厚生労働省の「医薬品の迅速・安定供給実現に向けた総合対策に関する有識者検討会」が今年6月、後発医薬品の安定供給やドラッグ・ラグ/ドラッグ・ロスの解消に向けた報告書をまとめました。厚労省では、その内容を具現化するための検討が新設を含む複数の会議体で進められており、2024年度薬価・診療報酬改定に向け、短期的課題に関する議論はこれから佳境に入っていきます。
後発品 少量多品種生産解消へ「たたき台」
有識者検討会の報告書は、医薬品の安定供給や国内への迅速導入をめぐる課題を全般的に整理したもので、それが直ちに政策・制度の変更につながるものではありません。具体的な解決策は各テーマに応じた会議体で検討することになっており、厚労省は「後発医薬品の安定供給等の実現に向けた産業構造のあり方に関する検討会」(産業構造検討会、医政局)と「創薬力の強化・安定供給の確保等のための薬事規制のあり方に関する検討会」(薬事規制検討会、医薬局)の2つの検討会を新設しました。
産業構造検討会は7月31日に初会合を開き、9月19日までに3回の会合を開催しました。企業の機密情報を扱ったり、特定の企業に言及したりすることもあるため、会合は非公開。主な検討テーマは▽少量多品種生産の解消▽生産能力の強化▽企業情報の可視化――などですが、その先には業界再編もにらんでいます。最終的なとりまとめは年内を予定していますが、薬価制度に関連する事項については10月中をめどに中間報告としてまとめ、中医協に提案する予定。後発品の供給不足はいまだ出口が見えず、解決に向けた具体策が待たれるところです。
9月19日の第3回会合では、供給不安の要因の1つとされる少量多品種生産の解消に向けた「たたき台」を提示。後発品を新規に収載する企業に対し、▽安定供給に関する責任者を置くよう求める▽継続的に供給実績を報告させる▽企業間で品目統合をしやすくするよう、製造方法の変更に関する薬事審査を合理化する――などが盛り込まれています。
一方、企業情報の可視化(情報公開)をめぐっては、▽共同開発の有無▽製剤の製造企業名▽自社品目の出荷状況・出荷停止事例▽余剰製造能力の確保または在庫期間▽他社の出荷停止品目に対する増産対応――などが公表を求める情報として上がっています。厚労省は、こうした情報が公表されることで、品質が確保された後発品を安定供給できる企業が市場で評価されるようにするとともに、薬価上の評価につなげたい考えです。
ラグ・ロス解消 日本人P1、海外先行品は原則不要に
もう1つの新設検討会である薬事規制検討会は7月10日に初会合が開かれ、9月13日が3回目の会合となりました。ドラッグ・ラグ/ロスの解消がメインテーマで、主に海外の製薬企業や創薬ベンチャー企業に日本での新薬開発・上市を促す仕組みを探り、23年度中をめどに結論を得たい考えです。
これまでの議論では、希少疾病用医薬品の指定制度を見直し、対象範囲をより幅広く設定することや、企業が成人用とともに小児用医薬品の開発を計画しやすくなるようなインセンティブ(承認申請に関わる手続きや薬価など経済面での優遇策)を与えることなどが検討されています。PMDA(医薬品医療機器総合機構)の審査体制強化も論点の1つです。厚労省は24年度予算概算要求で、PMDAに「小児・希少疾病用医薬品等薬事相談センター」を設置するための費用を盛り込んでいます。
薬事規制検討会が議論しているテーマで特に業界関係者の注目を集めているのが、日本人P1(臨床第1相)試験の必要性です。検討会では、安全性の担保と開発促進の両面から検討を行い、海外で開発が先行している医薬品については、国際共同臨床試験参加前の日本人P1の追加実施は原則不要とする方針を了承。厚労省は近く通知を出し、日本人P1試験に対する考え方を示すことにしています。
薬価は中医協で議論本格化
安定供給やドラッグ・ラグ/ロスの解消に幅広く関係する薬価制度については、中央社会保険医療協議会(中医協)の薬価専門部会で議論が本格化しています。
今月20日の会合では、日米欧の製薬団体が新薬創出・適応外薬解消等促進加算や市場拡大再算定の見直しなど従来からの主張をあらためて展開。業界が「喫緊の課題」と位置づけるラグ/ロスについては、「ロス」の状況を詳しくしました。それによると、欧米で承認されているものの国内で開発に着手されていない75品目(国内開発未着手86品目から診断薬など11品目を除いた品目数)のうち、全体の52%にあたる36品目が日本で既存薬がない疾患に対する治療薬だといいます。
一方、日本ジェネリック製薬協会は、安定供給などに努力する企業が販売する医療上の必要性が高い製品について、薬価改定で個別銘柄として扱うよう要望しています。日本医薬品卸売業も、20円未満の低薬価品や安定供給確保医薬品の薬価引き上げを求めました。
有識者検討会の報告書で「総価取引」の改善が指摘された流通をめぐっては、「医療用医薬品の流通改善に関する懇談会」(流改懇)が医療上の必要性が高い医薬品の「別枠扱い」について検討を開始。後発品は医療上の必要性に関わらず値引きの調整弁とされ、薬価が大きく下がる傾向にあり、流改懇ではそうした医薬品を別枠で取引できる方策を練ることになります。
2つの新設検討会と薬価制度を審議する中医協、さらには流改懇など各会議体の決定事項は、患者に必要な医薬品を確実に届けるという目的を根底で共有していなければなりません。安定供給やドラッグ・ラグ/ロスをめぐる課題は相互に関連性を持つだけに、ばらばらに結論を出すのではなく、足並みをそろえて事態の改善を図ることが重要です。