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目論見外れた米国進出…子会社売却で撤退のサワイGHD、価格競争生き残れず

更新日

穴迫励二

サワイグループホールディングス(GHD)が、2017年に買収した米子会社アップシャー・スミス・ラボラトリーズ(USL)を台湾企業に売却し、米国事業から撤退することを決めました。業績が低迷する中、課題山積の日本事業に投資を優先させるという判断の結果です。市場参入から6年あまり、当初目指した経営の柱に成長させるという目論見は外れました。撤退までの経緯を振り返ります。

 

 

1155億円で買収も業績は低迷

サワイがUSL買収を発表したのは17年4月。国内後発医薬品市場の成長に陰りが見え始める中、米国に新たな収益源を求めて大型投資に踏み切りました。買収額は1155億円で、当時のサワイの売上高1324億円(17年3月期)に匹敵する規模。その前年には日医工が米セージェントを買収していち早く米国進出を果たしており、サワイもM&Aで時間を買うことにしました。日医工は昨年、セージェントを売却して一足先に北米市場から撤退しましたが、結果的にサワイもそのあとを追う形になりました。

 

【後発品大手3社の海外市場進出】日医工/2016年米セージェント買収。22年3月期北米事業の減損損失などで1億円の最終赤字。売却・撤退。|サワイGHD/2017年米USL買収。22年3月期米国事業の減損損失などで283億円の最終赤字|東和薬品/2020年スペイン・ペンサを買収|※各社のプレスリリースなどをもとに作成

 

日医工がバイオシミラー主体の事業展開を目指したのに対し、サワイは武器とする知財戦略で競争優位性を保つ考えでした。USLの会長には、当時沢井製薬の専務だった澤井建造氏(現・沢井製薬副会長)が着任。USLの親会社サワイ・アメリカには住友商事の米子会社が20%出資しました。

 

計画未達続く

USLの運営は当初から順風とはいきませんでした。買収後初の決算となった18年3月期は、売上収益、営業利益ともに予想を上回ってスタート。しかし、卸・薬局の統合によって誕生した3大購買グループがバイイング・パワーを強める一方、米市場は全体として供給過剰の状態にあり、各社が承認取得した後発品のうち発売できたのは1割にとどまるなど、市場環境にはすでに厳しさが見られていました。

 

続く19年3月期は、競合品の参入が既存品で遅れたものの、新製品では想定より多くなり、トータルで売上収益は前期比20.7%増。ただ、営業利益は期初予想の27億円に対して15億6800万円と未達に終わりました。このタイミングでサワイは、通常の後発品は利益貢献度が低いとし、製剤や用法・用量で差別化した「ブランド品」や競合の少ない領域を強化していく方針を打ち出しましたが、その後も利益が計画に届かない状況が続きました。

 

先行きに不安が出てきたのは21年3月期です。印ドクター・レディーズ・ラボラトリーズから導入した新製品の片頭痛治療薬「トシムラ」が伸び悩み、55億7200万円の減損損失を計上しました。新型コロナウイルス感染症の影響で十分な営業活動ができず、競合品の参入もあって同薬の収益見通しが悪化。期待のブランド品でしたが、競争が厳しい米国で成功を収めることができませんでした。

 

【サワイGHD 米国事業の業績推移】〈年.月期/売上収益/コア営業利益〉18.3/333/67|19.3/402/96|20.3/384/79|21.3/336/38|22.3/300/-7.08|23.3/366/16|24.3/367/36|※サワイGHDの決算発表資料をもとに作成

 

巨額減損で最終赤字

21年5月に策定した中期経営計画では、経営の3本柱の1つに「米国事業における将来の成長に向けた事業投資」掲げました。競争激化によって後発品の価格は引き続き下落すると見込む一方、新製品の収益拡大でこれを相殺する算段でしたが、目論見はすぐに崩れます。

 

22年3月期は、主力としていた3製品の売り上げが4割減となるなど、円安が進む中で売上収益は10.9%減少。これを受けて米国事業の収益性を再検討したところ、688億円の減損損失を余儀なくされました。HD全体でも385億8800万円という巨額の営業赤字を計上。282億6900万円の最終赤字に沈みました。

 

赤字となる業績予想の修正を発表したのと同時に、経営責任を明確化するためHDの役員報酬の減額も実施。取締役全員が21年度の賞与を全額返上し、22年7月~23年6月の月額報酬も12分の1~12分の6減額しました。さらにその1年後には、米国事業を率いてきた澤井健造氏が、HDの副会長と沢井製薬の社長を退いています。

 

【サワイGHDの業績推移】〈年.月期/売上収益/コア営業利益〉18.3/1,681/222|19.3/1,843/258|20.3/1,825/268|21.3/1,872/189|22.3/1,938/-359|23.3/2,003/170|24.3/2,172/151|※サワイGHDの決算発表資料をもとに作成

 

品質不正で立て直し優先

業績回復を図った23年3月期は、黒字転換こそ果たしたものの、ドルベースの売上収益は1.4%増と前期から横ばいで着地。決算資料では「ジェネリック医薬品市場の混乱の中でも収益を拡大させる」と意欲を示し、トシムラなど主力品の価格と数量を増大させるなどの施策を講じる考えでしたが、その後まもなくトシムラの権利と関連資産を米国企業に2500万ドルで売却しました。

 

同年1月には、米ミネソタ州メープルグローブの新工場が商用生産を開始。年間400~600万ドルのコスト削減を見込むとともに、米国事業の安定化に向けて新たにCMOビジネスを拡大させる計画でした。さらに11月には、沢井製薬が開発してUSLが販売する初の製品となる「ピタバスタチン錠」を発売。先発品の特許に法的強制力がないと判断して「パラグラフIV」を宣言し、ほかの後発品より早く発売して180日間の市場独占を狙っていました。

 

HDの澤井光郎社長は4~9月期決算会見で「売上収益は年間計画に対して順調に推移している。コア営業利益も当初計画を上回る進捗」と説明。記者からの質問にも「現在の事業構造改革がうまくいけば、今後も(米国事業を)継続していきたい」と答えていました。しかし、10月には国内で胃炎・胃潰瘍治療薬テプレノンの品質不正が明らかになり、立て直しに向け日本事業への投資を優先せざるを得ない状況になりました。

 

勝ち抜ける見込みがどこまであったか

米国事業の収支はどうなるのでしょうか。公表されている資料から拾えるのは、買収価格1155億円と売却で手にする295億円、18年3月期からの米国事業のコア営業利益計288億円です。単純計算すると570億円程度の損失となります。詳細な金額はともかく、サワイGHDの企業規模からすると小さい額ではありません。

 

ある投資コンサルタントは「USLに対するデューデリジェンス(投資先の価値やリスクなどを調査すること)は十分だったのか」とし、M&Aそのものが目的化していた可能性を指摘しました。米国市場での厳しい価格競争を勝ち抜ける見込みがどこまであったかも疑問だと言います。

 

事業ポートフォリオを見直し

サワイGHDは現在、国内の後発品ビジネスでさまざまな課題に直面しています。

 

最近の新製品では、先発品企業から相次いで特許侵害の訴えを受け、骨粗鬆症治療薬テリパラチド(先発品名・テリボン)と抗がん剤ダサチニブ(スプリセル)には製造販売差し止めの仮処分命令が出されました。ほかにも糖尿病治療薬シタグリプチン(ジャヌビア)やウィルソン病治療薬・低亜鉛血症治療薬の酢酸亜鉛水和物(ノベルジン)で特許係争を抱えており、強みとしてきた特許調査力・分析力に陰りが見られます。

 

テプレノンの不正で明らかとなった品質体制の立て直しと信頼回復も急がなければなりませんし、国内での需要増への対応も必要です。

 

今後は日本事業に経営資源を優先投資することになり、全社的な事業ポートフォリオの見直しを進めています。30年までの長期ビジョンで掲げる数値目標(売上収益4000億円)の再設定を含めた24年度からの新たな中期経営計画は、今年6月に公表される予定です。

 

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