「日本のCDMO市場は成熟度低い」独アドラゴス、日本で買収攻勢

東京都内で記者会見した独CDMOアドラゴスファーマのアンドレアス・ラアブCEO

ドイツのCDMOアドラゴスファーマが、サノフィの川越工場を買収すると発表しました。同社のアンドレアス・ラアブCEOは「日本のCDMO市場はまだ成熟度が低く、グローバルCDMOが存在する余地がある」とし、さらなる買収を通じた日本事業の拡大に意欲を示しています。

サノフィの川越工場を買収

ドイツを拠点に日米欧でCDMO事業を展開するアドラゴスファーマは10月13日、サノフィの川越事業所（工場、埼玉県川越市）を買収すると発表しました。

アドラゴスファーマは独ミュンヘンで2020年に設立されたグローバルCDMO。現在、ドイツとフランス、日本に工場を持ち、低分子医薬品、無菌製剤、固形剤、半固形剤の受託製造を行っています。

茨城県取手市にある日本の生産拠点はもともとベーリンガーインゲルハイムの注射剤工場で、07年にドイツのCMOハウプトファーマが買収。その後、アドラゴスが傘下に収め、現在は包装工程の受託サービスを展開しています。

今回、アドラゴスが買収するサノフィの川越事業所は、50年以上にわたって医薬品を製造してきた実績があり、日本やアジアの市場に向けて経口固形製剤や無菌液体製剤を製造。包装、外観検査なども手掛けています。川越工場はアドラゴスにとって世界で4カ所目の生産拠点となります。

「ごく近い将来に日本でもう1件買収」

買収後、川越工場ではサノフィから受託して医薬品の製造を続けつつ、生産能力を増強して日本や欧米の製薬企業に顧客を広げていく考え。同工場で働くサノフィの従業員約250人はアドラゴスに移ります。今年10月時点のアドラゴスの従業員数はグローバルで約400人で、今回の買収によって規模は1.5倍になります。

アドラゴスは事業拡大に向けて日米欧でさらなる買収機会を探っています。同社のアンドレアス・ラアブCEO（最高経営責任者）はこの日、東京都内で開いた記者会見で「向こう数年で複数の買収を検討しており、ごく近い将来に日本でもう1件買収を考えたい」と表明。「2、3年後に再び皆さんとお会いすることができたら、あれは本当にまだ緒についたばかりの頃の話だったのだと思ってもらえると思う」と事業拡大への自信をのぞかせました。

CDMO市場、投資の中心は欧米

外資のCDMOが日本に生産拠点を持つのは珍しい動きです。大手の米キャタレントが静岡県掛川市に工場を置いていますが、複数の製造施設を日本に保有する外資CDMOはアドラゴスのほかに例がありません（キャタレントは掛川の工場のほかに、滋賀県甲賀市に治験薬の包装などを行う施設を保有）。アドラゴスは川越工場の買収で国内2位の専業CDMOになるといいます。

グローバル市場に目を向けると、CDMOの投資は多くのメガファーマが存在する欧米に集中しています。富士フイルムやAGCといった日本のCDMOも欧米での買収や設備投資を通じて規模を拡大させています。

コロナ禍で重要性増す

こうした中、日本に投資することについてラアブCEOは「成熟した医薬品市場がある日米欧にフォーカスするのがアドラゴスの基本戦略。中でも日本のCDMO市場は他国と比べてまだ成熟度が低く、国際的なネットワークを持つCDMOが存在する余地は十分ある」と強調。「今後、より多くの製薬企業がアウトソーシングを使うようになる」と市場成長への期待を示しました。

新型コロナウイルス感染症のパンデミックでは、ワクチンや治療薬の供給を海外に依存することのリスクが浮き彫りになりました。ラアブCEOは「新型コロナの流行は、国内に医薬品の製造拠点が存在していなければならないという考え方を正当化する根拠となった。製造拠点が各国の国内にあるべきだという状況になったことは見逃せない」と話しました。

富士フイルムやAGC、タカラバイオといったCDMO各社も、国の補助金を受けて国内にワクチンやバイオ医薬品の製造施設を整備する方針。米アークトゥルス・セラピューティクスは創薬支援のアクセリード（神奈川県藤沢市）と合弁会社を設立し、2023年の稼働開始を目指して福島県南相馬市にmRNA医薬品の受託製造拠点を建設しています。

製薬企業が工場を切り離す動きが続く一方、経済安全保障的側面からも国内製造の重要性は増しており、CDMOの活発な投資は今後も続きそうです。