米IQVIAインスティテュートが、世界各国の治験環境の整備度を定量的に評価・分析したレポートをまとめました。日本は米国とドイツに次いで3番目に評価が高かったものの、評価に基づいて算出した実施可能な試験数と実際に行われた試験数の差は世界で最も大きく、環境が整っているにもかかわらず治験を呼び込めていない現状が浮き彫りとなりました。
「運用インフラ」「臨床インフラ」「患者可用性」で評価
IQVIAインスティテュートが7月に公表したレポート「Rethinking Clinical Trial Country Prioritization – Enabling agility through global diversification」(臨床試験実施国の優先順位の再考 – グローバルな多様化による機敏性の実現)では、世界各国の治験環境の整備度を「運用インフラ」「臨床インフラ」「患者の可用性」の3つの項目でスコア化。「(運用インフラスコア+臨床インフラスコア)×患者可用性スコア」で算出した総合点に基づいて各国に実施可能な臨床試験数を割り当て、実際の実施試験数と比較することで国ごとの治験実施機会を探りました。
各評価項目を構成する指標は下の表の通り。ほとんどの指標で公的機関の統計を用いており、客観的かつ定量的な評価・分析を試みています。
各項目のスコアを見てみると、日本は運用インフラで16位(1位の国を100点とした場合80.5点)、臨床インフラで10位(79.8点)、患者可用性で6位(61.5点)となりました。各項目のトップは、運用インフラがスイス、臨床インフラがチェコ共和国、患者可用性が中国。運用インフラと臨床インフラでは主に欧州の国が上位を占めた一方、患者可用性では主に人口の多さを背景にアジアや南米の国が高い評価を得ています。
がん、細胞・遺伝子、希少疾患でも競争力
3項目の総合点では、トップが米国で、2位がドイツ、3位が日本。フランスが4位で、5位に中国が入りました。上位4カ国は3項目がほぼ均等に総合点に寄与している一方、中国は患者可用性が総合点を大きく引き上げています。6~10位は、スペイン、英国、イタリア、韓国、カナダの順でした。
総合点に基づいて実施可能な治験数を各国に割り当て、実際に行われた治験数(2021~23年の実施数の平均)を比べて見ると、その差は日本が世界で最大。実施数は実施可能数の半分以下にとどまりました。
日本に次いで実施可能数が実施数を大きく下回ったのは、ドイツ、フランス、イタリア、スウェーデンなど。逆に、米国や中国では実施可能数を大幅に上回る試験が行われています。
さらに、治験をその要求内容に基づいて(1)臨床重視(2)効率重視(3)科学重視(4)医療的成熟重視――の4タイプに分類し、それぞれについて各国の治験環境の整備度を評価したところ、日本は(1)で3位、(2)~(4)で1位といずれも高い評価を獲得。(3)にはがん領域の第1相(P1)試験、細胞・遺伝子治療や希少疾患の治験が、(4)にはがん領域や生物学的製剤のP2・3試験が分類されており、こうした試験でも日本の環境は国際的に見て競争力があることがわかりました。
「特殊な運用」ネックに
日本の状況についてレポートでは「特定の民族に人口が集中しており、後期試験の前に国内でP1試験を行う必要があるため、部分的にグローバル試験での活用が限られている」と指摘。一方、昨年末に行われた日本人P1試験に関する規制要件の緩和で「機会が出現している」とし、「ほかの指標で高いスコアを得ていることを踏まえれば、検討すべき重要な国としてフラグ付けされている」と分析しています。
米国と中国については「相対的な能力に照らして過剰に活用されていることが示唆される」との見方を示し、米国は市場としての重要性が、中国は国内企業による治験の増加が、それぞれ背景として考えられるとしています。
IQVIA日本法人の松田秀康・臨床開発事業本部長は「日本はもっと治験を実施できるはずなのにできていない。機会損失が大きいのが現状だ」と指摘。規制緩和はポジティブに働くと見る一方、「世界的に見ても特殊な運用が慣習的に残っている」(松田氏)ことがネックとなっていると話します。
日本特有の運用として挙げられるのが、▽国際標準となっている「フェアマーケットバリュー」とは異なる治験費用算定方法▽施設立ち上げの煩雑さ▽倫理審査委員会のあり方――などです。松田氏は「追加の投資が必要なくなれば治験のしやすさで日本は勝負できる。日本だけ余分な説明や余分な仕事をしなくてはならない状況を改善していく必要がある。グローバルスタンダードでオペレーションを回せるよう、治験をやる側、医療機関、規制当局が一緒になって変えていかなければならない」と話しています。