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siRNA医薬、広がる用途…高コレステロール血症に「レクビオ」登場、開発段階にはNASHや高血圧など

更新日

前田雄樹

次世代の医薬品として期待されるsiRNA医薬が、その用途を広げています。従来は遺伝性の希少疾患が中心でしたが、日本でも今年11月、高コレステロール血症を対象とする「レクビオ」が発売。各社のパイプラインには、非アルコール性脂肪肝炎(NASH)や高血圧症、糖尿病といった疾患をターゲットとした新薬候補が控えています。

 

 

希少疾患以外で初のsiRNA

siRNAは低分子干渉RNA(Small interfering RNA)の略で、短い2本鎖のRNAのこと。生体内にはもともと、siRNAが相補的な配列を持つmRNA(メッセンジャーRNA)を分解するRNA干渉(RNAi)と呼ばれる機構が備わっています。siRNA医薬はこの現象を利用したもので、標的となるmRNAにあわせて人工的に合成したsiRNAを投与し、標的mRNAを分解することで、そのmRNAが疾患の原因となるタンパク質をつくるのを妨げます。

 

siRNA医薬は2018年に世界で初めて実用化され、これまでに6つの薬剤が承認を取得。国内ではこのうち、▽トランスサイレチン型家族性アミロイドポリニューロパチー(TTR-FAP)治療薬「オンパットロ」(一般名・パチシランナトリウム)▽急性肝性ポルフィリン症治療薬「ギブラーリ」(ギボシランナトリウム)▽TTR-FAP治療薬「アムヴトラ」(ブトリシランナトリウム)▽高コレステロール血症治療薬「レクビオ」(インクリシランナトリウム)――の4品目が承認されています。

 

【国内で承認されているsiRNA医薬】製品名・一般名/社名/対象疾患/承認年|オンパットロ・パチシランナトリウム/アルナイラム/トランスサイレチン型家族性アミロイドポリニューロパチー/2019|ギブラーリ・ギボシランナトリウム/アルナイラム/急性肝性ポルフィリン症/2021|アムヴトラ・ブトリシランナトリウム/トランスサイレチン型家族性アミロイドポリニューロパチー/2022|レクビオ・インクリシランナトリウム/ノバルティス/家族性高コレステロール血症、高コレステロール血症/2023|※各社のプレスリリースをもとに作成

 

「蛇口を閉めるアプローチ」

オンパットロ、ギブラーリ、アムヴトラはいずれも希少疾患が対象ですが、今年11月にノバルティスファーマが発売したレクビオは、希少疾患以外で初めてのsiRNA医薬となりました。

 

レクビオが標的とするのは、PCSK9タンパク質を作り出すmRNA(PCSK9mRNA)。PCSK9は、血中のLDLコレステロール(LDL-C)を肝臓に取り込むLDL受容体に結合し、それを分解する働きがあります。レクビオは、PCSK9mRNAを分解することでPCSK9の生成を抑え、LDL受容体によるLDL-Cの取り込みを促進し、血中LDL-C値を低下させます。

 

高コレステロール血症では、PCSK9とLDL受容体の結合を阻害する抗体医薬「レパーサ」(エボロクマブ)が2016年から販売されていますが、ノバルティスが11月に開いたメディア向け説明会で講演した東京大大学院の程久美子准教授は「疾患を緩んだ蛇口から水があふれ出ている状態に例えると、これまではこぼれた水を拭くアプローチだったが、siRNAは水があふれる前の段階で蛇口を閉めるアプローチと言える」と指摘。レパーサが2週間に1回の投与なのに対し、レクビオは6カ月に1回で済む点もメリットです。

 

アルツハイマー病や糖尿病も

希少疾患ではない疾患を対象に開発が行われているsiRNA医薬はレクビオ以外にもあります。

 

この分野をリードしてきた米アルナイラム・ファーマシューティカルズは、多様な疾患で開発を進めています。ノバルティスのレクビオももともとはアルナイラムが開発したもので、同社のパイプラインには開発の初期から中期の段階にB型肝炎ウイルス感染症、高血圧症、NASH、アルツハイマー病、2型糖尿病といった疾患を狙ったsiRNA医薬候補が並んでいます。

 

英グラクソ・スミスクラインは21年、米アローヘッド・ファーマシューティカルズからNASHに対するsiRNA医薬候補の開発・販売権を取得し、日本を含むグローバルでP2試験を実施中。今年10月にはアローヘッドからB型肝炎ウイルスを標的とするsiRNA医薬候補のラインセンスも取得。自社のアンチセンス核酸医薬との併用で開発を進めると発表しました。

 

【希少疾患以外の分野で開発されている主なsiRNA医薬】社名/対象疾患/開発段階|アルナイラム/高血圧症/初期・中期|アルナイラム/NASH/初期・中期|アルナイラム/アルツハイマー病/初期・中期|アルナイラム/2型糖尿病/初期・中期|ノボノルディスク/NASH/P1|ノボノルディスク/アルコール使用障害/P1|GSK/NASH/P2|イーライリリー/心血管疾患/P1|イーライリリー/NASH/P1|各社のパイプラインをもとに作成

 

昨年、siRNA医薬の開発を手掛ける米ディセルナ・ファーマシューティカルズを買収したデンマークのノボノルディスクは、NASHやアルコール使用障害をターゲットとするsiRNA医薬候補のP1試験を実施中。米イーライリリーも心血管疾患やNASHを対象に初期の臨床開発を進めています。

 

製薬企業の投資活発化

siRNAは、RNAやDNAといった核酸を利用した核酸医薬の一種。核酸医薬にはほかにも、アンチセンスオリゴヌクレオチド、アプタマー、デコイなどがありますが、その中でもsiRNAは特にホットな分野で、製薬企業による投資も盛んです。

 

レクビオを開発したノバルティスは2020年に、siRNA医薬開発の米メディシンズ・カンパニーを約97億ドルで買収。今年7月には、神経疾患向けのsiRNA医薬の研究開発を手掛ける米DTxファーマを総額最大10億ドル(一時金5億ドル、マイルストン最大5億ドル)で買収しました。ノバルティスはRNAを注力する3つの新規技術の1つに位置付けて投資を強化しており、昨年1月には末期肝疾患患者の肝機能を回復させるsiRNA医薬の開発でアルナイラムと提携しました。

 

ノボは今年、ディセルナ買収で獲得した原発性高シュウ酸尿症向けsiRNA医薬「Rivfloza」(nedosiran)が米国で承認を取得。日本でも開発を行っており、P3試験が進行中です。武田薬品工業も20年にアローヘッドとα-1アンチトリプシン欠乏症による肝疾患を対象としたsiRNA医薬候補fazirsiranの開発・販売で提携し、欧米でP3試験を進めています。

 

 【国内で開発中のsiRNA医薬】開発段階/品名・開発コード/社名/対象疾患|P3/fitusiran・SAR439774/サノフィ/血友病A、B|P3/nedosiran・―/ノボノルディスク/原発性高シュウ酸尿症|P2/―・GSK4532990/GSK/非アルコール性脂肪疾患|※各社公表のパイプラインをもとに作成

 

AnswersNews編集部が製薬企業をレポート

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