するためで、市場は23年からの10年間で25.3%増にとどまるとみています。ただ、がん種によって状況は異なり、同社は肺がん治療薬について「製薬各社の注力度は特に高く、製品開発は活発。適応拡大を含めたフェーズ3以降の後期開発は50件近くと、ほかのがん治療剤に比べて圧倒的に多い」と分析しています。

 

高成長が見込まれる市場として挙げられるのが認知症です。富士経済によると、23年の認知症治療薬はピーク時から半減しましたが、「レケンビ」の登場で24年は久々に前年からプラスとなる見込み。昨年11月には「ケサンラ」が発売されたほか、パイプラインには適応拡大も含めてフェーズ2~申請の段階に13件が控えており、認知症・MCI(軽度認知障害)治療薬の市場は24年の707億円(予測)から33年には2880億円に拡大すると予測しています。

 

さらに同社は、23年に251億円だった再生医療等製品の市場が、30年には570億円と2.3倍に成長するとしています。このうち、CAR-T細胞療法製品は175億円から350億円に倍増。白血病や悪性リンパ腫、多発性骨髄腫といった疾患で使用が広がっていきそうです。

 

世界市場、糖尿病・肥満症薬上位に

英調査会社エバリュエートは昨年発表した最新の世界市場予測で、「大きく伸長するのは肥満症治療薬」としています。同社は、処方箋薬の世界総売上高が24年の1兆1180億ドル(約177兆円)から30年には1兆7430億ドル(約275兆円)に膨らむと予測。製品別では、がん治療薬が相対的に地位を下げ、「オゼンピック/ウゴービ」や「マンジャロ/ゼップバウンド」といった糖尿病・肥満症治療薬が上位を占めます。この領域は日本でも注目されており、複数の新薬候補が臨床開発の後期段階に控えていますが、成長力では世界市場に劣りそうです。

 

米国では今月、トランプ政権が発足し、業界への影響に関心が集まっています。日本でも石破政権の薬価や医薬品産業に対する姿勢に失望が広がっており、市場の低成長が続けば営業を中心とした組織体制の縮小やM&Aの動きが出てくるかもしれません。

 

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