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ニュース解説

予想に反し増えぬ「デジタル専任MR」各社の動向は

更新日

穴迫励二

製薬企業の「デジタル専任MR」が、大方の予想に反してなかなか増えません。MR認定センターが7月に公表した「2023年版MR白書」によると、「Webまたは電話のみで活動するMR」は前年から3.5%の増加にとどまり、全体に占める割合も1%に届いていません。デジタル専任MRはすでに20社以上が導入していると言われていますが、各社はその育成・拡大をどう考えているのでしょうか。

 

 

着実な広がり見せるアステラス

MR白書では22年の調査から「webまたは電話のみで活動するMR」の集計を開始し、同年は3月末時点で398人を確認。23年はオムニチャネル化の流れもあり増加すると見られていましたが、実際には412人と14人(3.5%)の増加にとどまりました。

 

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各社の動向を見てみると、人数で最大級の規模を誇るのはアステラス製薬です。同社の「オンラインMR」は5製品を11人でカバーする体制で21年4月にスタート。陣容は当面2倍まで拡大するとの見通しを立てていましたが、現在(7月1日時点)は9領域に分けた13製品を26人で担当しており、着実な広がりを見せています。13製品には前立腺がん治療薬「イクスタンジ」をはじめ、国内売上高上位製品のほとんどが含まれています。

 

【アステラス製薬/オンラインMRの担当製品】①前立腺がん治療薬「イクスタンジ」、抗がん剤「パドセブ」/②腎性貧血治療薬「エベレンゾ」/③関節リウマチ治療薬「スマイラフ」、同「シムジア」/④抗がん剤「ゾスパタ」、同「ビーリンサイト/」⑤高コレステロール血症治療薬「レパーサ」/⑥糖尿病治療薬「スーグラ」、2型糖尿病治療薬「スージャヌ」/⑦骨粗鬆症治療薬「イベニティ」/⑧過敏性腸症候群・慢性便秘治療薬「リンゼス」/⑨過活動膀胱治療薬「ベタニス」

 

今後については、製品ポートフォリオなどの事業環境や、医療従事者の医薬品情報入手経路の変化を踏まえ、組織体制のあり方を検討することにしています。同社は21年に行った早期退職によってMR数が一気に500人減の約1200人まで縮小しました。8月1日には、国内営業体制の見直しとそれに伴う「特別転進支援制度」の実施を発表しており、体制がスリム化する中でオンラインMRをどう活用していくのか興味深いところです。

 

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BI、注力製品に特化

日本ベーリンガーインゲルハイムも19年1月の導入当初、将来的な拡大を示唆していました。デジタルに親しみのある医師への世代交代が進み、リアルの面会回数の減少も予想される中で、「e-MRはこれからの戦略の根幹」と位置付けていました。同社のe-MRは21年8月から本格稼働し、22年1月には名称を「e-Expert Sales」に変更。エリア担当MRも同席し、医師を含め3人でのオンラインディテールに切り替えた「進化形」(同社)となっています。

 

発足から3年が経過しましたが、開始当初5製品だった対象製品は現在、プライマリー領域ではSGLT2阻害薬「ジャディアンス」が中心。専門性の高い学術情報の提供を狙い、注力製品に特化した形です。スペシャリティ領域は「オンラインエンゲージメントグループ」を別に立ち上げ、抗線維化薬「オフェブ」や肺がん治療薬「ジオトリフ」についてオンラインでの面会や説明会を行っています。

 

同社はe-Expert Salesの人数や増減について明らかにしていませんが、対象製品を拡大するかどうかについては「顧客の反応や活動実績を踏まえ、柔軟に対応していきたい」としています。24年4月に予定される医師の働き方改革によって面会方法や情報ニーズが変化する可能性があり、それにどう対応するかが当面の課題だといいます。

 

停滞気味の住友ファーマ、エーザイも体制縮小

20年6月にスタートした住友ファーマの「オンラインMR」は、当初の2人から21年11月には6人に増員。糖尿病と中枢神経の2領域にそれぞれ3人配置しています。同年9月に発売した糖尿病治療薬「ツイミーグ」のライブ説明会を集中的に行うなど活発に展開していましたが、その後は医師側のニーズが低調なためか活動はやや停滞気味。面談数は伸びていないようです。

 

ツイミーグは想定を上回る処方によって今年4月に限定出荷となり、積極的なプロモーションを控えざるを得なくなりました。オンコロジー領域で新薬を発売することになれば増員の可能性もありましたが、新薬候補が相次いで開発中止となり、しばらく領域の拡大はなさそうです。

 

【デジタル専任MR 主な企業の導入状況】<日本イーライリリー/日本ベーリンガーインゲルハイム/エーザイ/住友ファーマ/アステラス製薬>名称/e-MR e-ExpertSales/デジタルMR/オンラインMR/オンラインMR|導入時期/2009年4月/2019年1月/2020年5月/2020年6月/2021年4月|人数:非開示/非開示/2人/6人/26人|製品領域/全領域/ジャディアンス・オフェブ・ジオトリフ/デエビゴ・フィコンパ・エクフィナ・グーフィス・モビコール/ラツーダ・ロナセンテープ・ツイミーグ/9領域・13製品

 

エーザイは20年4月に「デジタルMR」を導入し、5人体制で活動を開始しました。しかし、現場のMRや本社の製品担当者のデジタルリテラシーが向上しているとして、あえて増員する必要はないと判断。現在は2人体制に縮小しています。担当する製品は不眠症治療薬「デエビゴ」や抗てんかん薬「フィコンパ」など5製品。人員は状況によって多少の増減はあるにせよ、積極的に拡大する方向にはありません。

 

デジタル化にいち早く着手した日本イーライリリーは、当初からリアルMRとは内容が異なる情報提供を行っており、そもそも拡大志向はありません。09年に導入した「e-MR」は全領域を担当。今後の体制については「顧客ニーズと新たに市場導入される製品が対象とする疾患の特性を見極め、都度、検討していく」としています。オムニチャネルアプローチを強化する中、e-MRは単独で機能させるのではなく、複数存在する顧客との接点をトータルで考え、より良い形に組み立てていく考えです。

 

「医師の働き方改革」がポイントに

製薬各社がデジタル専任MRを導入した背景には、新薬がスペシャリティ領域にシフトしたことに加え、医療機関側で面会以外の情報提供に対するニーズが生じてきたことが挙げられます。新型コロナウイルス感染症の流行によってMRから情報を直接受け取りにくくなったことも導入を後押ししました。

 

その後、時代はポストコロナへと移りましたが、製薬企業側にデジタル専任MRを拡大させようという強い意欲は感じられません。予想したほど医師側にニーズがないのかもしれませんし、エーザイのように一般のMRでも対応可能との判断があるのかもしれません。あるいは次の段階に移行する踊り場にあるのでしょうか。

 

将来を占う上で1つのポイントとなるのが、来年4月にスタートする医師の働き方改革です。それを機にブレークスルーが起きるのかどうか、見通すことは難しいですが、医師や医療機関を取り巻く環境の変化が製薬企業の医薬品情報提供に何らかの影響を与えることは間違いなさそうです。

 

AnswersNews編集部が製薬企業をレポート

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