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国内製薬、広がるロボティクス活用…自動化で研究開発・製造の生産性向上

更新日

前田雄樹/亀田真由

アステラスがつくばバイオ研究センターに導入した双腕ロボット「Maholo(まほろ)」

 

製薬各社が、新薬の研究開発や製造にロボティクスの活用を進めています。中外製薬は近く、今年稼働した新たな研究拠点でラボオートメーションの実証実験を開始。6年前から創薬研究に双腕ロボットを活用しているアステラス製薬は、細胞医薬の製造にも展開を広げようとしています。

 

 

中外、ラボオートメーションの実証実験

中外製薬は今年第4四半期(10~12月)から、横浜市の研究所「中外ライフサイエンスパーク(LSP)横浜」で創薬研究の実験作業を自動化する「ラボオートメーション」の実証実験を始めます。

 

実証実験では、オムロンとその子会社オムロンサイニックエックスの3社で共同開発したロボットシステムを導入し、▽モバイルロボットによる実験サンプルの搬送作業や機器操作▽双腕ロボットによる実験ツールを用いた操作――など創薬実験の基本動作を検証します。まずは、研究員の作業負荷が大きく、実験の種類も多い細胞実験を対象に行う予定。2023年度中に検証を終え、その後の取り組みについて検討することにしています。

 

中外LSP横浜は約1700億円を投じて整備した研究拠点で、鎌倉と御殿場に分散していた研究機能を集約して今年4月に稼働を開始。飯倉仁研究本部長は「新研究所は、ドライとウェットの融合によって新たな局面を切り開いていくための重要なエンジン。ロボティクス、AI、クライオ電子顕微鏡といった最先端技術を積極的に活用していく」と話します。

 

中外はこれまでも創薬研究の自動化に取り組んでおり、低分子化合物のスクリーニングといった比較的単純な作業から、抗体の研究最適化のプロセスである「遺伝子クローニング」や「培養・精製」などへと自動化の範囲を広げています。遺伝子クローニングの自動化では、夜間の時間を使うことで抗体遺伝子の作製期間を5日から3日に短縮。培養・抗体精製自動化システムでは、細胞培養と抗体精製の2つの実験を1台の分注機で行えるようにし、効率を高めました。

 

中外LSP横浜で検証が行われているモバイルロボット

 

「中外の実験に特化したロボット開発」

新研究所では、実験機器の間をアームのついたモバイルロボットで連携し、人が検体や試薬を運ばなくて済むようにするとともに、これまで人にしかできなかった「非定型」の実験業務を自動化することを目指します。担当者によると、定型業務は7~8割自動化できている一方、非定型業務を含めると自動化率は2~3割にとどまるといい、自動化の範囲をさらに広げることで研究員がより創造的な活動に時間を割けるようにしたい考えです。

 

モバイルロボットは旧鎌倉研究所で導入していたものを移して検証を始めており、柔軟な運用ができるよう実験室は柱などを自由に動かせるように設計。非定型業務の自動化に向けては、無人搬送車にアーム型ロボットを載せた「モバイルマニピュレーター」や双腕の「ワークベンチロボット」の導入を想定しており、「中外の実験に特化した形で開発している」(飯倉氏)といいます。

 

中外は新拠点への移転を機に研究のDX(デジタルトランスフォーメーション)を加速させたい考え。ラボオートメーションによって取得できるようになる膨大なデータを利活用するための基盤整備や人材育成も進め、2030年までの成長戦略で掲げる「R&Dアウトプット倍増」につなげたいとしています。

 

アステラス「研究から製造まで一気通貫で自動化」

2017年から創薬研究で双腕ロボット「Maholo(まほろ)」を活用しているアステラス製薬は、その展開を製造にも広げようとしています。今年、バイオ原薬の工業化研究を担う「つくばバイオ研究センター」(茨城県つくば市)にもMaholoを導入し、GMPに準拠した細胞医薬の製造自動化に向けたプロセス研究を開始。創薬研究で培ったノウハウも駆使し、細胞医薬の研究から製造までを一気通貫で自動化していく考えです。

 

Maholoは産業技術総合研究所と安川電機グループのロボティック・バイオロジー・インスティテュートが開発した7軸の双腕ロボット。▽細胞観察▽細胞剥離▽細胞回収▽遠心濃縮▽細胞数計測▽細胞播種――といった細胞培養に必要な作業を1台でまかなうことができます。

 

アステラスは、iPS細胞やES細胞などに代表される多能性幹細胞を使った他家細胞医療に取り組んでおり、ゲノム技術によって免疫拒絶を回避する「ユニバーサルドナーセル」を柱に非臨床から臨床初期の段階で研究開発を進めています。製造は、培養後数週間~数カ月かけて目的細胞に分化させて行いますが、工業化にはクリアすべき課題がいくつかあり、同社はその解決にMaholoを活用しようとしています。

 

課題の1つが、「匠の技・眼」を持つ熟練作業員が必要なこと。目的細胞の選別などは習熟を要する繊細な作業を要し、大量生産しようと思うとその分、熟練した人材が必要です。アステラスは、これをロボットに置き換えることで、高効率化と人員確保のコスト削減を目指しています。人が行うと分化効率が5割程度の作業でも、Maholoなら8~9割の成功率を狙えるといい、高い再現性があることがうかがえます。

 

細胞医薬の生産プロセスは複雑で、人が行っている工程を個別に機械化していくと、製造ラインが大きくなってしまいます。Maholoは1台で作業員と同じように複数の複雑な培養プロトコルを実行できるので、(ライン型と比べて)省スペースのセル型製造プロセスが実現可能。汚染リスクや設備コストの増加を抑えることにもつながります。

 

 

26年ごろに治験薬の供給を目指す

17年からつくば研究センターで創薬スクリーニング装置としてMaholoを活用し、iPS細胞の培養、複数の細胞腫への分化に関するプロトコルを確立してきたアステラス。その経験を生かし、Maholoを軸に創薬から製造までプログラムやデータを共有するプラットフォーム「One Click Transfer」を構築しました。これにより、創薬研究からプロセス研究、プロセス研究からGMP製造への技術移転を容易に行えるようにすることを目指しています。

 

同社原薬研究所の山口秀人所長によると「技術移転は実質、ワンクリックで済む」といい、熟練した作業員の手技をライブラリ化することで、AIを使ってプロセスを最適化することも可能だとしています。細胞医薬の場合、商業生産体制の構築がボトルネックとなって申請や承認に遅れが生じることもありますが、山口氏は「このコンセプトによって、研究開発の死の谷をデジタルとロボットで一気に駆け抜けることができる」と期待します。

 

同社は、ロボットの活用で開発期間を数カ月短縮し、1製品あたり約40億円の利益につながると見ています。2026年ごろには治験薬の供給を目指しており、数百人分を生産できるプロセスを構築する構え。今年度から欧米の規制当局との対話も開始しました。将来的には、米国のGMP製造施設にMaholoを設置し、商用生産で活用することも視野に入れています。

 

AnswersNews編集部が製薬企業をレポート

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