製薬業界のプレイヤーとして存在感を高めるベンチャー。注目ベンチャーの経営者を訪ね、創業のきっかけや事業にかける想い、今後の展望などを語ってもらいます。
今回訪ねたヘカバイオは、海外ベンチャーから革新的な医薬品・医療機器を導入し、日本で開発するスタートアップ企業。独自のパートナーシップモデルで、ドラッグ・ラグ/ロス、デバイス・ラグ/ロスに挑んでいます。
ロバート・クレア 1987年に米イェール大を卒業後、来日し、90年に三和総合研究所(現三菱UFJリサーチ&コンサルティング)に入社。アナリストとして国内外の医療制度・政策に関する研究に携わる。92年に医療分野専門の市場調査・コンサルティング会社「Junicon」、2013年に医療機器CRO「Vorpal Technologies」を設立し、経営に携わったあと、16年11月にヘカバイオを創業。 |
海外ベンチャーの「悩み」解決する提携モデル
――ユニークなパートナーシップモデルで事業を展開しています。
私たちは導入型バイオベンチャーですが、一般的に言われるそれとは異なります。
導入型バイオベンチャーは普通、外部からライセンスインした製品候補を自分たちで開発して承認を取得します。一方、私たちは導入品の開発は行いますが、承認ホルダーは開発元の海外ベンチャーです。医薬品医療機器等法の海外特例承認を活用して開発元が自らの名前で承認を取得し、私たちは選任製造販売業者として法令で定められた品質管理や安全管理を担います。販売権も取得しますが、そこはわれわれの役割ではないと思っているので、適切なパートナーを探します。これが基本的なコンセプトです。
なぜこのような形にしているのかというと、そのほうがパートナリングしやすいからです。開発元としては将来の可能性を手放したくないので、「こちらで開発して上市準備までやりますし、選任製販として規制対応をします。でも承認ホルダーはあなたです」となれば説得しやすい。日本の医薬品・医療機器の市場は世界的に見てもまだ大きく、日本で自社の名前で承認を取得できれば企業価値も上がるし、アジア参入のゲートウェイにもなります。
世界的にベンチャーなど規模の小さい会社から生まれるイノベーションの割合が増えていますが、そういう会社は日本市場への入り方がわからない。一方で、自分たちの将来は自分たちでコントロールしたいと思っている。私たちは、販売権についても事前合意によって開発元が買い戻せるようにしています。開発元がM&Aでイグジットしようとしたとき、日本の販売権も一緒に売却できるようにするためです。
日本参入の難しさを軽減しつつ、開発元が将来の可能性をキープできるようにすることで、革新的な医薬品・医療機器を日本に早く導入し、ラグ/ロスの解決に働きかけることができると考えています。
――どのようにしてこのビジネスモデルにたどり着いたのですか。
私は米国のミシガン生まれ、オハイオ育ちで、イェール大を出て日本に来ました。最初に入った三和総研では研究員として主に医療分野の調査を担当し、日本の医療システムについて勉強し、刺激を受けました。
特に、日本の医師たちがすごく真面目に臨床に取り組んでいることには感動しました。そこから全国の病院を回ってキーオピニオンリーダーと言われる医師たちとミーティングをするようになったのですが、彼ら・彼女らに話を聞くと、国際学会で寂しい思いをするんだと言うんです。学会で先進的な医療技術に関する発表を聞いても、日本には入って来ない、日本では研究できない。日本の医師たちがそういうもどかしい気持ちを持っていることを知り、どうやったら革新的で日本の患者や医師のニーズに合う医薬品・医療機器を日本に導入できるのか、ということをテーマとして持つようになりました。
その後独立し、医療分野専門の市場調査・コンサルティング会社を1992年に設立。主に海外の大手企業からプロジェクトを受注していましたが、イノベーションの主体がベンチャー企業に移る中、大企業を相手にする仕事は自分のミッションではないと思い、2012年に売却しました。
そこから海外ベンチャーの日本参入の成功例と失敗例を分析し、海外企業にヒアリングをして悩みや考えを聞きました。そこでわかったのが、海外ベンチャーはとにかく自分の将来を自分でコントロールしたいと思っている一方、薬事面での難しさを感じているということでした。そうした悩みを解消できるシンプルな解決策として、このようなモデルを構築したんです。
投資・開発・商業化で収益
――収益はどのようにして上げているのでしょうか。
ヘカバイオは3つの収益源を持っています。
1つ目は、国内販売権をもらう対価として開発元の海外ベンチャーに投資し、そのリターンで収益を上げる投資収益です。私たちは現在、9つの案件を開発していますが、そのうち3つで開発元がすでに上場しており、われわれの目利き力が良ければアップサイドが期待できます。
2つ目は開発収益です。われわれはCROではありませんが、開発元から薬事・臨床開発の費用としてお金をもらっています。3つ目はコマーシャライゼーションの収益で、輸入元として販売パートナーに製品を販売して収益を得ます。
――提携先はどう開拓していますか。
われわれ自身は小さい会社であり、それほど資金があるわけではないので、お金では大企業と競争できません。ネットワークを生かして早く話をすることが重要で、PoC取得後の早い段階で資金需要のある会社があれば説得しやすいです。
私たちは、独自のネットワークを通じて世界中から集まる案件を年間200件ほど見ており、そこから疾患領域、日本でのニーズ、既存ポートフォリオとの親和性をもとにフィルタリングし、予測される成功確率なども考慮して提携先を選んでいます。
フォーカスしている領域は、グローバルで新規性の高いものが活発に開発されているオンコロジー、循環器、神経内科、眼科の4つ。医薬品も医療機器も再生医療も診断薬もデジタルヘルスも全部見ています。現在のポートフォリオは、医療機器が7つ、医薬品と再生医療が1つずつ。今後は毎年3つずつ増やしていき、数年後には倍にしたいと思っています。
2年で5製品の上市見込む
――昨今、ドラッグ・ラグ/ロスやデバイス・ラグ/ロスが問題になっていますが、海外のベンチャー企業は日本市場をどう見ていますか。
参入したいと思ってはいるようです。ただ、知識がアップデートされないまま「日本の薬事は遅い」と思っている人もいるし、「遠いしよくわからない」という人もいる。いずれにしても啓蒙活動が必要です。
どこの会社も米国をまず狙います。その次はどこかというと、今までは欧州でしたが、制度変更によって欧州も難しくなっています。最近は中国を考える会社もありますが、リスキーだという評判になっています。一方、日本は制度的にやりやすくなってきているし、信頼できるアジアのスタートポイントということで評判もいい。ただ、どうやって入ればいいかわかる人が少ないので、そこはわれわれも詳しく説明をしています。
われわれの仕事に終わりはありません。国内未承認薬は増えているし、医療機器の新規承認数も減少しています。イノベーションの主体となったスタートアップは日本のことを知らない、あるいは日本のことを考える余裕がなく、ギャップはどんどん大きくなっています。そういう会社を早めにキャッチして、われわれのモデルを使って日本に呼び込みたいです。
――会社の将来についてはどのような展望を描いていますか。
ポートフォリオのうち、Alpha Tau Medical(イスラエル)から導入したアルファ粒子線によるがん治療機器「Alpha DaRT」は、昨年11月にPMDA(医薬品医療機器総合機構)への承認申請を済ませました。今後2年間で5つのプログラムが上市に至ると見込んでいます。
IPO(新規株式公開)に向けた準備も進めており、2025年末までには上場できるのではないかと考えています。社員は現在12人ですが、自社で販売を行うことはないで最大で40人くらいいれば十分だと思っています。