キッセイ薬品工業の希少疾病・難病領域の事業が好調です。2022年に発売した顕微鏡的多発血管炎/多発血管炎性肉芽腫症治療薬「タブネオス」など、同領域でこれまでに3つの新薬を市場に投入。3新薬の売上高は今期、100億円を超え、医薬品の売上高全体に占める割合は19%に達する見込みです。
「タブネオス」など販売伸びる
キッセイ薬品は2011~13年度の中期経営計画で、従来の「泌尿器」「透析」などに加えて「アンメットメディカルニーズ」を研究開発のコア領域に設定。導入を中心に希少疾病・難病領域のポートフォリオの構築に取り組んできました。
希少疾病・難病の領域ではこれまでに、22年5月発売の潰瘍性大腸炎治療薬「カログラ」(一般名・カロテグラストメチル)を皮切りに、同年6月に顕微鏡的多発血管炎(MPA)/多発血管炎性肉芽腫症(GPA)治療薬「タブネオス」(アバコパン)、23年4月に慢性特発性血小板減少性紫斑病(ITP)治療薬「タバリス」(ホスタマチニブナトリウム水和物)を発売。21年4月には、希少疾病領域のマーケティングを専門に担当する「レアディジーズプロジェクト」を医薬営業本部に新設し、支店と連携して専門医への情報提供活動を展開しています。
販売はいずれも好調です。25年3月期はカログラが18億円(前期比64.9%増)、タブネオスが70億円(35.6%増)、タバリスが25億円(205.5%増)の売り上げを計画。3製品あわせて113億円と前期から59.8%の増加を見込んでいます。医薬品全体では今期、10.6%増の600億円の売り上げを予想しており、杏林製薬と共同販売する過活動膀胱治療薬「べオーバ」とともに成長を牽引します。
導入中心にポートフォリオ構築
希少疾病への参入第1号となったタブネオスは、スイスのビフォー・フレゼニウス・メディカル・ケア・リーナル・ファーマから17年に導入したC5a受容体拮抗薬。対象とするMPAとGPAは抗好中球細胞質抗体(ANCA)関連血管炎に分類される疾患で、ANCAの結合によって活性化された好中球が血管を傷つけることで腎臓や肺など全身の臓器にさまざまな症状を引き起こします。患者数はMPAが1万1078人、GPAが3437人(いずれも22年度末現在の特定医療費受給者証保持者数)。タブネオスのピーク時予測投与患者数は年間5800人です。
タバリスは、米ライジェルファーマシューティカルズからの導入品。同社が創製した脾臓チロシンキナーゼ阻害薬で、キッセイ薬品は18年に日本と中国・韓国・台湾の開発・販売権を取得しました。ITPは原因となる明らかな疾患や薬の服用がないにもかかわらず血小板が減少して出血しやすくなる疾患です。患者数は1万6599人(慢性以外のITPも含む22年度末現在の特定医療費受給者証所持者数)で、タバリスはピーク時に2300人への投与を予測しています。
カログラはEAファーマが世界で初めて実用化した経口α4インテグリン阻害薬。キッセイ薬品は15年から同社と共同開発し、販売を担当するとともにEAファーマとコ・プロモーションを担当しています。希少疾病用医薬品には指定されていないものの、ピーク時の予測投与患者数は8900人と限られています。標準治療である経口5-アミノサリチル酸(5-ASA)製剤で効果不十分な中等症の患者が対象です。
パイプライン、P3に腫瘍溶解性ウイルス
希少疾病領域ではこれらに続いて、腫瘍溶解性ウイルス「CG0070」の臨床第3相(P3)試験を実施中。対象疾患は筋層非浸潤性膀胱がんで、20年に米CGオンコロジーから日本、韓国、台湾などアジア20カ国での開発・販売権を取得しました。米国ではCGオンコロジーがFDA(食品医薬品局)からブレークスルーセラピーの指定を受けています。
さらに今年9月には、米ライジェルから急性骨髄性白血病治療薬のIDH1阻害薬オルタシデニブの開発・販売権を取得。対象地域は日本、韓国、台湾で、米国ではライジェルが22年に「IDH1変異陽性の再発/難治性の急性骨髄性白血病」の適応で承認を取得しています。急性骨髄性白血病の国内患者数は約1万1000人と推定されており、IDH1変異陽性はこのうち6~9%とされています。
創薬研究でも希少疾患領域での取り組みを強めています。今年9月、バイオベンチャーのリボルナバイオサイエンス(神奈川県藤沢市)と難治性の遺伝性希少疾患に対する医薬品候補化合物の創製に向けた共同研究契約を締結。リボルナ独自のRNAを標的とした低分子医薬品創薬技術を活用し、新薬創出を目指します。
ロバチレリン、追加試験の可能性検討
一方、20~24年度の中期経営計画期間中に発売を計画していた脊髄小脳変性症治療薬ロバチレリンは、21年に行った申請を一旦取り下げ、追加臨床試験の実施可能性を検討しています。
同薬は塩野義製薬から導入した甲状腺刺激ホルモン放出ホルモン誘導体。キッセイ薬品は2つの臨床試験とその併合解析の結果をもとに申請しましたが、PMDA(医薬品医療機器総合機構)から「現状の臨床試験データでの承認は困難」との見解が示され、23年に申請を取り上げました。2つの試験ではいずれも、プラセボとの比較で運動失調の評価スコアの有意な改善が示されなかったものの、重症度が高い患者層を対象に行った併合解析(事後解析)では有意な改善が認められため、「改善効果が検証された」として申請を行っていました。
今期の全社の売上高予想は830億円(うち医薬品600億円)で、中計で目標とする870億円以上(うち医薬品625億円以上)にはわずかに届かなそうですが、期間中には希少疾病への参入という大きな成果を上げました。業界全体がスペシャリティ領域へと研究開発をシフトさせる中、中堅のキッセイ薬品もこの分野を開拓しながら持続的な成長を目指していくことになりそうです。