製薬業界で水平分業が広がる中、市場拡大が続くCDMO業界。主戦場であるバイオ原薬のCDMO世界市場は2028年ごろに200億ドル弱に達するとの予測もあります。新規参入も相次ぎ混沌とする国内CDMO業界の現状を、バイオ医薬品の分野を中心にカオスマップで整理します。
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バイオ原薬製造、上位10社で世界シェア5割
高度な品質管理が求められるCDMOは「実績重視」の側面が強く、受託数の多い企業に案件が集中しやすい業種です。バイオ原薬製造では上位10社で全体の約半分を受託しているとされ、グローバル大手CDMOは、高まる需要に対応すべく製造能力の増強に力を入れています。
バイオCDMOの世界最大手は2022年に62億スイスフラン(約8560億円)を売り上げたスイス・ロンザです。低分子から抗体、細胞・遺伝子治療、エクソソームまで幅広いモダリティに対応しており、直近では抗体薬物複合体(ADC)分野を買収で強化しています。バイオCDMOの売り上げは全体の約6割に及びます。
世界シェア2位は中国のウーシー・バイオロジクス。同社はCDMO+CROの「CRDMO」として事業を展開しており、大型案件を受託しています。韓国のサムスン・バイオロジクスも、急成長を続ける企業の1つ。生産能力は18年の36.2万リットルから22年には42万リットルに拡大しており、さらなる増強を進めています。独ベーリンガーインゲルハイムは、動物細胞培養槽(抗体など)の生産能力で世界トップクラス。22年はCDMO事業で10億ユーロ(約1413億円)を売り上げました。
富士フイルムとAGC、ともに売上高1000億円超
国内のバイオCDMOの二大巨頭は、富士フイルムホールディングス(HD)とAGCです。ともに買収によって規模を拡大してきた企業で、直近のCDMO関連事業の売上高は両社とも1000億円を超えています。
富士フイルムは、2011年にバイオ医薬品CDMOに参入し、14年に遺伝子治療に事業を拡大。19年には米バイオジェンの工場を買収して大型の培養タンクを手に入れ、昨年4月の米アタラ買収ではCAR-T細胞治療をはじめとする細胞治療に本格参入しました。同社が強みとするのは抗体などの動物細胞培養で、高生産性技術を持つほか、培養から精製に至る原薬の連続生産技術を確立し、海外工場への導入を進めています。26年の稼働を目指して富山市に国内拠点の建設も進めており、グローバルの生産能力は26年に約66万リットルに到達する見込みです。
AGCは、合成医薬品とバイオ医薬品の両軸で事業を展開しています。バイオ分野への参入は2000年。動物細胞培養では他社に先駆けてシングルユースバック(SUB)を導入し、グローバル2位の生産能力(同社推計)を持っています。20年には英アストラゼネカの工場を買収して大型培養槽を獲得しており、翌21年には遺伝子治療、23年にはmRNA医薬品と対応するモダリティを広げています。
【モダリティ別】国内主要CDMOカオスマップ
ここからは、各社が得意とするモダリティごとに詳しくみていきます。
抗体・組換えタンパク・mRNAなど
抗体では、JSRや旭化成が海外で事業を展開しています。JSRは15年の米KBIバイオファーマ買収でこの分野に参入。旭化成は昨年、子会社を通じてADCや二重特異性抗体などの受託製造で実績のある米バイオノバ・サイエンティフィックを買収しました。一方、国内では三菱ガス化学と日本化薬が共同で設立したカルティベクスが、三菱ガス化学の新潟工場で受託製造を行っています。
コロナ禍以降、mRNA医薬に参入する企業も増えています。化学・素材メーカーのカネカは、2010年にベルギーのユーロジェネンテックを子会社化し、微生物生産系のバイオ医薬品(組み換えタンパクなど)を中心に事業を行っていましたが、20年にmRNA医薬のサービスを開始。23年には約20億円を投じてmRNAの生産能力を5倍に拡大すると発表しました。
21年にアジア・パシフィック地域初のmRNA医薬品CDMOとして事業を開始した米エリクサジェン・サイエンティフィックは、22年にリコーが株式の過半数を取得し、同社グループの一員に。アクセリードが米アークトゥルスと立ち上げたアルカリスは今年、福島県南相馬市の工場が完成。アクセリードは、傘下のCRO・Axcelead Drug Discovery Partnersとアルカリスを両輪として「グローバルなCRDMOを目指す」としています。
再生・細胞治療、遺伝子治療
タカラバイオは、遺伝子治療薬を中心に幅広いモダリティで事業を展開。再生医療領域では自社開発品の製造も手掛ける施設の設備増強を進めており、大型バイオリアクターや細胞加工室の導入によって後期治験薬や商用製品に対応できる大規模製造が可能になる見通しです。第一三共のがん治療用ウイルス製剤「デリタクト」の製造を受託するデンカは、ウイルス製剤に特化した事業展開を志向しています。
ニコンは、再生医療向け細胞生産でロンザと戦略的業務提携を結んでおり、ロンザのグローバルネットワークの1拠点として事業を行っています。細胞製剤ではこのほか、ノバルティスファーマのCAR-T細胞療法「キムリア」などの製造を受託する神戸医療産業都市推進機構が今春、新会社「サイト・ファクト」(神戸市)に事業を承継しました。
21年にジャパン・ティッシュエンジニアリング(J-TEC)を買収して再生医療領域に参入した帝人は今年、CDMO事業参入に向けて子会社・帝人リジェネットを設立。4月には米CDMOの米レジリエンスと提携し、事業基盤の構築を進めています。
ペプチド・核酸医薬・中分子、その他
中分子領域は、化学合成技術を持つ化学メーカーを中心に異業種からの参入が多い領域です。
日東電工は世界最大の核酸医薬製造拠点を持ち、核酸原薬製造で世界トップシェアを誇ります。味の素や住友化学がそれぞれ設備増強を進めているほか、三井化学が昨年、核酸への再参入を目指してスタートアップのナティアスと資本業務提携を結びました。
低分子から中分子、抗体まで幅広く医薬品の原薬・中間体製造を行う大塚HD傘下の大塚化学は今年、横河電機と中分子医薬のCRDMO「シンクレスト」を設立。2020年から両社共同で開発してきた中分子のインライン計測統合型連続フロー合成法を活用し、5月にサービスを開始しました。CMC研究に強いスペラファーマは、21年にそーせいグループからJITSUBOを買収してペプチド医薬の受託製造に参入しています。
ユニークなのはテルモで、薬剤投与デバイスなど、医療機器と医薬品のコンビネーション製品に特化しています。UBEは、昨年末に三菱ケミカルグループからCDMO事業を買収。低分子から中分子に事業を広げることを目指しています。