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eConsent 普及への機運高まる…ガイダンス公表で規制クリアに、ベンダーへの引き合い急増

更新日

前田雄樹

臨床試験の参加者に対して、電子的な方法で試験内容を説明し、参加の同意を取得する「eConsent(イーコンセント)」の普及に向けた機運が高まっています。今年3月には、厚生労働省が実施の留意点などをまとめたガイダンスを公表。規制面がクリアになったことで製薬各社が導入に動き出しており、eConsentのシステムを提供するベンダーへの引き合いも急増しています。

 

 

実施の要件や留意点を明確化

eConsentは、パソコンやタブレット端末などに表示される文書や動画、インターネットを介して行うビデオ通話といった方法で臨床試験の参加者に試験内容を説明し、電子署名などによって参加の同意を得ること。日本語では「電磁的方法を用いた説明・同意取得」と呼ばれます。

 

eConsentは分散型臨床試験(DCT)を構成する要素の1つ。臨床試験の効率化や被験者の利便性向上が期待されるほか、被験者の理解向上による同意取得率の向上、ドロップアウト率の低下といったメリットがあります。

 

規制上、eConsentはこれまでも禁止されていたわけではなく、実際、国内の臨床試験でも導入されたケースはあります。ただ、従来の規制では想定されていなかった方法であり、実施の要件や留意点が不透明だったため、導入をためらう企業も少なくありませんでした。そこで業界側は、GCP省令のガイダンスやQ&Aなどでそうした点を明確化するよう要望。この問題は2021年度の政府の規制改革推進会議でも取り上げられ、22年度中にガイダンスを示す方針が決まりました。

 

こうした経緯で作成され、3月30日付で公表された厚生労働省のガイダンス(治験および製造販売後臨床試験における電磁的方法を用いた説明および同意に関する留意点)では、「対面と同等の説明や質疑応答が行われることを前提に、電磁的方法を用いた説明・同意取得は可能」と明記。遠隔で行う場合の本人確認、電子署名を行う際の当人認証、説明・同意文書の交付などについて臨床試験を行う企業や医療機関が留意すべき点が示されました。

 

【eConsentに関するガイダンスのポイント】 ▽従来の対面で行う場合と同等の説明・質疑応答が、治験責任医師・治験分担/医師の責任の下で行われることを前提として、電磁的方法を用いた説明・同意取得は可能/▽説明・同意取得の相手が被験者等本人であることを確実に確認可能な手順を定めた上で、それを適切に実施する/▽遠隔で行う場合は、被験者と治験責任医師・治験分担責任医師の双方が身分確認書類を用いてお互いに本人であることを確認する/▽電子署名・デジタルサインを行う場合は、複数の要素を組み合わせた多要素/認証によって被験者等の当人認証を行うことが望ましい/▽説明に動画やスライドの視聴を含めることは問題ないが、それらを活用しつつも対面やビデオ通話を組み合わせることで、被験者の理解の度合いに応じた説明をすることを基本とする/▽説明・同意文書の写しの交付は、クラウドシステムを通じて被験者がダウンロードすることにより行っても問題ない。ダウンロードが確認できた場合は交付が行われたとみなすことができるが、アップロードしただけでは交付が成立したと言えないことに留意する/▽説明に用いる文書や動画などが、GCP省令で規定される説明文書に含まれるかどうかを事前に明確にしておく。動画などが被験者の理解向上のための参資料とみなせる場合は、説明文書に含まれないものとして扱って問題ない/|※「治験及び製造販売後臨床試験における電磁的方法を用いた説明及び同意に関する留意点について」(2023年3月30日)をもとに作成

 

「導入相談、3倍以上に」

最大のネックだった規制の問題がクリアになったことで、国内の製薬各社はeConsent導入に向けて動き出しています。DCT関連のシステムを提供する米メディデータ・ソリューションズの日本法人によると、ガイダンスの公表以降、eConsent導入の引き合いは増えており、4月下旬の時点で前年までの3倍を超える相談が寄せられているといいます。

 

同社の小野口浩行ダイレクトセールス・ソリューションセールススペシャリストは「ガイダンスの検討方針が伝えられて以降、それが出るまでは様子見という企業も多かったが、公表されたことで動き出せるようになった」と指摘。今後、導入に向けた具体的な動きが広がっていくだろう」と見通します。

 

要件や留意点が明確になったことで、ベンダー側もシステム面での対応を進めています。ガイダンスでは、電子署名・デジタルサインによって同意を取得する場合は、被験者本人であることの認証を複数の要素を組み合わせた多要素認証で行うことが望ましいとされました。小野口氏は「多要素認証をどこまでやるか、どの段階でやるのか、顧客の意見も聞きながら検討・対応を進めている」と言います。説明・同意文書の写しについても、クラウドシステムを通じて遠隔で交付する場合は被験者がダウンロードしたことを確認するよう求めており、施設側で確認できる手段を検討しています。

 

同社では昨年夏、複数の製薬企業の関係者が出席し、eConsent導入に向けた検討状況や課題を話し合うラウンドテーブルを開催しました。ガイダンスの公表を受け、製薬企業側からは「もう1度集まって議論したい」という声も寄せられているといい、小野口氏は「あらためてそういった場を設けたい。一歩進んだ議論ができるのではないか」と機運の高まりに期待しています。

 

課題は施設の理解と導入コスト

一方、導入に向けた課題として残るのが、臨床試験を実施する医療機関の理解とシステム導入のコストです。

 

eConsentを導入する場合、施設側では従来の紙ベースのオペレーションを変える必要がありますが、一方で電子化によって施設側が享受できるメリットについては理解が深まっていないといいます。小野口氏は「施設にメリットを理解してもらい、対応してもらえるかが課題だ」と指摘。同社の安立さなえソリューションコンサルタントは「特に大きい病院ではSOP(標準業務手順書)で運用が固められているので、それを変えるのが難しいという声は聞く。小規模の施設のほうがフットワーク軽く始めやすいだろう」と話します。

 

メディデータでは、施設や患者へのメリットを理解してもらうための10分程度のビデオを作成し、製薬企業やCROが施設に説明する際に活用してもらう取り組みを今年3月に始めました。同社広報の中村淑江氏は「従来はスポンサーやCROのメリットが強調され、施設や患者のメリットが浸透しづらかった。今後も、われわれが今まで直接リーチしてこなかったステークホルダーに理解を深めてもらうような動きは進めていきたい」と話します。

 

メディデータが作成した施設・患者向けビデオのキャプチャ画像(同社提供)

 

一方のコストについては、システム導入の初期費用を気にする企業があるほか、実績がないだけに予算の確保に苦慮するケースも多いといいます。メディデータでは「まずは始めてもらうことが大事」として、システム導入にかかる初期費用を値引きしてハードルを下げる取り組みも行っています。

 

eConsentは、ほかのDCTの要素に比べて取り組みやすく、eConsentを入り口としてほかのDCTの要素も導入が進むのではないかとの期待もあります。小野口氏は「今回、eConsentに関するガイダンスができたことで、国としてもDCTを普及させるという方向性が示された。これを弾みに、ほかの要素についても導入がより広がっていくだろう」との見通しを示しました。

 

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