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ニュース解説

大正製薬 OTC傾注を象徴する内蔵脂肪減少薬「アライ」の発売

更新日

穴迫励二

大正製薬が4月8日に一般用医薬品(OTC)の内臓脂肪減少薬「アライ」を発売します。医療用で使用経験のない成分を直接、製品化したダイレクトOTCで、脂肪を減らす医薬品は国内初。肥満症治療薬が世界的に注目を集める中、社会的な関心も高く、セルフメディケーション事業に傾斜する同社の事業構造を象徴する製品となりそうです。

 

 

医療用経ず「セルフメディケーションに適した製品」

アライの開発期間は16年というOTCとしては異例の長さになりました。2008年に英グラクソ・スミスクライン子会社と導入契約を結びましたが、臨床試験に入るまでに3年ほどかかっています。同社は、規制当局との間で開発計画に関する議論に時間を要したことが理由だとしています。

 

臨床試験は11年から17年にかけて計6本を実施。それらの結果をもとに19年に承認申請しましたが、審査期間は約4年に及びました。OTCの内臓脂肪減少薬というまったく新しいカテゴリであり、「なぜ医療用として開発しないのか」「OTCとすることで国民にどのようなメリットがあるのか」「セルフメディケーションの中で適正使用できるのか」といった指摘に対して関係者と慎重に調整を重ねた結果だとしています。

 

3月4日に開かれた記者発表会では、開発担当者の藤田透氏とマーケティング本部長の宍戸正臣氏が製品の特徴をアピールした

 

ダイレクトOTCとして開発したことについて同社は、医療費適正化につながるセルフメディケーションの推進に適した製品だと判断したと説明。ただ、医療用での使用経験がないままOTCとして発売すること自体、きわめてハードルが高く大きなチャレンジだったと言います。同社としては、22年前に発売した発毛剤「リアップ」に続いて2つ目のダイレクトOTCです。

 

臨床試験では、52週間の投与で内臓脂肪面積が21.52%減少しました。腹囲は4.89%(実測値で4.73センチ)減。購入に際して必要な服用12週間前からの生活習慣改善で約2%の減少が見られることから、同社はこれを含めるとアライのポテンシャルとしては7%減と見ることができるとしています。有効成分であるオルリスタットは、海外では広く医療用の抗肥満薬として販売されています。

 

医薬事業、停滞抜け出せず

大正製薬はアライについて、セルフメディケーション事業(OTCなど)の主軸の1つとして成長することを期待しています。その結果、もう1つの柱である医薬事業(医療用医薬品)との業績の格差は一層拡大しそうです。

 

セルフメディケーション事業の業績はここ数年、右肩上がりで、23年度の売上高予想は2770億円と大正製薬ホールディングス(HD)全体の87%を占めます。同事業では近年、海外展開に力を入れており、海外売上高は19年度の694億円から23年度は1400億円へと4年で倍増する見込みで、初めて海外が国内を上回りそうです。この間、19年7月に米ブリストル・マイヤーズスクイブの傘下にあった仏UPSAを約1700億円で買収し、同年2月には資本業務提携関係にあったベトナムのDHGを株式公開買い付けによって子会社化するなど、M&Aにも積極的に投資してきました。

 

【大正製薬HDセルフメディケーション事業の売上高推移】〈年度/国内/海外〉19/1378/69420/1230/91721/1279/100322/1345/126723/1349/1400|※23年度は予想。大正製薬HDの決算発表資料をもとに作成

 

一方の医薬事業は停滞から抜け出せません。18年度からの業績の推移を見ると、22年度を底に下げ止まったように映りますが、23年度の増収予想は中外製薬と共同販売していた骨粗鬆症治療薬「ボンビバ」が単独販売に切り替わったことが主要因。昨年度、一昨年度に続いて23年度も営業利益は赤字の予想で、昨年9月には医薬事業を中心に早期退職(645人が応募)を行いました。

 

大正製薬HDの上原茂副社長は昨年11月の決算会見で、現在のパイプラインも含めて医薬事業を大きく伸ばす体制にはないことを示唆。「社内では早期退職補のストーリーは考えている」としながらも、「まだ現場ですり合わせができない部分もある」と詳細は明かしませんでした。まずは人員削減で財務の改善が進みますが、その後の方向性は見えていません。臨床第2相試験以降の段階にある新薬候補は、国内と海外をあわせて3品目にとどまります。

 

【大正製薬HD事業別売上高】〈年度/セルフメディケーション事業/医薬事業〉18/1,691/75019/2,098/63420/2,171/50921/2,297/38522/2,637/37723/2,770/420|※23年度は予想。大正製薬HDの決算発表資料をもとに作成

 

医薬事業は売り上げ全体の1割に

両事業の売上高を比較すると、13年度はセルフメディケーション事業1818億円に対して医薬事業1142億円と6対4の比率でしたが、足元ではおよそ9対1と圧倒的な差がついています。それぞれの主力製品を見ても、医薬事業トップのSGLT2阻害薬「ルセフィ」はセルフメディケーション事業の3番手であるリアップとほぼ同額です。

 

【大正製薬HD事業別売り上げ上位3製品】〈薬品名/売上高〉リポビタン/540/パブロン/240/リアップ/130/ルセフィ/133/ボンビバ/100/ビオフェルミン/48|※23年度は予想。大正製薬HDの決算発表資料をもとに作成

 

大正製薬HDは、MBO(経営陣による買収)によって、アライ発売の翌日(4月9日)に上場廃止となる予定で、24年度以降は業績の詳細が開示されない見込みです。肥満関連製品への注目度は極めて高くなっており、医療用では肥満症治療薬「ウゴービ」が2月に日本でも発売されましたが、OTCも一定の需要を散りこむことになりそうです。

 

アライの価格はお試し用の18カプセル(6日分)が2530円、90カプセル(30日分)は8800円。「要指導医薬品」のため薬剤師による対面での情報提供が必須で、購入には一定の条件がありますが、大正製薬の事業構造をよりセルフメディケーション事業中心へと導く新製品となりそうです。

 

AnswersNews編集部が製薬企業をレポート

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