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武田譲りの「創薬エンジン」強みに、臨床開発から創薬研究に軸足転換―スコヒアファーマ・渡部正教社長|ベンチャー巡訪記

更新日

亀田真由

製薬業界のプレイヤーとして存在感を高めるベンチャー。注目ベンチャーの経営者を訪ね、創業のきっかけや事業にかける想い、今後の展望などを語ってもらいます。

 

今回訪ねたスコヒアファーマは、武田薬品工業の腎・代謝・循環器領域の研究者とパイプラインアセットをもとに、INCJと武田薬品、メディパルホールディングス(HD)の出資を受けて2017年に設立されたカーブアウトベンチャー。これまで武田から持ち出したアセットの臨床開発を進めてきましたが、昨年それが一段落し、現在は創薬研究に軸足を移しています。

 

渡部正教(わたなべ・まさのり)筑波大医科学研究科修了。1993年に武田薬品工業に入社し、前臨床研究開発に従事。2017年の発足時からスコヒアファーマに参画し、22年6月1日から社長CEO兼CSOを務める。

 

「高付加価値で成功確率が高いアセットをゼロから創出する」

――昨年6月の社長就任のタイミングで武田薬品からライセンスを受けた8つのアセットの評価が終わり、臨床開発に力点を置いていたそれまでの方針を転換したそうですね。

スコヒアファーマを設立した当初は、直接的レニン阻害薬「SCO-272」やエンテロペプチダーゼ阻害薬「SCO-792」など、武田薬品から引き継いたパイプラインの臨床開発を進め、それをもとに早期に上場するシナリオを描いていました。上場後の持続的成長を見据えて基礎的な研究も進めていましたが、資本の多くは臨床開発に投入していました。アセット評価のための臨床試験はおおむね予定通りに進んだと思います。

 

ただ、なかなか開発がうまくいかなかった。最も進んでいたSCO-272は、ターゲットとしていた糖尿病性腎症の臨床試験で想定よりも長い期間を要するエンドポイントを用いる必要が出てきたため、臨床第3相(P3)試験の実施が困難になりました。SCO-792は一番期待をかけていたアセットでしたが、肥満2型糖尿病と糖尿病性腎症でP2試験を行ったところ、前臨床で思い描いていたほどの薬効が出ませんでした。

 

一方、糖尿病や肥満、非アルコール性脂肪肝炎(NASH)を予定適応とするGLP-1R/GIPRデュアルアゴニスト「SCO-094」やGPR40フルアゴニスト「SCO-267」は、想定通りの薬効を示したものの、導出に難航しました。この領域は巨大なアウトカム試験が要求されることもあり、一部を除いてメガファーマも撤退している状態で、なかなかパートナーが見つからなかった。

 

こうした背景から、想定していた早期のIPO(新規上場)は難しいと判断し、昨年、会社の方針を大きく変更しました。臨床開発から創薬研究に軸足を移したんです。それは、今後の会社のあり方を考えたとき、当社の強みは「創薬エンジン」だと考えたからでした。より高付加価値で成功確率が高い新規のアセットをゼロから創出することに注力すると決め、当時創薬研究のヘッドを務めていた私が前任の奥村洋一から社長を引き継ぎました。

 

――方針転換によって会社の形に変化はありましたか。

そうですね。まず、規模が大きく縮小しました。当初は臨床開発や早期のIPOを見越してそれなりの人員を抱えていましたが、現在は創薬研究員がメイン。一時は50人弱いた社員は、15人ほどになりました。資金面でも、これまでほとんどのリソースを割いてきた臨床開発をミニマムにしました。研究への投資額はほぼ維持しています。

 

――強みと言う「創薬エンジン」について詳しく教えてください。

当社の研究員は、武田薬品時代に糖尿病治療薬や、循環器系疾患治療薬などの研究開発に携わってきたメンバーです。他社に譲渡して武田薬品としては撤退した薬もありますが、われわれは開発当時、前臨床を中心にこうした薬剤の研究を行っていました。その中には最終的には製品になっていないものも当然ありましたけど、そうやって各々が成功も失敗も積み重ねてきて、薬剤にどういうプロファイルが求められているのか自然に頭に入っている。それがスコヒアファーマの1つの強みです。

 

――渡部さんとして特に思い入れのあるプロダクトはありますか。

SCO-792は、私が武田薬品時代に前臨床チームのリーダーとしてゼロから立ち上げたアセットで、関わりが大きかった分、思い入れがあります。全ての過程に関与していて、グローバルで臨床開発を進めることになったときは、日本の前臨床メンバーとしてグローバルのチームにジョインし、ディスカッションを重ねてP1試験を実施しました。スコヒアに参画したのも、このアセットが理由の1つです。

 

だからというわけではありませんが、SCO-792はほかの疾患への応用の検討を進めています。P2試験で得られたPD(薬力学的)バイオマーカーの変動を見ると、ほかの疾患への展開が期待され、臨床試験を実施できないか専門家とともに検討を進めています。

 

SCO-792以外にも、IND直前の安全性試験の結果は生活習慣病領域で求められるレベルに達していないものの、がんなど短期間の治療でなら使えるかもしれない薬剤があります。こうしたアセットを何とかほかの疾患で活躍させることができないかと考えています。

 

このように、別のインディケーションにチャレンジできる自由度の高さは、武田薬品のころにはなかったメリットです。組織が小さい分、決断がスムーズ。一方で、やはり資金面での厳しさはあります。使える資金が限られるので、開発もひとつひとつステップ・バイ・ステップで進めていくしかなく、どうしても時間がかかってしまいます。

 

2つの導出アセット 25年ごろのPOC見込む

――ほかのパイプラインについても教えてください。パートナリングに難航したという「SCO-094」の開発では、21年に中国のHuadong Medicineとアジア太平洋地域で提携し、今年2月に対象地域を全世界に拡大しています。

SCO-094は、非常に強い抗糖尿病作用と抗肥満作用を持つ薬剤です。最近市場に出てきた米イーライリリーのチルゼパチド(一般名)と同じメカニズムで、前臨床研究では同薬より活性が強いことを確認しています。ただ、同薬が週1回投与なのに対し、SCO-094は1日1回投与製剤を中心として開発していたため、導出に苦労しました。今後はHuadong社で持続性製剤の検討を含め、開発を進める予定です。

 

――スコヒアファーマで創製した「SCO-116」も昨年6月に導出しました。

SCO-116は、プレクリニカル段階にあるNrf2活性化薬で、当社が創製したアセットです。Nrf2は世界的に注目されているターゲットで、プロジェクト自体は武田薬品時代から進めてきましたが、当初は強い化合物を作ることができなかった。当社に移った後、メドケムチームの独創的なアイディアで低用量でも効果が期待できる化合物を創製でき、そこから一気に開発が進みました。

 

SCO-116はメカニズム上、酸化ストレスが原因となる疾患に幅広く効く可能性があり、さまざまな疾患に応用できると考えています。眼科と皮膚疾患の局所製剤の権利を米国のKuria Therapeutics社に導出しており、それ以外では引き続きパートナーを探しています。腎疾患では、先行していたバルドキソロンメチル(一般名)が開発中止を発表しており、開発のハードルは高くなっていますが、それ以外の出口を狙っているところです。

 

――ゼロからスコヒアファーマで立ち上げたアセットはありますか。

具体的にはオープンにしていませんが、前に進んでいるアセットが3つあります。1つはペプチド医薬のプロジェクトで、残りの2つは低分子化合物のプロジェクトです。われわれは2つのモダリティでさまざまなドラッガブルターゲットを攻めています。

 

ただ、ペプチドと低分子で開発できるターゲットには限りがありますので、モダリティの幅も増やしていきたいと考えています。現在は資金的な問題でなかなか手を広げることができませんが、今あるアセットをしっかり仕上げて会社を成長させ、IPO後には(抗体や遺伝子治療薬といったほかのモダリティを持つ)他社とのコラボレーションや、技術を持った人材の採用も行い、誰も手を出してこなかった領域の創薬をやっていきたい。具体的には、糖尿病や肥満よりも患者数の少ない希少疾患を想定しています。

 

――IPOはいつごろを目指しますか。

2026年ぐらいの上場を目標にしています。現在導出している2つのアセットは、それぞれ25年ごろにはPOCを取れると見込んでいますので、パートナーと進めていきます。それとともに、我々自身でほかのアセットの臨床開発も進め、導出までつなげたい。その1つがSCO-792で、自社で臨床試験に入るかどうかを近いうちに決めたいと思っています。

 

――循環器・代謝領域に長年関わってきた渡部さんは、この領域の将来をどのように展望していますか。また、スコヒアファーマとしてそこにどのように関わっていきますか。

慶應義塾大の伊藤裕先生が提唱した「メタボリックドミノ」という考え方がありますが、ドミノの最初のスタートが肥満なんです。肥満がもととなって高血圧や脂質異常症が起こり、進んでいくと糖尿病、脂肪肝につながる。さらに進行すると脳卒中や腎不全など、死に至る合併症を発症します。つまり、肥満の時点で抑えてしまうのが最も合理的であり、実際、胃のバイパス手術によって糖尿病や肥満だけでなく合併症も治るケースがあります。

 

私自身も循環器・代謝領域は肥満を制する治療に最も力を入れるべきだと思いますし、肥満治療薬が出てきて、市場は変わっていくんじゃないかと思っています。ただ、だからこそコンペティターが多い領域でもあります。

 

もちろんチャンスがあればこうした領域にも挑戦したいですが、われわれとしては、もう少しマイナーなところを狙っていきたい。具体的には肥満の逆、太り過ぎがあったら痩せすぎもありますよね。たとえば、がんや腎臓病、心不全などでは、カヘキシアと呼ばれる栄養不良により痩せて衰弱してしまうことが予後の悪さに繋がっています。それから、高齢になるに従って筋肉が痩せていくサルコペニアもその1つ。今現在、これらの疾患をターゲットとするパイプラインを持っているわけではありませんが、ゆくゆくはこういったところに手を広げて行きたいと思っています。

 

(聞き手・亀田真由)

AnswersNews編集部が製薬企業をレポート

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