受取総額は最大3.3兆円――。第一三共がヒット薬「エンハーツ」に続く3つの抗体薬物複合体(ADC)のグローバル開発・販売で米メルクとの超大型提携を発表しました。免疫療法薬「キイトルーダ」でがん領域に強力なプレゼンスを築くメルクとの提携により、製品価値の最大化を狙います。
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受取対価最大220億ドル
第一三共は10月20日、開発中の3つのADCの開発・販売でメルクと提携したと発表しました。提携の対象は▽抗HER3ADCパトリツマブ デルクステカン(一般名、開発コード・U3-1402)▽抗B7-H3ADC「DS-7300」(開発コード)▽抗CDH6ADC「DS-6000」(同)――。日本を除く全世界でメルクと共同で開発・商業化し、製造と供給は第一三共が担います。
パトリズマブ デルクステカンは乳がんと非小細胞肺がんで臨床試験が行われており、「EGFR変異を有する前治療歴のある非小細胞はがん」の適応で来年3月までに米国で申請する予定。DS-7300は進展型小細胞肺がん、DS-6000は卵巣がんと腎細胞がんを対象とした臨床試験が進行中です。両社は3製品の単剤・併用療法を共同開発し、日本を除く全世界で共同販促。日本では第一三共が単独で販売し、ロイヤリティを支払います。
30年代半ばに向けて売り上げ数十億ドル
驚くべきは第一三共が受け取る提携の対価です。第一三共は契約一時金として45億ドル(6700億円)、開発費関連一時金として10億ドル(1500億円)を受け取り、すべての販売マイルストンが達成された場合の受領対価を含めると、最大で訴額220億ドル(約3.3兆円)に上ります。第一三共は2030年代半ばに向けて3製品のグローバル売上高が合計で数十億ドルに達する可能性があるとしており、提携の経済的条件からもメルク側の期待の高さがうかがえます。
提携発表を受け、第一三共の株価は一時18%高まで上昇。最終的には前日終値比14%高で取引を終え、中外製薬に奪われた時価総額製薬国内首位の座を3日で取り返しました。
メルクが最も高く評価してくれた
第一三共は現在、今回の提携対象となった3品目を含む5つのADCの開発に経営資源を集中的に投入しています。先行する抗HER2ADC「エンハーツ」(トラスツズマブ デルクステカン)はすでにブロックバスターとなり、残る4品目の開発も順調に進展。今年4月には、2021年度にスタートした5カ年の中期経営計画の数値目標を見直し、最終年度の売上収益を2兆円(策定時は1兆6000億円)、がん領域の売上収益を9000億円以上(策定時は6000億円以上)に引き上げました。
一方でADCの開発競争は激しさを増しており、今年3月には米ファイザーがADC技術を持つ同シージェンを430億ドルで買収すると発表。同ギリアド・サイエンシズは20年に同イミュノメディックスを210億ドルで買収して参入し、メルクも同年に米シアトル・ジェネティクスと提携しました。
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競争激化「増強必要」
第一三共の真鍋淳会長CEO(最高経営責任者)は10月20日夜に開いた説明会で「多くのオンコロジーカンパニーがADCに注力しており、DXd-ADC(デルクステカンをペイロードとするADC)フランチャイズを極大化するには、キャパシティ、リソース、ケイパビリティを増強する必要性が高まっている」と提携の背景を説明。メルクと組むことで開発を加速させるとともに、幅広い患者を対象とした開発計画の策定や販売地域の拡大に期待を示しました。
第一三共は5つのDXd-ADCのうちエンハーツと抗TROP2ADCダトポタマブ デルクステカンの開発・販売では英アストラゼネカと提携。パトリズマブ デルクステカンも一部の併用療法の開発でアストラゼネカと組んでいます。今回、3つのADCのパートナーにメルクを選んだ理由について真鍋氏は、がん免疫療法薬「キイトルーダ」を柱にがん領域で豊富な経験、専門性、開発力を持ち、多くの国・地域、診療科でがん事業を展開していることから「第一三共の専門性との組み合わせによって最も多くの新たな標準治療を創出できるパートナーだ」と指摘。複数の企業からオファーを受ける中でメルクが最も高い評価を示したことも決め手になったと話しました。
提携のメリットは対象となった3品目以外にも及びます。ADCの開発が順調に進む一方で研究開発費は増加しており、23年度の計画は3600億円と5年前に1.8倍に膨らんでいます。第一三共にとっては、5つのDXd-ADCに続く成長ドライバーの研究開発が大きなテーマとなっており、メルクとの提携で浮いたリソースを振り向けることが可能になります。真鍋CEOは「持続的成長に向けた好循環を生み出すためのリソースのさらなる拡充を図りたい」と語りました。