そーせいグループが、スイス・イドルシアの日本・APAC(中国除くアジア太平洋地域)事業を約650億円で買収しました。「開発・販売機能の獲得」「日本・APAC地域の事業基盤確立」「パイプラインの拡充」の三兎を追うM&Aで一気に“製薬企業”への脱皮を図ります。
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フルセットのバイオ医薬品企業に
「そーせいは研究から販売までフルセットの機能を持つバイオ医薬品企業になる。今回の取引は買収額の何倍もの価値を生み出す」。7月20日、急遽開催した記者会見で、そーせいのクリストファー・カーギル社長CEO(最高経営責任者)は、イドルシアの日本・APAC事業買収の意義をこう強調しました。
そーせいは今回の買収で、イドルシアの日本法人と韓国法人の全株式を取得するとともに、イドルシアが2022年4月に日本で発売した脳血管攣縮発症抑制薬「ピヴラッツ」と近く日本で承認申請を予定する不眠症治療薬ダリドレキサントを獲得。さらに、イドルシアがグローバルで開発しているパイプラインのうち2品目に関する独占的オプション権と5品目に関する優先交渉権/優先拒否権を取得しました。
1990年創業のそーせいは成長の手段としてM&Aを積極的に活用しており、05年には英アラキス(現Sosei R&D)を200億円超で、15年には同ヘプタレス・セラピューティクスを480億円で買収。ヘプタレス買収では、後の飛躍の糧となるGタンパク質共役受容体(GPCR)を標的とした創薬の技術を手に入れましたが、今回の事業買収はそれを上回る過去最大の規模となります。
そーせいはこれまで創薬研究に特化していましたが、買収を通じて臨床開発や販売・マーケティングの機能を取り込むとともに、日本での事業基盤とAPAC市場への拡大に向けた土台を獲得。最大9つの製品・開発品が加わることで、自社パイプラインも大幅に拡充します。そーせいは昨年以降、「新たな収益源をもたらすM&A」と「後期開発品の日本への導入・商業化」を目標に掲げており、今回の買収はこれに沿ったものです。
自社のコントロールで
そーせいの2022年12月期の業績は、売上収益156億円(前期比12.1%減)、営業利益34億円(9%減)。近年は、GPCR標的薬の研究開発で大手製薬企業と提携し、そこから得られる契約一時金やマイルストン収入で収益の大半をまかなっていますが、新規契約やマイルストンの有無によって収益には波がありました。
買収で獲得するピヴラッツは発売1年目の22年に薬価ベースで75億円を売り上げ、23年は76%増の132億円を予測。そーせいは同薬とダリドレキサントの日本・韓国・台湾でのピーク時売上高を350億円以上と予想しており、カーギルCEOは「今後は収益を提携パイプラインに依存することも少なくなる」と期待。「自社のコントロールで患者に医薬品を届けることができる」と語りました。
イドルシア日本法人の田中論社長は、買収に伴いそーせいの執行役に就任しました。田中氏は今回の買収について「そーせいはシーズをパートナーに委ねるということをやっているが、イドルシアの開発チームが一緒になることで、自社製品をいち早く開発して市場に持っていくことができるようになる。これが1番大きなシナジーだ」と指摘。「そーせいの新薬候補を日本から発信し、世界で開発していけるのは喜ばしい」と話しました。
一方、そーせいのカーギル社長は、少数の社内MSL・MRと外部リソースやデジタルを活用したイドルシアの販売モデルに期待し、「効率の良い販売戦略はそーせいの既存事業との大きなシナジーを生む。将来的には業界トップクラスの利益率を実現する」と強調。APAC地域に事業を拡大することで、同地域へ進出を希望する製薬企業からパートナーに選ばれるようになることにも期待を示しました。
二兎にとどまらず三兎を狙った大型買収は奏効するか。シナジーを実現できるかがカギとなります。