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ニュース解説

臨床試験効率化、AIに賭けるビッグファーマ

更新日

ロイター通信

(写真:ロイター)

 

[ロンドン ロイター]大手製薬企業がAIを活用することで臨床試験を効率化しようとしている。対象患者を素早く見つけ出したり、試験に必要な人数を減らしたりすることで医薬品開発を加速し、数百万ドルの費用削減につながる可能性がある。

 

ヒトを対象に行う臨床試験は、医薬品開発のプロセスの中で最も費用と時間がかかる。治験には何年もの期間を要し、費用は時に10億ドルを超える。

 

製薬企業は、機械によって次の大ヒット薬候補を発見できるのではないかと期待し、何年にもわたってAIを試してきた。現在、AIによって見いだされたいくつかの化合物が開発されているが、その“賭け”が日の目を見るには何年もかかる。

 

一方で、期待が大きくなっているのは臨床試験への活用だ。ロイターが製薬企業幹部、医薬品規制当局、公衆衛生専門家、AI企業にインタビューしたところ、この技術が臨床試験で大きな役割を果たし、その重要性は増しているという。

 

アムジェン、バイエル、ノバルティスといった企業は、数十億件にも上るパブリックヘルスレコード、処方箋データ、医療保険請求書などを取り込んで臨床試験の対象患者を見つけられるようAIを訓練している。これにより、患者登録にかかる時間を場合によっては半分に短縮することができるという。

 

ATOMIC AI

AIが登場する以前、アムジェンは数カ月かけてヨハネスブルグからテキサスの医師にアンケートを送り、臨床試験の対象患者を探していた。

 

多くの場合、施設や医師との既存の関係が治験実施施設の選択に影響を与える。ところが、デロイトは▽医療機関が潜在的な患者数を過大評価している▽離脱率が高い▽患者がプロトコルを遵守していない――といった理由で、試験の80%が募集目標を達成できていないと推定している。

 

アムジェンのAIツール「ATOMIC」は、大量の内部および公開データを取り込み、過去の募集実績に基づいて医療機関や医師をランク付けする。同社によると、中期試験の患者登録には疾患によって最大18カ月かかる可能性があるが、ATOMICを使えば最良のシナリオでその期間を半分に短縮できるという。

 

同社は、心血管疾患やがんといった領域の小規模の試験でATOMICを利用しており、2024年までにほとんどの試験で活用することを目指している。ロイターの取材に同社は、通常10年以上かかる医薬品開発の期間が、AIを活用することで30年までに2年短縮されると予想していると述べた。

 

ノバルティスのグローバル開発責任者、バドリ・スリニバサン氏は、AIの活用によって治験への患者登録がより速く、安く、効率的になったと話す一方、そうした価値を生むかどうかは利用できるデータ次第だと話す。WHO(世界保健機関)のAI専門家、サミール・ブシャリ氏によると、研究に利用できる健康データは全体の25%未満だ。

 

バイエルは、新規抗凝固薬asundexianの後期試験で、AIの活用によって必要となる患者数を数千人減らすことができたと発表した。同社はAIを活用し、中間試験の結果をリアルワールドデータと関連付け、試験と同じ集団における長期リスクを予測。これに基づき、バイエルは被験者数を減らして後期試験を開始した。同社は、AIがなければ患者の募集に数百万ドルの費用と最大9カ月の時間が余分にかかっていただろう指摘する。

 

外部対照群

バイエルは、AIの活用をさらに一歩前進させたいと考えている。同社は小児を対象に行うasundexianの臨床試験について、リアルワールドデータによっていわゆる外部対照群を作成し、患者がプラセボを服用する必要性を排除することを計画していると明かした。

 

asundexianが対象とする疾患は小児では非常に稀であり、患者の募集は困難だ。さらに、利用可能な実証済みの治療法がない場合、プラセボを投与することに倫理的な懸念が生じる。

 

そこでバイエルは、匿名化されたリアルワールドデータをマイニングすることを目指している。同社は、asundexianの効果を見極めるのに十分なデータが得られることを期待していると話している。電子的な患者データをマイニングしてリアルワールドの患者を見つけることは手動でもできるが、AIを使うことで大幅にスピードアップできる。

 

稀ではあるが、患者数が少ない、あるいは治療法がない疾患で外部対照群が活用されたケースがある。アムジェンの希少な白血病の治療薬「ビーリンサイト」はこのアプローチを採用し、米国で承認を取得した。同社は、発売後に薬の効果を確認する追跡調査の実施を求められた。

 

ロシュ子会社フラットアイアン・ヘルスの上級主任科学者ブライス・アダムソン氏は、AIの利点は科学者がリアルワールドの患者データを迅速かつ大規模に調べることができることだと指摘。従来の手法では5000人の患者データを調査するのに何カ月もかかっていたが、今では数百万人の患者について同じことを数日でできるようになったと話した。

 

過大評価のリスク

外部対照群を活用して臨床試験を行う場合、製薬企業は通常、規制当局に事前の承認を求める。

 

バイエルは、asundexianの小児対象の試験で外部対照群を作成するためにAIを利用することについて、米FDA(食品医薬品局)などの規制当局と協議していると述べたが、それ以上の詳細は明らかにしなかった。

 

一部の科学者は、製薬企業がより幅広い疾患でAIによる外部対照群を活用しようとすることを懸念する。FDAオンコロジー・センター・オブ・エクセレンスのリチャード・パズドゥル所長は「無作為化を行わずに2つの群を比較する場合、両群に同じ母集団があると仮定することになるが、それでは未知の部分が考慮されないことになる」と指摘する。

 

臨床試験に参加する患者は、効果的な治療を受けていると信じている上、より多くの医学的な注意を払われているため、リアルワールドの患者より気分が良くなる傾向がある。その結果、薬の効果を過大評価しがちだ。規制当局がランダム化試験を主張する理由の1つがここにある。

 

臨床データ分析を手掛けるPhesi(米国)の創業者ゲン・リー氏は、多くの製薬企業が対照群の必要性を減らすAIの可能性を模索していると指摘する。

 

一方、規制当局側は、AIが臨床試験プロセスを強化する可能性は認めるものの、医薬品の安全性・有効性に関するエビデンスの基準は変わらないとしている。FDA医薬品評価研究センターの医療政策室でリアルワールドエビデンス分析担当アソシエイト・ディレクターを務めるジョン・コンカート氏は「AIの主なリスクは、薬が効くかどうかという問いに対して間違った答えを出すことであり、そうならないことをわれわれは確認したい」と話している。

 

(Natalie Grover、Martin Coulter、Julie Steenhuysen/編集:Josephine Mason、David Clarke/翻訳:AnswersNews)

 

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