伊キエジのジャコモ・キエジ取締役希少疾患事業部門長
イタリアの製薬企業キエジが、塩野義製薬から脂肪萎縮症治療薬「メトレレプチン」を承継し、日本での自社販売を開始しました。これを皮切りに、希少疾患に焦点を当てた事業展開で日本市場を開拓していく考えで、2030年に売上高100億円を目指します。
塩野義からメトレレプチン承継、自社販売を開始
キエジは1935年設立の同族企業。非上場のメリットを生かし、こだわりを持った研究開発を展開しています。事業は「呼吸器」「希少疾患」「スペシャリティ」の3部門で構成。23年の全社売上高は30億ユーロ(約5100億円)で、喘息・慢性閉塞性肺疾患治療薬2製品が牽引する呼吸器部門が56%を占めています。
希少疾患の事業部門を立ち上げたのは19年とまだ歴史は浅いものの、その直後からM&Aやパートナリングを展開。「先天性代謝異常」「内分泌代謝疾患」「免疫・皮膚・眼」の3領域ですでに10製品を販売しています。23年の部門売上高は5.4億ユーロで全体の18%ですが、24年は7.5億ユーロで24%まで拡大させる計画。今後5年間で売り上げを2倍に引き上げる考えで、中期的に15億ユーロの規模まで事業を成長させることを目指しています。
欧州で事業を開始し、その後、米国に活動を広げたキエジは、22年11月に日本法人を設立。7月にメトレレプチンを承継し、本格的に事業を開始しました。ジャコモ・キエジ取締役希少疾患事業部門長は日本参入の背景として、医薬品市場が長期にわたり安定していることや、薬事プロセス、患者へのアクセス、保険償還が「予測可能」であることを挙げます。
導出先通じ2製品が発売
もっとも、日本法人設立以前から同社製品は日本での承認実績があり、他社を通じて2製品が販売されています。1つはアデノシンデアミナーゼ(ADA)欠損症治療薬「レブコビ」で、19年5月に帝人ファーマが発売。同疾患に対する国内初の治療薬で、ピーク時の予測投与患者数はわずか8人というウルトラオーファンドラッグです。もう1つはホモ接合型家族性高コレステロール血症「ジャクスタピッド」で、キエジと同じイタリアのレコルダティが販売しています。
日本での自社販売第一弾となったメトレレプチンは、国内では塩野義が米アミリンから導入し、13年から販売を続けてきました。キエジは23年4月に同薬を保有していた米アムリットを買収し、権利を獲得。直ちにマーケティングやメディカル部門の人材を手配し、自販体制を整えました。
2030年に売上高100億円目指す
欧米で10製品を販売する希少疾患薬のうち、メトレレプチンを含む3製品は日本でも販売済みですが、残る7製品のうち数品目は開発中または開発の検討段階にあります。最もステージが進んでいるのはファブリー病治療薬の「エルファブリオ」で、後期臨床試験を実施中。ペグ化によって血中濃度を安定的に保てるのが特長としています。
レーベル遺伝性視神経症を対象疾患とする「ラキソン」の成分は、かつて存在した脳循環代謝改善剤「アバン」と同じイデベノン。「安全性が確保されているため、広く使われるのではないか」(日本法人キエジ・ファーマ・ジャパンの中村良和社長)と見ています。この疾患はミトコンドリア病のひとつで、患者数は推定1万人弱。同1000人程度の表皮水泡症治療薬「フィルスベッツ」とともに開発戦略を検討中です。
継続的に製品投入、体制は少数精鋭基本に
鎌状赤血球症と地中海貧血の2つの適応を持つ「フェリプロックス」は、国内でも症例が見られ始めたため、リポジショニングも含めて開発を検討しています。これら今後の上市予定製品も自販する考えで、現在9人の社員数は少数精鋭を基本に見直していきます。
希少疾患は約1万種類あり、その95%は治療法が確立されていないと言われます。こうしたアンメットニーズの充足に向け、治療薬の市場は2桁成長がしばらく続くとみられています。キエジは日本市場でも継続的な製品投入を続け、「30年の目標値として100億円」(ジャコモ・キエジ氏)を見据えています。
ドラッグラグ/ロスの解消に向け政府が薬価制度をはじめさまざまな政策を進める中、大手製薬企業も希少疾患薬の開発・販売に乗り出しています。キエジは世界的には中堅ですが、希少疾患に絞って進出した日本でプレゼンスを高めたい考えです。