(写真:ロイター)
[ニューヨーク ロイター]米連邦取引委員会(FTC)が、米アムジェンによるホライゾン・セラピューティクスの買収差し止めを求めて提訴した。投資家はその影響を注視しており、製薬業界のほかの大型案件への波及を懸念する声も聞かれる。
規制当局が大型の企業合併に反対する際、消費者に損害が生じる可能性を指摘することはよくある。アムジェンとホライゾンの事業の重複は限定的で、FTCによる16日の提訴は反トラスト法のリスクを軽視していた人々を驚かせた。
ファイザーが3月に430億ドルの買収に合意したシージェンの株価は、FTCが合併に異議を唱える可能性があるとの懸念から6%安の187.64ドルに下落。1株あたり229ドルの買収価格を大きく割り込んだ。
これに対し、その後に買収が発表された中小バイオテクノロジー企業の株価下落は小幅だ。メルクが108ドルで買収することで合意したプロメテウス・バイオサイエンスや、アステラス製薬に59億ドルで売却することを決めたアイベリック・バイオなど、取引完了を待っているバイオテックの株価は1~2%の下落にとどまっている。
FTCが買収阻止に動いたことで、今後買収のターゲットになると見られている企業の株価も影響を受けた。バイオマリン・ファーマシューティカルズ、アルナイラム・ファーマシューティカルズ、サレプタ・セラピューティクスの株価は3~7%下落した。
FTCの担当者は、アムジェン・ホライゾン以外の製薬企業の案件への対応についてコメントを避けた。
ウィリアム・ブレナのアナリストは投資家向けのレポートで「アムジェンとホライゾンの間に直接的なポートフォリオの重複がないことを踏まえると、FTCが買収差し止めを求めて提訴したことは、バイオテクノロジー分野全体のM&Aの熱を冷ますことにつながるだろう」と指摘した。
バンドリングに着目
FTCは買収に反対する理由について、アムジェンがホライゾンの2つの主要製品を宣伝するかわりに、薬剤給付管理会社へのリベートを利用して価格設定で有利になるよう圧力をかけ、ライバルに不利益を与える懸念があるとしている。2つの製品とは、いずれも急速に売り上げを伸ばしている「Tepezza」(甲状腺眼症治療薬)と「Krystexxa」(痛風治療薬)だ。
アナリストや法律の専門家によると、こうしたバンドリングの可能性に基づいてディールを阻止しようとするのは、規制当局が反トラスト法違反事件でこれまで展開したことのない新しいアプローチだという。
アムジェンもホライゾンもバンドリングについては否定しており、専門家らは今回のアプローチは法廷で退けられる可能性が高いと見ている。
ジェフリーズのアナリストは、同社が16日に開いた顧客向けのカンファレンスコールで、規制当局の動きの影響について「(FTCによる提訴が)長期的に何かを変えるとは思わない」と語った。
とはいえ、投資家は、ほかの案件が規制上の問題に直面する可能性を不安視している。特に関心が高いのが、製品やパイプラインの重複が大きいファイザーとシージェンの案件だ。
ファイザーはシージェンの強みである抗体薬物複合体(ADC)を持っていないものの、承認済された20以上の製品でがん治療薬の強固なポートフォリオを構築している。BMOのアナリストは投資家向けのレポートで「ファイザーとシージェンの取引にも、同様の異議が唱えられるかもしれない」と指摘。FTCが、バンドリングにつながるリソースを持つ大手製薬企業を標的にする可能性があるとした。
他方、投資家やアナリストらは、小規模な買収は今後も規制当局の監視を気にすることなく行われることを期待している。今年発表された上場バイオテクノロジー企業の買収11件のうち、100億ドルを大きく上回る価値があるのはファイザーとシージェンの案件だけだ。
エーバーコアのアナリストは投資家向けのレポートで「メガディールへの関心が薄れれば、M&Aの焦点はより小規模で初期段階のバイオテクノロジー企業、それもより多くの企業に移っていくだろう」と指摘した。
(David Carnevali、編集:Greg Roumeliotis/Jamie Freed、翻訳:AnswersNews)