ヤクルト本社が医療用医薬品事業の縮小に向けて大きく舵を切りました。最主力の抗がん剤「エルプラット」など8製品を高田製薬に販売移管・承継すると発表。新たな新薬開発も行わない方針を示しました。国内市場中心の中堅製薬企業にとって経営環境は厳しくなるばかりで、長期収載品と後発医薬品が主体では生き残れないと判断したようです。
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15製品中8製品を高田製薬に譲渡
高田製薬への移管・承継は2024年4月から実施。ヤクルト本社が販売する医療用医薬品は、がん関連製品13製品と輸液2製品の計15製品で、その半分以上を譲渡することになります。同社医薬品事業の23年3月期売上高は128億円6300万円。71億円5800万円を占めるエルプラットを筆頭に譲渡対象8製品で大部分を稼いでおり、事業基盤はほぼ失われることになります。
ヤクルトの医薬品事業は苦戦続きでした。過去10年の業績を見てみると、経営状況の厳しさが浮き彫りになってきます。13年3月期は売上高370億7200万円でしたが、23年3月期は約3分の1まで減少。この間、前期比で増収となったのは16年3月期だけ。事業の柱として売り上げの7割以上を占めていたエルプラットは、適応追加を重ねるも14年12月の後発品参入で市場を大きく侵食されました。
利益の減少はさらに深刻です。13年3月期に89億8200万円(売上高比24.4%)あった営業利益は徐々に減り、19年3月期には18億300万円の営業赤字を計上。その後いったんは持ち直したものの、23年3月期には再び1億9200万円の赤字に転落しました。
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この間、21年6月に策定した24年度までの中期経営計画では、継続的な製品の開発・上市や収益性の向上を掲げていましたが、一方で売上高は10%程度の減少を予想。営業利益目標10億円と極めて控えめな将来像を描いていました。
そして今年5月の決算記者会見では、医薬品事業部門を今期から化粧品やプロ野球興行と同じ「その他事業部門」に組み込むと説明。事業の将来については「あらゆる可能性を検討している」と、市場からの撤退にも含みを持たせていました。
「持続的成長見込めない」
今回の発表では「従来からの少数品目に依存したビジネスモデルでは将来の持続的成長は見込めないと判断した」と移管・承継の背景を説明しています。実際、新薬は05年のエルプラット以降上市がなく、すでに長期収載品となった同薬と後発品で事業を支えるしかない状況でした。
ヤクルトは今後、開発中の品目を除いて新たな抗がん剤の開発は行わない方針です。パイプラインには皮膚T細胞リンパ腫を対象に臨床第2相試験を行っているレスミノスタット(一般名)がありますが、自社で開発を続けるかどうかは未定としています。今後は、マイクロバイオームの領域で一般用医薬品や医薬部外品、サプリメントなどの開発に取り組むとしており、医療用の新薬を手掛ける可能性は極めて小さくなりました。
医療用医薬品からの撤退こそ否定していますが、事業基盤をほぼ失うことになった以上、継続は困難に思えます。長期収載品や後発品をとりまく事業環境は楽観できず、新薬を市場に投入できなければ生き残るすべはありません。
ヤクルトはいわゆる「兼業メーカー」です。兼業組には旭化成、帝人、明治ホールディングスといった企業がありますが、同じ食品系ではかつての味の素製薬がエーザイとの合弁会社「EAファーマ」として16年に再スタートを切った例があります。
当時、味の素製薬は売上高が5年間で半減し、100億円を超えていた営業利益も20億円程度に激減していました。ヤクルトも類似したケースですが、味の素とは異なり事業が縮小していく中で新たな展開を打ち出せなかった印象があります。