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ゼロから5年で治験入り「細胞の力、最大化に挑戦」―メトセラ・野上健一CEO|ベンチャー巡訪記

更新日

亀田真由

製薬業界のプレイヤーとして存在感を高めるベンチャー。注目ベンチャーの経営者を訪ね、創業のきっかけや事業にかける想い、今後の展望などを語ってもらいます。

 

今回訪ねたメトセラは、自家心臓由来線維芽細胞とカテーテルを組み合わせた心不全治療を開発する再生医療ベンチャー。慢性虚血性心不全を対象とする第1相医師主導治験を行っています。

 

野上健一(のがみ・けんいち)筑波大学第三学群国際総合学類卒。三井住友銀行やモルガン・スタンレー証券で企業買収や企業の資金調達に従事。2014年からザ・リアルリアルで経営企画室長として経営全般に携わるかたわら、同年1月からメトセラの設立準備に参画。16年にCo-CEOの岩宮貴紘氏とともにメトセラを立ち上げた。

 

「カテーテルで採取・投与」「免疫抑制剤不要」にこだわり

――心不全を対象に、VCAM-1陽性心臓線維芽細胞(VCF)を用いた再生医療等製品「MTC001」を開発しています。

メトセラは、共同創業者の岩宮貴紘(Co-CEO)が発見したVCAM-1陽性心臓線維芽細胞(VCF)の価値を最大化すべく立ち上げた会社です。VCFは抗炎症作用やリンパ管の新生作用、心筋細胞の増殖を促す効果を持っており、心臓組織の再生作用が期待されます。

 

われわれは自家VCFを使ったMTC001について、2021年から筑波大で慢性虚血性心不全患者を対象とする第1相(P1)の医師主導治験を行っています。

 

心不全に対する再生医療としては、心筋細胞の移植によって壊死した細胞を置き換える治療法などが研究されていますが、われわれのアプローチはそれとは異なり、サイトカインの放出やリンパ管新生を通じて心組織の微小環境を改善し、ダメージを受けた組織・細胞の再生を促すものです。自家細胞による治療なので、免疫応答性の高い心臓にも免疫抑制剤不要で投与できるのが特徴です。現在のところは単回投与で開発を進めていますが、将来的には複数回投与にも耐え得ると考えています。

 

――ほかにユニークなポイントはありますか。

MTC001は、業務提携先の日本ライフラインが開発した専用の投与カテーテルとのコンビネーション製品です。このカテーテルは、3Dマッピングシステムと接続して心臓の電位が低い領域、つまり、拍動が弱いまたは拍動していないところに正確に投与することができます。投与の再現性が高いことは大きな強みです。

 

加えて、ごくわずかな組織から必要量の細胞を製造できる上、作用機序の特性から投与する細胞が比較的少ないこともあり、採取時、投与時ともカテーテルで済むことも強みです。開胸手術を伴う治療と比べて低い侵襲性を担保できています。VCFは、細胞表面にVCAM-1と呼ばれる接着性のタンパク質を発現したものなので詰まりやすく、最適なカテーテルができるまでにはいくつもの試作を重ねました。

 

私たちは、再生医療に問われているのが「入院の負担をどれだけ軽減できるか」だと思っています。だから、カテーテルを使うことや免疫抑制剤が不要であるということにはこだわりました。入院や頻回の通院の負担をカットできれば、薬価だけでないトータルの医療コストの削減に繋がります。だからこそ、カテーテル以外の選択肢はありませんでした。

 

 

M&Aで得たもの

――22年にはキッズウェル・バイオから日本再生医療を買収し、同社の小児先天性心疾患に対する「JRM-001」をパイプラインに加えました。

日本再生医療(JRM)は、単心室症を対象に心臓内幹細胞を使ったJRM-001を開発していましたが、早期承認取得を目指すには自家細胞製品を手掛ける当社が主体となって開発を進めることが最適だということで合意したのが経緯です。われわれとしても、循環器の再生医療等製品の開発ノウハウを持つJRMと一緒になれたのは渡りに船でした。

 

――当時、JRM-001は開発を進める上で何か課題を抱えていたのでしょうか。

JRM-001は、進行中のP3試験を順調に進められる状態にはありませんでした。自家細胞製品は患者ごとに特性の違いが出てくるものですが、その違いを受け入れることのできる製造系を十分に構築できていなかったのが要因です。

 

一方でわれわれは、基礎研究チームとCMC開発チームを抱える”研究ヘビー”な会社で、製造を実現する力に強みを持っています。川崎市殿町の「ライフイノベーションセンター」に拠点を構えており、研究のための設備も充実している。この環境を生かしてJRMのメンバーが開発を進めていけば、課題を解決できるだろうと考えました。実際、そう遠くないうちにP3試験の再開を発表できるところまで来ています。

 

――研究が源泉なのですね。

細胞治療はほかのモダリティと違ってモノの定義が曖昧ですし、作る人が変わるだけで細胞の特徴が変わってしまうというのもよくある話です。作用機序が完全に解明されている製品もなく、CMC開発や臨床開発と並行して解明しなければならないアンノウンも多い。それに立ち向かうには、社内に基礎研究とCMC開発・臨床開発のチームをそれぞれ持ち、両輪となって1つの製品として形作っていくことが大切だと考えています。メトセラでは、岩宮が基礎研究を、私がCMC開発や臨床開発に取り組んでここまで進めてきました。

 

細胞のことだけに向き合ってきた

――野上さんはビジネスサイドから参画されています。

私は大学を卒業して6年半、大企業を相手にM&Aの支援に携わる仕事をしていました。でも、もとからベンチャーの経営に携わりたいという思いがあったんです。高校生のころから「新たな付加価値を生み出す現場に携わりたい」「ゼロからイチが生まれる瞬間に身を置きたい」と思っていました。特に、研究開発を核とするディープテックベンチャーに関心がありました。

 

岩宮とは友人の友人として知り合いました。初めて彼からVCFの研究成果について話を聞いた当時は、ビジネスとしての影も形もなかった。それでもメトセラの設立に携わったのは、岩宮の人としての面白さとか、知らない世界に対する関心だとか、そういう素朴な気持ちからでした。

 

最初はマウス細胞でのデータしか手元にはなく、心不全を対象に開発を進めていくことも会社を設立してから決定しました。会社を立ち上げるタイミングとしては早かったと思います。そう考えると、モノがない状態からたった5年、猛烈な勢いで治験に入ることが出来たと言えるかもしれません。

 

――その原動力はどこにあったのでしょう。

とにかく細胞の価値を最大化することだけを考えていたからでしょうね。私たちは製薬の人間ではないので、変な話、彼らが通常持ち合わせているようなリスク感覚もなく、ただただ細胞のことだけに向き合い、治験に向かうためのベストオプションを選んでいったのが功を奏したのではないかと思います。

 

その中でもこだわっていたのは自社開発で、基本的な特許もすべて自社のものです。ここまでの状態を築くには苦労もありましたが、その分、自由度はすごく高い。将来、製薬企業とライセンスするにあたっても、われわれの製品の価値が最大化されるタイミングを狙っていくことができると思っています。

 

呼吸器疾患にも展開

――2つのパイプラインの実用化のめどは。

具体的な時期は開示していませんが、MTC001は条件付き早期承認制度の活用を念頭に、できるだけ早く患者さんに届けたいと思っています。

 

JRM-001は、それより前の本承認取得を目指します。先駆け審査指定制度の対象品目でもありますし、何より小児の希少疾患を対象としていることに価値があると思っています。自家の再生医療等製品は、拒絶が起こりにくい分、長期的な予後を改善する力も大きく秘めている。つまり、小児の先天性疾患に親和性が高いと考えています。対照群を設け、医師にも患者にも信頼される形でP3試験を進めていきます。

 

将来的には海外展開も視野に入れており、すでに米国に子会社を設けています。

 

――実用化に向けた課題はありますか。

現時点での課題はそこまでありませんが、中長期的には製造コストを下げていくことが大切だと思っており、そこに向けた投資は行っています。

 

自家再生医療等製品のコストはほとんどが設備投資や人件費などの固定費で、原材料費は他家と変わりません。自家・他家で原価の違いが議論にならないような世界を作り上げていければと思っています。

 

われわれも非臨床段階ですが他家細胞のパイプラインを持っていますし、対象となる疾患や臓器、狙っている効果に合わせて選択できるのがあるべき姿だと思います。

 

――直近では、名古屋大大学院医学系研究科に産学共同研究講座を設置したと発表しました。循環器だけでなく、呼吸器疾患を含めて線維芽細胞の研究開発を進める方針です。

慢性臓器疾患への線維芽細胞の治療応用に向けて、共同で研究体制を構築しました。これにより、呼吸器領域に参入するための下地ができたと思っています。臨床医との関係性を深め、臨床ニーズを起点にしたシーズ開発も行いたい。名古屋大の潤沢な研究リソースにアクセスできることで研究開発の能力向上も見込めますし、社員にとっては新たなキャリアパスの提示にもなるでしょう。

 

MTC001が治験に入り、パイプラインを循環器以外にも広げていくこのタイミングで、今年、事業ミッションを「Unleash the Cell Potential.(細胞の力を生きる力に)」にアップデートしました。細胞の力、再生医療等製品の価値を最大限引き出すことに挑戦していきます。

 

(聞き手・亀田真由)

 

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