中国発の創薬イノベーションが日本でもじわじわと存在感を高めています。中国で創製された抗がん剤「ハイヤスタ」が2021年に承認されたのに続き、今年9月には上海のバイオベンチャーが同gumarontinibを日本で申請。武田薬品工業は香港のHUTCHMEDから同フルキンチニブの開発・販売権を取得し、日米欧で承認取得を目指しています。
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新薬開発でプレゼンス
原薬や後発医薬品の製造販売が主体だった中国の製薬産業が近年、新薬開発の分野でも急速にプレゼンスを高めています。
2019年、百済神州(BeiGene=ベイジーン)のBTK阻害薬「BRUKINSA」(一般名・zanubrutinib)が中国が開発した新薬として初めて米国で承認を取得。同薬は現在、EU(欧州連合)や英国、スイス、カナダなど世界65以上の市場で承認されています。今年9月には同社の抗PD-1抗体「EVIMBRA」(tislelizumab)がEUで承認。同薬は米国でも申請中です。
中国政府は2015年に策定した産業振興策「中国製造2025」で、バイオ医薬品を重点分野の1つに指定。以来、薬事規制や償還制度の改革を進め、イノベーションを優遇する姿勢を鮮明にしてきました。
これに呼応するように、中国国内では新薬開発に取り組む新興企業が相次いで登場。一部は世界展開を志向しており、ベイジーンはその代表格です。科興控股生物技術(Sinovac Biotech)、中国医薬集団(Sinopharm)、康希諾生物(CanSino Biologics)といった企業が新型コロナウイルスワクチンの開発に成功し、それらは中国政府の外交ツールとしても活用されました。
中国の医薬品市場は米国に次ぐ世界2位。巨大な国内需要に支えられ、米Pharmaceutical Executiveがまとめた23年版の世界製薬企業トップ50(22年の処方箋薬売上高をもとに集計)には中国企業が4社ランクインしました。このうち43位に入った江蘇恒瑞医薬(Jiangsu Hengrui Pharmaceuticals)は14年に日本法人を設立し、翌年に抗がん剤イリノテカン後発品の承認を取得。中国企業として初めて日本で医薬品の販売を開始しました。
武田 中国企業の抗がん剤に4億ドル
中国の製薬スタートアップが見据えるのは欧米市場ですが、触手は日本にも伸びています。
中国発の新薬候補を導入してグローバル開発するビジネスを展開する米HUYABIO Internationalの日本法人Huya Jpananは21年6月、抗がん剤「ハイヤスタ」(ツシジノスタット)の承認を取得。バイオベンチャーの深圳微芯生物科技(Shenzhen Chipscreen Biosciences)が創出したHDAC阻害薬で、22年には提携先のMeijiSeikaファルマが製造販売承認を承継しました。
今年9月には、上海に本社を置く海和薬物研究開発(Haihe Biopharma)がMET阻害薬gumarontinib(開発コード・SCC244)を「MET遺伝子エクソン14スキッピング変異陽性の切除不能な進行・再発の非小細胞肺がん」の治療薬として日本で申請。同社は中国最高レベルの学術機関・中国工程院の研究者が率いる企業で、21年に日本法人を設立。gumarontinibは今年3月に中国で承認を取得しています。
中国発のイノベーションを日本の製薬企業が取り込もうとする動きも出てきています。
武田薬品工業は今年1月、中国の製薬企業HUTCHMEDと、VEGFR阻害薬フルキンチニブの開発・商業化に関するライセンス契約を締結。中国・香港・マカオを除く全世界の権利を一時金4億ドル+マイルストン最大7億3000万ドルで取得しました。中国では18年に治療歴のある転移性大腸がん治療薬として承認されており、武田は3月に米国で、6月に欧州で申請。日本でも年内の申請を予定しています。
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EAファーマは9月、南京に本社を置くTransThera Sciencesと、肝・消化器領域の新薬創出を目指して共同研究を開始。同社は炎症性疾患に関するナレッジと独自の低分子創薬プラットフォームを持つ企業で、両社はプロジェクトチームを組織し、リソースを出し合って新規化合物の創出に取り組みます。
ベイジーンはzanubrutinibとtislelizumabに加え、抗TIGIT抗体ociperlimabの臨床第3相(P3)試験を日本で行っています。tislelizumabとociperlimabについては日米欧の開発・製造・商業化権をスイス・ノバルティスに導出していましたが、今年、提携を解消して権利を再取得しました。ベイジーンは21年1月に日本法人BeiGene Japanを設立しており、今後の動きが注目されます。