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「日本人P1原則不要」海外からすでにポジティブな反応…医師の働き方改革、治験効率化の契機に|ICON小川淳社長ら

更新日

前田雄樹

「ドラッグ・ラグ」「ドラッグ・ロス」の解消に向けた規制の見直しや医師の働き方改革など、環境変化のまっただ中にある日本の臨床試験。その現状と展望について、大手グローバルCRO、ICON(アイルランド)の日本法人、ICONクリニカルリサーチの小川淳社長とバイオテック向け事業を担当する石川順也IBT事業部長に話を聞きました。

 

 

規制見直し「日本はそんなことができるのか」

――昨年2月に「海外バイオテックの新薬開発を日本に呼び込むには―臨床開発の視点から」というテーマでお話を聞かせていただきました。それから1年ほどたちましたが、この間の治験をめぐる状況の変化をどのように見ていますか。

小川淳社長:PMDA(医薬品医療機器総合機構)がまとめている治験届件数の推移を見てみると、23年度上半期(10月末まで)は前年度の同じ時期に比べて大きく減少しています。国際共同治験の割合も前年度から2.5ポイント低下しました。海外バイオテックがグローバル開発から日本を除くという動きが、現実に大きな規模で進んでいるということは、データとしても見られます。

 

一方、良い方向の変化としては、PMDAが日本人での臨床第1相(P1)試験の実施に関する考え方を大きく変えたことが挙げられます。海外バイオテックに対して日本を含めた臨床開発を提案しやすくなっていますし、実際に興味を示す顧客もいます。ここは今後、プラスに働く可能性のあるファクターだと思っています。

 

――国際共同治験前の日本人P1試験については、昨年12月、「必要と考えられる場合を除き、原則として、日本人でのP1試験を追加実施する必要はない」との考え方が厚生労働省の通知で示されました。興味を示す顧客もいるとのことですが、どのような変化が見られますか。

小川:バイオテックの場合、米国の会社なら米国で、欧州の会社なら欧州で小規模な開発を行い、PoCが取れたらグローバル開発に進むのが一般的です。PoCが取れ、大きな試験をやろうとなったとき、これまでもその時点では必ずしも日本が外されていたわけではないんです。クライアントからは「日本も含めて検討して」と言われるんですが、この通知が出る前は「日本人のPKはありますか」と確認する必要がありました。当然、答えはノーですから、日本だけ追加のP1が必要になるなら除外して考えたほうがシンプルだよね、となることが多かった。通知が出たことで、日本人のPKがなくてもグローバル試験に入れるという前提で話ができるようになり、入口のところで「これはダメだ」と思われることがなくなったというのは大きな変化です。

 

――すでにポジティブな反応があると。

小川:そうですね。すでに引き合いがあるところはもちろん、これまで日本のことは諦めていたような企業にも積極的にアプローチを始めています。

 

日本の規制の変更についてはグローバルの営業担当者にもアピールしていますが、「日本はそんなことができるのか」と驚く人も少なくありません。依然として日本は特別と思われているところがあるので、まだまだ変えていく余地はあります。

 

ICONクリニカルリサーチの小川淳社長

 

薬効率化しなければ立ち行かなくなる

――今年に入り、CRO各社がドラッグ・ラグ、ドラッグ・ロス問題に対する取り組みを相次いで発表しています。ICONではどのようなことに取り組んでいますか。

小川:SMOとの役割分担を再定義できないかということで取り組みを進めています。

 

CRAは、臨床試験のモニタリングをするのが本来の仕事です。しかし、日本の場合は、他国でCRAの業務とはされないサイトマネジメントの仕事をすごくたくさんやっています。そのため、CRA1人あたりの仕事量として見たときに生産性が低くなってしまっている。サイトマネジメントはサイトに近いところで支援をしているSMOがやる方が理にかなっているし、そもそもそういう役割分担のはず。本来の定義に従って仕事の割り振りができないかということで、現在、パイロットを行っているところです。

 

都市部の拠点からCRAが医療機関に行ってサイトマネジメントを主導するというモデルは非効率。CRAが海外と同じような仕事をするようになれば、かかるコストも同じようになっていくのではないかと思うので、積極的に広げていたいと思っています。

 

――医療機関の意識改革も必要になりますね。

小川:医療機関も「CROがやるんでしょ」と思っている部分があり、再定義は簡単ではありません。ただ、日本が臨床試験の実施国として選ばれなくなってきているのはデータからも明らかなので、臨床開発に関わるステークホルダーと危機感を共有しながら協力していきたいです。

 

石川順也IBT事業部長:学会などの場でも、このままでは日本から治験がなくなってしまうと声を上げる医師が増えており、アウェアネスは上がってきていると思います。今月から医師の働き方改革も始まったので、関係者が協力して取り組み、着地点を探していくべきだと感じています。

 

――医師の働き方改革は治験の効率化が進むきっかけになりますか。

石川:効率化を目指して全体的な業務量をスリム化していかなければ立ち行かなくなると思います。例えば、今までクオリティに割いていた大きなエフォートをどう減らしていくのか、グローバルスタンダードにどう合わせていくかということを、医療機関と一緒にやっていくことが必要です。

 

小さな動きかもしれませんが、R&D HEAD CLUBが作成した同意説明文書の共通テンプレートを使うことで、施設ごとの細かなオプティマイズの要求をなくしていこうという動きも浸透しつつあります。そういったことを積み重ねていけば効率化を実現できるでしょうし、医師の働き方改革をそのチャンスにしたいですね。

 

小川:日本の治験に手間がかかる1つの大きな要因として、プロトコルなどで規定されていないことについて、規定してくださいという質問がとても多いことが挙げられます。通常の医療の現場の判断でやってくださいということに対しても、「こういうことが起こったらどうなるんですか」という質問が出てきて、それを追求することにとてつもないエフォートをかけている。働き方改革が進めば、そういった細かいところをすり合わせることに手間をかけられなくなってくるので、効率化が進む良いきっかけになればいいと思っています。

 

ICONクリニカルリサーチの石川順也IBT事業部長

 

薬バイオテック支援を強化

――ICONではバイオテック向けの臨床開発支援に力を入れています。

石川:日本では半年前にICONとPRAヘルスサイエンスが統合し、バイオテックの支援体制を構築してきました。今年はそれをさらにブーストしていこうということで組織づくりを進めています。

 

ICONは全世界で500以上のバイオテックにサービスを提供しており、アジア・パシフィック地域だけでも8000人の支援体制を構築しています。海外バイオテックの開発を日本に呼び込むには、グローバルと同じやり方でできることが大事であり、ICONグローバルの能力・経験を使ってサービスを提供する体制を整備しました。

 

日本について言えば、言語に依存しないタスクは他国のケイパビリティを活用することで、場合によってはコストカットもできるし、既存のリソースを使うことでスピーディーにサービスを提供できるようにしています。

 

これまでは「コストが高い」「プロセスが煩雑」といった理由で日本を敬遠する向きもありましたが、規制が変わって参入しやすくなってきている、状況は変わっているということを理解してもらえれば、海外バイオテックの参入意欲も高まってくるのではないでしょうか。

 

――小川さんはAMED(日本医療研究開発機構)の革新的先端研究開発支援事業インキュベートタイプ(LEAP)でプログラムオフィサーも務めていますね。

小川:日本はメディカルサイエンス領域の基礎研究はとても進んでいる一方、製品にして世に出していくというところが、ノウハウがないというのもありますし、心理的な抵抗を感じる研究者も少なくありません。ただ、イノベーションはビジネスと紐づくことで大きく進展する側面もある。私は実務の観点から、研究成果を製品として世に出すにはどうしたらいいか、どういうデータがあれば資金の獲得やライセンス・提携につながりやすいかといったところをお手伝いしています。

 

日本からもまだまだ新しい薬やメディカルソリューションを出していくことはできると思うので、国としてもこういう取り組みは続けてもらいたいですし、私としても微力ながらできる限りお手伝いしたいと思っています。

 

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