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「製薬企業は輸出で稼げ」と言われたら…|コラム:現場的にどうでしょう

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ノブ

「(製薬企業は)グローバル市場への輸出によって稼げるよう、産業競争力を獲得することが求められる」

 

財務大臣の諮問機関である「財政制度等審議会(財政審)」が5月29日にまとめた建議(提言書)に、こんな文言が盛り込まれました。この文言自体は同月11日に開かれた同審議会財政制度分科会に財務省が提出した資料にも書かれており、この時はある業界紙が「財務省 日本の製薬企業『輸出で稼ぐべき』」との見出しで報じたことで業界関係者の耳目を集めました。

 

普段から薬剤費抑制を主張する財務省が言うことだけに、この記事に対するSNSの反応を見ていると、モヤモヤしたものを感じた人が多かったようです。実際、建議には「既存薬価の改定率は例年マイナスとなっているが、薬剤使用量の増加や新規医薬品の保険収載により、薬剤費総額は拡大傾向にある」「今後の高齢化の進展に伴い、さらなる薬剤費の増加も見込まれる」などとお決まりのフレーズも並んでおり、明記はされていないものの「日本では利益を出せないようにしていくから、君たちは海外で稼げるようになってね」と言われているような気分になりました。

 

「ならば」と、日本の製薬企業が日本を後回しにして海外での開発・販売を優先し始めたらどうなるでしょうか。日本は臨床開発のコストが高いと言われていますし、薬価の引き下げも加速しています。製薬企業だって営利企業です。ただでさえ膨大な費用と時間を要する新薬開発を、利益が見込めない国でやるのはビジネスとしてまったく魅力的ではありません。

 

日本から製薬企業が出て行ってしまったら…

海外での開発・販売を優先するのであれば、そもそも本社を日本に置いておく必要があるのかという議論だってあり得ます。魅力ある市場にアクセスしやすい国に拠点を移すのは一考の価値があると考える経営者が出てきてもおかしくないように思います。医薬品を開発し、供給する会社が日本から出ていってしまったら…考えるだけで恐ろしくなります。

 

製薬企業の中に目を向けてみると、「輸出で稼げ」と言われて一番モヤモヤしているのは、国内で開発業務にあたっている方々や、MRとして営業活動に従事している方々なのではないかと思います。開発も営業も大変な仕事です。もちろん、会社の売り上げに貢献するという側面もありますが、根底にあるのは「病に苦しむ人たちの状況を少しでも良くしたい」という気持ちでしょう。「輸出で稼げ」を「自分たちの活動はアテにされていない」とネガティブに捉えると、現場で働く人のモチベーションの下げてしまうのではないかと心配します。優秀な人材がこの業界に見切りをつけ、他業界に流出してしまわないでしょうか?そのような事態にならないことを願います。

 

とはいえ、日本はまだ米国と中国に次ぐ世界3位の医薬品市場であり、日本の売り上げはまだまだ重要と考えている会社が多いのではないでしょうか。日本の製薬企業も全体として海外売上高比率を高めているものの、小規模の企業を中心に日本での売り上げが大部分を占めるところも少なくありません。そうした企業が「輸出で稼げ」と言われて「はいそうですか」と対応できるかというと、難しいでしょう。世界で売れる新薬を開発することはもちろん、国や地域によって異なる規制に対応して承認を取得し、販路を構築しなければなりません。創薬にも供給にも、多大なコストと労力が必要です。

 

仕事のやり方も変わる

財務省も、日本企業の薬が日本で使えなくなることを積極的に望んでいるわけではないでしょう(現状はそうなりかねない状況であり、それはそれで大きな問題です)。建議を好意的に読めば、「日本の製薬企業はもっと頑張れ」と捉えることもできないわけではありません。であればなおさら、日本で医薬品を開発し、供給することが報われるような環境をつくってほしいと思います(ボロ儲けさせろと言っているわけではありません)。

 

さて、「輸出で稼げ」と言われた私たちは、これまで以上に海外に(社内・社外問わず)目を向ける必要があるでしょう。海外企業との提携やM&Aはもちろん、海外のアカデミアや医師との連携も重要ですし、海外に拠点があるなら、そこのメンバーと仕事をすることも想定されます。組織体制も変わっていくことでしょう。

 

海外のメンバーと仕事をするということは、仕事のやり方や考え方が大きく変わるということです。私の個人的な経験からすると、他国のメンバーを意識しながら効率的に仕事をするには、個人の意識変革はもとより、社内文化の改革が必要だと感じています。少なくとも「英語が苦手だから」などと悠長なことは言っていられない時代が、もうとっくにやって来ていることは間違いありません。

 

ノブ。国内某製薬企業の化学者。日々、創薬研究に取り組む傍らで、研究を効率化するための仕組みづくりにも奔走。Twitterやブログで研究者の生き方について考える活動を展開。
Twitter:@chemordie
ブログ:http://chemdie.net/

 

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