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海外で活用進む「過去の治験データで外部対照群を構築」…リアルワールドデータと何が違う?

更新日

亀田真由

近年、活用への動きが活発化している臨床試験の外部対照群(臨床試験に参加していない患者で構成された対照群)。その中心は、疾患レジストリなどのリアルワールドデータ(RWD)ですが、海外では過去に行われた臨床試験のデータを活用する試みが進んでいます。RWDとは何が違い、どんな活用が期待できるのか。治験で収集された臨床データをもとに外部対照群を構築するサービスを提供する米メディデータ、Medidata AIチームでシニアメディカルディレクターを務めるエリザベス・ラモント氏に話を聞きました。

 

 

RWDより質が高い

メディデータが提供するのは、過去20年の間に行われた約3万件の臨床試験から収集した約900万例の臨床データ(主にEDCデータ)をもとに外部対照群を構築するサービスです。外部対照群の活用は、患者数の少ない希少疾患の分野を中心に、臨床試験の期間短縮や効率化につながると期待されています。

 

製薬企業がある試験で同社のサービスを活用しようとする場合、メディデータはまず対象となる試験の適格基準を把握し、過去の臨床試験からそれを満たす患者がいる試験をいくつかピックアップします。そこから試験横断的に患者を抽出し、緻密にデザインされた傾向スコアを使って治療薬群との患者レベルをマッチング。重要な予後変数について両群のバランスが取れた状態にし、より適切な外部対照群を作成します。

 

外部対照群のデータソースにはリアルワールドデータ(RWD)も活用されていますが、ラモント氏は「臨床試験から得られたデータの方が質の高いデータになる」と強調します。一定のプロトコルをベースに治験実施施設で集められたデータは、もともとエンドポイントや共変量、予後因子などを含んでおり、それらを照らし合わせることでマッチングしやすいという利点があります。一方、RWDは観察で得られたデータであり、エンドポイントは設定されていません。アウトカムや有害事象の報告が漏れている可能性もあり、マッチングが難しい面もあります。

 

さらにラモント氏は、RWDを外部対照群にすることで結果にバイアスが生じやすくなるとも指摘します。RWDに含まれる患者のデータは、実際の治験に比べて「フィットでない(健康状態が悪い)」可能性が高く、結果として対照群と実験群に差が生じやすくなる懸念があるといい、ラモント氏は「そうなると、RWDとの比較だけで企業が意思決定を行うのは難しくなります。規制当局も同じ懸念を持っているでしょう」と指摘。過去の臨床試験データは自ら試験に参加することを決めた患者のデータであり、そうした面でも潜在的なバイアスは減少すると話します。

 

米メディデータ、Medidata AIチームのエリザベス・ラモント氏

 

研究開発の意思決定に活用

ラモント氏によれば、過去の臨床試験データを用いた外部対照群の構築は開発の早期から後期、さらには保険者(ペイヤー)・保健当局との議論まで、多くの場面で活用できる可能性があるといいます。薬事申請に使われたケースはまだありませんが、海外では早期開発段階を中心に活用が進んでいます。

 

【外部対照群(ECA)の応用例】開発早期/●単群試験の解釈の向上や/ハイブリッドECAによるRCTの効率化/●ブレークスルーセラピー指定の根拠|開発後期・薬事利用/●希少疾患の検証的単群試験/●ほかの薬剤の承認が早まり、RCTが機能しない試験の救済|保険者・保健当局との協議/●治療の価値の実証/(実世界での効果や疾患の負担などを踏まえ)|※メディデータの提供資料をもとに作成

 

「薬事の観点で外部対照群が役に立つのは、希少疾患や標準治療のない疾患です。無作為化試験を行うのが難しい試験の方が、外部対照群のメリットを享受できます。ただ、より一般的な疾患であっても、社内の意思決定や薬剤を深く理解するための情報源として活用するのであれば、過去の治験データを用いたサービスは製薬企業をサポートできます」とラモント氏は話します。

 

活用の一例としてラモント氏が挙げたのは、米イムノンが行った進行卵巣がん治療薬候補「GEN-1」の臨床第1b相(P1b)試験です。同試験は、標準的なネオアジュバント療法に同薬を上乗せした際の有効性を評価したシングルアームの試験で、良好な結果が得られたものの、イムノンはP2試験に進めるかどうかを判断するために事後的に外部対照群を活用しました。標準治療のみの外部対照群と比較した結果も良好で、同社は開発を先に進めることを決定。同薬は、外部対照群と比較した結果をもとに、米FDA(食品医薬品局)からファストトラック指定を取得しています。

 

このケースではさらに、外部対照群との比較により可能となったエフェクトサイズ(治療効果の大きさ)の予測から、P2試験に組み入れる被験者数を従来の想定から約20例減らすことができたといい、これによって200万ドル(約2億7000万円)相当のコスト削減効果が生まれたといいます。「外部対照群を使うことで、製薬企業が賢く研究開発投資を行えるようになれば、より早く、有望な治療法を患者に届けることができる」とラモント氏は強調します。

 

日本での活用事例はまだない

一方、後期開発では、ランダム化比較試験を補完するために活用するケースとして、米メディセナ・セラピューティクスが開発している再発性膠芽腫治療薬候補「MDNA55」を紹介しました。同薬は現在、実際に試験に参加する対照群と過去の臨床試験データから作成された対照群を組み合わせた「ハイブリッド対照群」を用いたP3試験を計画中。FDAが過去の臨床試験データをもとに作成された外部対照群を含むハイブリッド対照群の設定を認めた初の事例となりました。

 

ラモント氏は、再発性膠芽腫のような希少疾患・標準治療のない疾患では「規制当局も対照群をヒストリカル・クリニカル・トライアル・データに置き換えることに前向き」だとして、いずれは外部対照群のすべてを過去の臨床試験データに由来するものとする試験も広がっていくと見通します。患者数の多い疾患や適切な標準治療のある疾患では、そのような方向性を目指す必要はないといいますが、それでも「ハイブリッド対照群の活用はすべての疾患で理想とされるようになるのではないでしょうか」と話しました。

 

海外で活用が進む一方、メディデータによれば日本での活用実績はまだありません。同社のデータベースに登録されている日本人の症例数が全体の約6%と少ないことが理由だといいます。ただ、国内製薬企業の関心は高まっており、同社への問い合わせも増えていることから、データの蓄積が進めば状況は変わるとラモント氏は見ています。現時点で活用が見込めるのはどこか、との問いには「社内の意思決定への活用」と答えました。

 

メディデータは日本での活用促進に向けて製薬企業とのディスカッションを積極的に行っています。それ以外に同社が重要と捉えているのは、過去の臨床試験データに由来する外部対照群がランダム化コントロールを再現できることをデータで示していくこと。メディデータは米Friends of Cancer Researchとともに、過去の治験データを活用する手法が従来の無作為化対照を模倣できることを実証しましたが、日本でもこうした成果を作っていくことで活用が広がっていくと期待しています。

 

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