先月のコラムでは、今の職場に移って1年たったということで、この1年の仕事に対する考え方や私自身の変化について書きました。社内外のいろんな方からフィードバックをいただけて、とてもありがたかったです。記事では私が関わる「アドボカシー活動」について「『仲間を増やす』ことで私たちが考える社会課題の解決に向けた影響の輪を広げる『活動』」と書きましたが、どんな仕事でも仲間の輪を広げていくことに本質があるのかもしれないと感じました。
話は変わりますが、私の前職は製薬企業ではなく、製薬企業に対してデータやその分析を提供する外資系企業(Evaluate Japan)にいました。その会社は日本では「知る人ぞ知る」的な会社だったので、認知を高め、その輪を広げる1つの方法として休眠状態だった社の公式X(当時はTwitter)アカウントを復活させて自らつぶやき担当になりました。公式アカウントでは、会社が持つデータや発行したレポートなどを取り上げ、自社のCapabilityや関心の方向性などを発信しつつ、その意図や意味を実名の個人アカウントで解説するスタイルを基本に運営していました。
以前、このコラム(「称え合い、励まし合い、手を取り合おう」)でも書いたことがありますが、私が発信をする上で意識しているのは、「意味のあることをやる」と「継続する」の2つです。当時の私にとって「意味のあること」はフォロワーの皆さん(やフォロワーになっていただきたい製薬業界の方々)に有益な情報をお届けすることであり、私が気になったニュースや皆さんが興味を持つであろうニュースは、それが「◯◯製薬の良いニュース」でも「◯◯薬品の悪いニュース」でも投稿していました。振り返ると気楽なものだったなと思います。
やり続ければ何かが起こる
私は今も実名でXをやっていますし、このコラムも所属を明らかにして書いています。もちろんこれは会社の許可を得た上でのことなのですが、「アステラス製薬の黒坂宗久」になって感じるのは、「書けること」「書けないこと」の線引きを強く意識するようになったことです。同業他社のことにはほとんど言及できなくなりましたし、もちろん自社のこともほとんど書けません。これは良いとか悪いとかいう話ではなく、まあ致し方ないことなんだと思っています。
先述のコラムでも、またこちらのコラム(「製薬協のツイッターアカウントに期待したい」)でも、製薬業界や製薬企業が社会に向けて発信することの大切さを書いてきましたが、製薬企業の社員になってみて、それは言うほど簡単なことではかったんだなと感じています。
ただ、だからと言って何かを諦めたのかというとそうではなく、軸を持ってやり続けていれば何かが起こるのではないかと考えています。「意味のあることをやる」「継続する」という2つの軸は変わらず、製薬業界や製薬企業がもっともっと社会に対して発信していくことが大事だという思いも変わっていません。
窮屈さと、広がりゆく世界と
製薬企業の中にいるからこそ、アドボカシーという活動に関わっているからこそ見聞きし、感じられることを発信していくことは意味あることだと思っています。
一方、社内に目を転じると、社内SNSのようなものがあり、世界中の1万4000人を超える社員が「ああでもない、こうでもない」と意見を交わしています。それぞれの社員には家族や友人・知人がいて、その先には彼ら・彼女らが生活する地域社会が広がっている。この仕事をしているおかげで、業界、政治、行政、アカデミアなどいろいろな方と関わることができるようになりました。そう考えると、私がリーチできる世界は前職と比べると格段に広がっているのではないかと思ったりもします。
ある種の窮屈さ(それが悪いことだとは思っていません)と、広がりゆく世界を感じつつ、私なりに意味のある発信を続けていけたらと思っています。それが、製薬業界をとりまく社会課題の解決に少しでもつながると信じて。
※コラムの内容は個人の見解であり、所属企業を代表するものではありません。
黒坂宗久(くろさか・むねひさ)Ph.D.。アステラス製薬アドボカシー部所属。免疫学の分野で博士号を取得後、約10年間研究に従事(米国立がん研究所、産業技術総合研究所、国内製薬企業)した後、 Clarivate AnalyticsとEvaluateで約10年間、主に製薬企業に対して戦略策定や事業性評価に必要なビジネス分析(マーケット情報、売上予測、NPV、成功確率、開発コストなど)を提供。2023年6月から現職。SNSなどでも積極的に発信を行っている。 X:@munehisa_k note:https://note.com/kurosakalibrary |