2023年に薬価追補収載された後発医薬品は176品目で、前年に続いて過去最低を更新しました。後発品メーカーが安定供給を念頭に新製品の投入を絞り込んだことが主な要因とみられます。初の後発品として収載されたのは77品目(16成分)にとどまり、承認を取得しながら収載を見合わせた企業も目立ちました。
2年連続で200品目割り込む
後発品の追補収載は6月と12月の年2回。過去10回(5年間)の収載品目数を振り返ると、20年6月が415品目と最も多く、以降は減少傾向にあります。今年は6月が113品目、12月は1回の収載数としてはこれまでで最も少ない63品目で、年間の収載数は計176品目。2年連続で200品目を割り込み、過去最低となりました。
品目数の減少は、後発品メーカーが確実に供給できる品目を選んで薬事承認や薬価収載を申請していることが背景にありそうです。厚生労働省は、収載5年以内の品目で供給不足を起こした後発品メーカーに対し、その後2回分の新規収載を自粛するよう求めるペナルティを課しており、これが各社に慎重な対応を余儀なくさせていると言えるでしょう。
もちろん、供給責任を果たさないメーカーには問題がありますが、後発品の使用促進によって医療費の適正化を図りたい厚労省が自ら決めたルールによって後発品の普及が遅れるという皮肉な結果を生んでいるようにも見えます。厚労省は24年度にも、長期収載品と後発品の差額の一部を患者の自己負担とする仕組みを導入する方針ですが、ペナルティの存在が受け皿となる後発品の供給にマイナスの影響を及ぼすことなないのでしょうか。
初後発16成分中13成分が1社単独
初めて後発品が収載された成分に対する参入品目数の少なさも顕著です。今年6月は11成分に64品目が参入しましたが、12月は5成分に13品目という低調ぶりでした。今年の計77品目は前年の130品目を大きく下回り、過去5年で最多だった20年の415品目と比べると2割にも満たないレベルです。初後発の製品は後発品メーカーにとって重要な収益源であり、その品目数減少は経営にとっても不安な要素となります。
今年、初めて後発品が収載された16成分のうち、複数の企業が参入したのは▽高血圧症治療薬「アジルバ」12社▽アレルギー性鼻炎治療薬「アラミスト」5社▽抗がん剤「レブラミド」3社――の3成分のみ。残る13成分は1社単独となりました。特許の問題やAGの先行投入といった事情のある品目も含まれますが、一定の市場(需要)があるにも関わらず参入が1社にとどまる品目が大半を占める状況は、これまでとは大きな違いです。
今年後発品が初めて収載された成分で先発品の市場が最も大きいのはアジルバでした。武田薬品工業の23年3月期の売上高は729億円と群を抜いています。同薬には12社39品目の後発品が参入し、今年の収載品では唯一、薬価を先発品の0.4掛けとするルールが適用されました。同ルールの対象となったのは昨年も高尿酸血症・痛風治療薬「フェブリク」1成分のみで、かつてのように大型品に30社前後が殺到するような状況ではなくなっています。厚労省は0.4掛けルールの対象を現在の10品目超から7品目超に厳格化する方針ですが、果たして対象となる成分がどれだけ出てくるでしょうか。
ザイティガ後発品、承認の全6社が収載見合わせ
一方、承認を取得したにも関わらず収載を見合わせた品目も目立ちました。DPP-4阻害薬「ジャヌビア」は、サワイグループホールディングス子会社のメディサ新薬が単独で承認を取得しましたが、先発品の製造販売元であるMSDが特許侵害を訴えて訴訟を起こしました。抗がん剤「ザイティガ」は承認を取得した6社すべてが収載を見送っています。抗血小板薬「エフィエント」、慢性便秘症治療薬「アミティーザ」、多発性硬化症治療薬「イムイセラ/ジレニア」などの後発品も収載されませんでした。
「アジルバ」「レブラミド」などにAG
オーソライズド・ジェネリック(AG)は、武田テバファーマがアジルバとアラミストに、ブリストル・マイヤーズスクイブ(BMS)販売がレブラミドに投入しました。住友ファーマは、子会社を通じてパーキンソン病治療薬「トレリーフOD錠」のAGを来年2月に発売予定。後発品参入に先んじて市場を押さえる戦略です。他社の後発品が先行している成分では、ノーベルファーマと提携するダイトがウィルソン病・低亜鉛血症治療薬「ノベルジン」にAGを投入。BMS販売は2月に承認を取得していた抗がん剤「スプリセル」のAGを12月に収載し、レブラミドAGとともに発売しました。
AGは引き続き市場で高いシェアを維持しています。ニプロは22年12月に発売した抗潰瘍薬「ネキシウム」のAGについて、23年4~9月期決算で売上高82億円、先発品含む成分内シェア52%、後発品内シェア71%に達したと明らかにしました。
多くの大型先発品が戦略的にAGを活用する一方で、批判的な声も聞かれるようになってきました。日本医師会は、製薬企業の長期収載品依存を助長するとして「強いペナルティ」が必要だと指摘。厚労省の検討会では、その圧倒的なシェアの高さゆえAG投入の有無によって他社の生産面での予見性が損なわれるとの意見も出ました。後発品の供給不安が続く現状で何らかの規制を行うことは難しそうですが、中期的には後発品産業の健全な育成という観点から議論になる可能性もあるでしょう。