アステラス製薬が大型化を期待する更年期障害治療薬フェゾリネタントが、5月12日に米国で承認されました。抗がん剤「イクスタンジ」の特許切れが迫る中、その後の成長を左右する重要な製品で、岡村直樹社長は「ピーク時に売上高5000億円も可能」と話します。19日に開かれた投資家・メディア向け説明会では、主要市場である米国での売り上げ拡大に向けた道筋が示されました。
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米国の患者数は1100万人
「ベオーザは、(2025年度までの)経営計画の達成と、イクスタンジ独占期間満了後の持続的な成長のために、極めて重要な製品と位置付けている。承認のニュースは米国の多くの主要メディアで取り上げられ、あらためて高い期待を実感している」
アステラス製薬の岡村直樹社長CEO(最高経営責任者)は5月19日、更年期障害治療薬フェゾリネタント(米国製品名VEOZAH=べオーザ)の米国承認を受けて開いた説明会で、同薬への強い成長期待を示しました。発売初年度となる今期(2024年3月期)は490億円の売り上げを計画しており、現在の経営計画の最終年度となる26年3月期には3000億円まで伸ばすことを目指しています。岡村社長は「その後もさらに成長して5000億円も可能だ」と話しました。
5月12日に米FDA(食品医薬品局)によって承認されたべオーザは、閉経に伴う中等度から重度の血管運動神経症状(VMS)の治療薬。VMSの主な症状はホットフラッシュ(顔のほてり・のぼせ)や寝汗で、更年期の女性に見られる最も一般的な症状の1つです。米国では、閉経への移行中または移行後の女性の6~8割がVMSを経験しているとされ、患者数は1100万人に上るといいます。
非ホルモン療法の新たな選択肢
べオーザは、ニューロキニン3受容体拮抗薬と呼ばれる新しい作用機序の薬剤です。閉経前の女性の体内では、卵巣から分泌されるホルモン「エストロゲン」と脳内物質「ニューロキニンB(NKB)」がバランスをとって脳の体温調節中枢を制御していますが、閉経期になるとエストロゲンが減少し、そのバランスが崩れることでVMSが起こります。べオーザはNKBの働きをブロックすることで体温調節中枢のニューロン活動を抑え、ホットフラッシュの頻度と重症度を軽減します。
閉経に伴うVMSの治療には従来、ホルモン製剤が使われていましたが、副作用の問題もあって今ではあまり使われていません。べオーザはVMSに対する非ホルモン療法の新たな選択肢となる可能性があり、それゆえに高い注目と期待が寄せられています。
啓発に注力
べオーザは自社開発の低分子化合物で、アステラスにとって利益率の高い製品になります。岡村社長は「売り上げの拡大がそのまま利益拡大に大きく貢献する製品であり、経営計画で掲げるコア営業利益率30%以上の達成にはべオーザの成長が不可欠だ」と指摘。売り上げの大半を占めると予想する米国での成功がカギになるとし、速やかな市場浸透のために積極的な投資を行う考えを示しました。
アステラスはこれまで、べオーザの発売に向けてウェブサイトやSNS、テレビCMを使った疾患啓発活動を活発に展開しており、今年2月には1億人以上が視聴したアメリカンフットボールのスーパーボウルでCMを放映しました。米国のコマーシャル責任者を務めるマーク・ライゼナウアー氏は「これまでの活動によって、医療従事者や女性のVMSに対する認知度は大きく向上した」と強調。アステラスの調査によると、VMSを経験した1100万人の女性のうち、医療機関を受診したのは72%で、処方薬による治療を受けたのは39%ですが、ライゼナウアー氏は「べオーザの発売によって受診率、治療率ともに上昇すると期待される」と述べました。
DTCを積極展開
アステラスは、べオーザのアーリーアダプター(新情報をいち早くキャッチし、取り入れる層)として200万人の患者と9万7000人の医師を想定しています。ブランドの認知度向上に向け、ウェブサイトを通じた医師向け・患者向けの発売キャンペーンを始めており、10月から本格化させるテレビCMなどを使ったDTC(消費者向け広告)によって急速な普及を図る考え。過活動膀胱治療薬「ベシケア」「ミラべトリック」の販売で構築した婦人科領域でのポジションやノウハウも活用し、約500人のMRが医療従事者への情報提供にあたります。
米国での卸売価格は30日分で550ドル(約7万5000円)に設定。既存薬より高額ですが、米国アステラスのバイスプレジデント、リン・フェニッキア氏は「保険者、医師、患者に対する広範な調査をもとに設定しており、この価格が保険者が想定する幅の中にあることもわかっている」と強調。アステラスは保険適用に向けてペイヤーとの交渉を進めており、薬剤費の支払いや保険適用をサポートする患者向けのプログラムも用意しています。
問題は、アステラスが期待する通りに売り上げが伸びるかどうかです。英調査会社エバリュエートによると、同薬の売り上げ予測は25年に8.44億ドル(約1173億円)、28年に19.39億ドル(約2695億円)となっており、会社側の想定は強気なようにも思えます。岡村社長も「期待通りに浸透できるかが株式市場の関心であり、同時に懸念されている点でもあると認識している」と認めつつ、「これまで丁寧に実施してきたマーケットリサーチには信頼を置いている。それが自信の裏付けとなり、速やかな市場浸透は十分可能と見ているし、発売数年で急速に成長することも見込んでいる」と話しました。
イクスタンジの特許切れ対策としては、今月1日に米バイオ医薬品企業アイベリック・バイオを59億ドル(約8000億円)で買収すると発表。抗がん剤「パドセブ」とべオーザに、同社が手掛ける米国承認間近の加齢黄斑変性治療薬を加えた3本柱でイクスタンジの売り上げ減少を補う構えです。