1. Answers>
  2. AnswersNews>
  3. 連載・コラム>
  4. 国の「創薬力強化策」製薬企業の研究者はこう読んだ|コラム:現場的にどうでしょう
連載・コラム

国の「創薬力強化策」製薬企業の研究者はこう読んだ|コラム:現場的にどうでしょう

更新日

ノブ

5月22日、政府の「創薬⼒の向上により国⺠に最新の医薬品を迅速に届けるための構想会議」が議論の中間とりまとめを公表しました。その内容は今年の「経済財政運営と改革の基本方針」(骨太の方針)に盛り込まれ、今後、関連省庁の政策に反映されていくことになります。

 

創薬力とは結局何なのか

SNSでこれに対する反応を眺めていたところ、内容そのものもよりも「創薬力」という言葉のほうが話題になっていたように思います。中間取りまとめの冒頭で「創薬力とは何か」について書かれている部分を引用します。

 

創薬⼒は、基礎研究、応⽤研究から⾮臨床試験 、臨床研究に⾄るまで、その国の幅広い研究開発能⼒が試される。また、特に新規モダリティについては研究開発実施の際の候補物質や治験薬の製造能⼒も重要となってくる。これらのみならず、ある程度経済⼒があり、公的医療保障制度が整備された国でなければ新薬が使われにくいし、⾼い能⼒の審査機関が必要、という意味で社会制度や規制の影響も無視できない。国全体として複数の専⾨性にまたがる⼈材が必要であるし、⺠間も、研究初期から上市まで⽀援‧実施できる幅広い関連産業の存在も不可⽋。いわば、創薬⼒は国としての総合⼒が試される分野である。

 

私の理解力では創薬力とは何なのか分かりませんでした。そもそも創薬とはdrug discoveryであり、「創薬力」という言葉に何でもかんでも入れ込んでしまっていることが曖昧さや分かりにくさを生んでいるように思います。

 

会議の名称から考えると、議論のゴールは「国民に最新の医薬品を迅速に届ける」ことのようです。しかし、最新の医薬品の研究開発を日本で行っているのは国内の企業だけではありません。中間とりまとめは戦略目標の1つに「治療法を求める全ての患者の期待に応えて最新の医薬品を速やかに届ける」とうたっていますが、これを日本企業だけで実現するのは不可能です。そういう意味では、ここで言う創薬力には海外企業のそれも含まれるはずですが、それは「我が国の創薬力」なのでしょうか。

 

日本のdrug discoveryの能力を上げることと、日本の国民に最新の医薬品を迅速に届けることは、重なる部分もありつつ別の問題だととらえるべきです。日本発の新薬も日本で開発・販売されなければ国民には届きませんし、逆に海外発の新薬でも早く届くなら患者にとってはそれで良いわけです。創薬力なるものの向上と、ドラッグ・ラグ/ロスの問題がごっちゃになっている印象を受けました。

 

日本の創薬力は低下しているのか

探索研究によって新薬を創出できる国は世界的に見てもごく一握りで、日本はその数少ない国の1つです。しかし近年、日本企業発の新規薬剤が減っているという事実があり、その要因として抗体やその他バイオロジカルモダリティの波に乗り遅れたという指摘がなされます。

 

確かにそのような過去はあったかもしれませんし、そこは(私を含め)日本の企業が反省すべき点です。ただ、最近ではさまざまなモダリティを駆使した研究成果が新薬候補品として日本企業からいくつも報告されるようになってきています。drug discoveryという意味で言えば、世界的に見て飛び抜けているわけではないものの、それほど悪くないのではないかと私は考えています。

 

一方で、ベンチャー企業が育ちにくいという問題は、ベンチャーキャピタルの数や規模も含めて課題がありそうです。

 

「国民に最新の医薬品を迅速に届ける」ことを考えると、外部(海外含めて)から導入した新薬候補を自社のものとして上手に仕上げていく力は、欧米の企業と比べて日本企業には不足しているように感じます。自社の強みと言える何かと上手くマッチさせることができる製品を見出すような能力がもっと必要だと思われます。

 

創薬力を発揮したくなる国に

drug discoveryの能力を高めていくことが重要なのは言うまでもなく、企業も努力を続けていく必要があります。国に望むのは、そうして磨いた創薬力を日本で発揮できる/したくなるような環境を作ってほしいということです。先にも書いた通り、日本企業の新薬を生み出す力が上がったとしても、日本で開発されなければ、あるいは日本を後回しにされれば、国民に迅速に届くことはありません。

 

その点で、中間取りまとめに薬価に関する踏み込んだ言及がなかったのは残念です。

 

製薬企業も営利企業である以上、利益が期待できない市場で新薬を開発・販売することに根拠はありません。特に日本は臨床開発にかかるコスト(資金、リソースともに)が高いと言われます。薬事規制の面では昨年末、国際共同治験前の日本人P1試験について「原則として追加実施する必要はない」との考え方が厚生労働省から示され、ほかにも効率化に向けたさまざまな動きが出てきています。臨床開発のコストを下げる取り組みには期待しますが、薬価の面からも「日本にはぜひ迅速に新薬を届けたい」と思わせるような動きが必要です。

 

そうした状況にも関わらず、与党の政治家から「薬価維持には国⺠の理解が必要で、製薬業界は説明をすべき」「業界としてお願いするぐらいの気概がなければ、国⺠の理解は永遠に得られない」といった発言が出ているのは気がかりです。

 

ドラッグ・ラグ/ロスを招いたのは、はっきり言って国の政策のミスです。業界はずっとずっと薬価の問題を訴えてきました。国として「創薬力を上げよう」「ラグ/ロスを解消しよう」と言うのなら、国が責任を持って国民に理解を求めていくべきではないでしょうか。国が言う「創薬力」とは理解を得るために頭を下げる能力のことなのかとグチの一つも言いたくなります。

 

とにかく、日本にとって急務なのは、研究、開発、販売の各ポイントで薬剤を届ける側の意欲や興味を削いでいるような状況を排除し、日本に薬を届けたいと思わせるような環境を整えていくことではないでしょうか。そしてその対象には、国内外どちらの製薬企業も含まれるはずです。

 

そのために、われわれ製薬企業にいる人間は、新薬の研究開発の能力を磨き続けるとともに、何がネックになっているのか、どう変えていったらいいのか、積極的に発信していく必要があると思います。遠くから文句を言っていても何も変えられません。私たちができることはきっとあるはずです。

 

ノブ。国内某製薬企業の化学者。日々、創薬研究に取り組む傍らで、研究を効率化するための仕組みづくりにも奔走。Xやブログで研究者の生き方について考える活動を展開。
X:@chemordie
ブログ:http://chemdie.net/

 

あわせて読みたい

メールでニュースを受け取る

  • 新着記事が届く
  • 業界ニュースがコンパクトにわかる

オススメの記事

人気記事

メールでニュースを受け取る

メールでニュースを受け取る

  • 新着記事が届く
  • 業界ニュースがコンパクトにわかる