米国で正式承認を取得したアルツハイマー病治療薬「レケンビ」(ロイター)
[ロサンゼルス ロイター]米FDA(食品医薬品局)は7月6日、エーザイとバイオジェンの「レケンビ」(一般名・レカネマブ)を、アルツハイマー病治療薬として初めて正式承認した。
今回のFDAの決定は、何十年にもわたって製薬企業の取り組みの前に立ちはだかってきた疾患にとって、新たなマイルストンとなる。レケンビは臨床試験で、早期アルツハイマー病の進行を27%抑制することを示した。
FDAはレケンビの添付文書に、同クラスのアルツハイマー病治療薬としては最も強い「枠付き」の警告をつけ、潜在的な脳腫脹のリスクに注意を呼びかけている。
レケンビは、アルツハイマー病患者の脳内からアミロイドβと呼ばれるタンパク質の粘着性の沈着を除去するよう設計された抗体医薬だ。エーザイの米国最高経営責任者であるアイヴァン・チャン氏はインタビューに「多くの科学者、医師、臨床試験参加者とそのケアパートナーによる長年の努力の結果、今日、アルツハイマー病コミュニティにとっての勝利を手にしたと確信している」と語った。
レケンビは脳内からアミロイドβを除去する効果に基づき、今年1月にFDAの迅速承認を受けた。しかし、65歳以上を対象とした米国の公的医療保険「メディケア」は、保険適用を臨床試験に参加する患者に制限していた。
保険適用拡大へ
今回の正式承認は、レケンビが公的医療保険の対象になることを意味する。米国のアルツハイマー病患者のほとんどはメディケアに加入している。メディケアを運営するメディケア・メディケイド・サービスセンター(CMS)は、レジストリと呼ばれるデータベースに患者情報を登録することを保険適用の条件にしている。
CMSのチキータ・ブルックス・ラシュア長官は声明で「FDAの決定により、CMSはこの薬を広くカバーするが、この薬がどのように作用するかを理解するため、データの収集を続けることになる」と述べた。
レケンビは点滴で静脈内に投与する薬剤で、米国での定価は年間2万6500ドルに設定されている。
クリーブランド・クリニックの神経老年病専門医で、レケンビの臨床試験に携わったババク・トゥーシ博士は、この治療法には多くの関心が寄せられるものの、実際に投与対象となる患者は10人に1人程度と推測する。トゥーシ氏によると、レケンビはアルツハイマー病の進行を遅らせる薬であり、時間を巻き戻すことはできないと指摘。「これはパズルの1ピースに過ぎない」と言う。
レケンビの新しい添付文書では、薬剤に関連した脳の腫脹や出血の可能性があるため、患者をモニタリングする必要があることが説明されている。APOE4という遺伝子を2つ持つ患者ではリスクが高く、遺伝子検査が強く推奨されるが、必須ではないとしている。添付文書には、ある種の抗凝固薬とレケンビの併用が脳出血のリスクと関連していることを示すデータも含まれている。
ワシントン大バーンズ・ジュイッシュ病院の神経科医であるエリック・ムジーク博士は「リスクを注意深く考慮し、患者と話し合う必要がある。枠対き警告は適切だと思う」とEメールで述べた。
発売3年で10万人に投与
枠付き警告は、5月に後期試験の良好なデータを公表したイーライリリーのドナネマブにも適用される。ドナネマブは同試験で認知機能の低下を35%遅らせることを示した。同試験の詳細な結果は今月末に発表される予定だ。
エーザイのチャン氏によると、同社は医療機関がレケンビを使用できるようにするための努力を拡大しているが、これまでに治療を受けた患者の人数についてはコメントを避けた。
アルツハイマー病協会のジョアン・パイク会長CEOは声明を発表し「この致命的な病気と闘っている人々は、FDAが承認した治療法が自分に適しているかどうか、主治医や家族と話し合い、選択する機会を得るべきだ」と述べた。
FDAの外部専門家で構成される諮問委員会は先月、レケンビが患者にとって有意義な利益をもたらす一方、安全性の懸念は管理できる可能性が高いと結論付け、同薬の正式承認を勧告した。
アルツハイマー病協会によると、米国には600万人以上のアルツハイマー病患者がいる。エーザイはレケンビの発売後3年間で、アミロイド低下薬が米国で約10万人の患者に使用されると見込んでいる。
FDAが初めて承認したアルツハイマー病治療薬「アデュヘルム」もバイオジェンとエーザイによって開発されたが、メディケアの適用制限によって使用は広がっていない。
(Deena Beasley/Julie Steenhuysen、編集:Bill Berkrot/Matthew Lewis、翻訳:AnswersNews)