(写真:ロイター)
[ロイター]米イーライリリーの幹部はロイター通信とのインタビューで、脳内のアミロイド班を除去する新たなアルツハイマー病治療薬について、今後、有効性を示すエビデンスが公表されることで米国の高齢者向け公的医療保険「メディケア」が厳しい保険適用制限を見直すことを期待した。
リリーは、アミロイドβを標的とする抗体医薬ドナネマブの臨床試験結果を6月末までに発表する予定。エーザイと米バイオジェンの「レケンビ」(一般名・レカネマブ)も、向こう数カ月のうちにさらなるデータが発表される見通しだ。レケンビは今年初めに米FDA(食品医薬品局)から迅速承認を取得しており、7月までに完全承認を得られるかどうかが決まる。
リリーの政府戦略・連邦アカウント担当シニアバイスプレジデント、デレク・アセイ氏はインタビューに対し、「われわれは、ほかのすべてのFDA承認薬と同様に、(アルツハイマー病治療薬についても)メディケアが全面的なカバレッジを提供してくれると信じている」と答えた。同社が公の場でメディケアの保険適用について楽観的な見通しを示したのは初めてだ。
メディケアは現在、FDAが迅速承認したアルツハイマー病治療薬について、保険適用を臨床試験に登録された患者に限定している。業界団体やアルツハイマー病協会などの患者団体は、この方針は患者を締め出すことにつながるとして制限の緩和を求めている。
メディケアには、この薬剤の投与対象となる米国人の85%が加入していると推定されている。投資家らは、保険適用の制限が売り上げにどのような影響を与えるか注視している。レケンビの価格は年間2万6500ドルに設定されている。
現在の制限「遅れと不公平生じる」
アセイ氏は、現在のメディケアの方針について「ある程度の保険適用は可能だが、遅れと不公平が生じる」と指摘。マイノリティを含め、十分な治療を受けられていない多くの人のアクセスを制限していると語った。
さらに同氏は、メディケアは近くドナネマブに関する「相当量の」新しいデータを入手し、レケンビに関する完全なデータセットを入手することになるとの見通しを示した。アセイ氏は、リリーとエーザイ/バイオジェンが当局の疑問に答える十分なエビデンスを示し、より広範な保険適用への扉を開くことができると期待している。リリーは米メディケア・メディケイド・サービスセンター(CMS)との協議に参加している。
リリーの株価は今月21日の終値で2.8%(10.42ドル)上昇し、385.23ドルとなった。SVB証券のアナリスト、デビッド・リジンガー氏は、今後の業績についてアセイ氏が心強いコメントをしたためだと述べている。
現在のメディケアの厳しい制限は、2021年に発売されたエーザイ/バイオジェンの「アデュヘルム」(アデュカヌマブ)への対応が主な理由だ。同薬は、認知機能の低下を遅らせるエビデンスがほとんどないまま迅速承認された。
CMSの広報担当者は電子メールによるコメントで、臨床的有用性に関する新たなエビデンスが示されれば迅速に適用範囲を再検討することを約束するとともに、現在の制限がアクセスを阻害しているとの主張には異議を唱えた。
3つの問い
CMSは保険適用範囲の見直しについて、製薬企業に対して3つの重要な問いを投げかけている。それは、「実診療下で認知機能の低下を遅らせるなど健康上のアウトカムを有意に改善するか?」「ベネフィットはリスクを上回るか?」「利益と不利益は時間の経過とともにどのように変化するか?」だ。
エーザイは、発売後3年で10万人の米国人患者がレケンビの投与対象になると推定しており、これらの問いに対する答えを提供できるとの確信を表明している。リリーのアセイ氏も「われわれは、3つの質問に完全に答えることができると確信している」と話した。
アルツハイマー病治療薬と同様にCMSの制限に直面しているほかの製品も低迷している。
PETスキャンでアミロイド班を検出できるリリーの診断薬「アミヴィッド」は10年間、CMSのエビデンス開発プログラムの対象となっている。この制度の下では、診断はメディケアが承認したレジストリに登録することが条件となり、償還は生涯で1回に制限されている。アセイ氏によると、最初のレジストリでは十分な数のマイノリティを集めることができず、2年前に始まった2度目の登録でも、まだ18の州で1サイトも登録されていないという。
アルツハイマー病協会の最高科学責任者、マリア・カリーロ博士は「(CMSの方針は)多くの患者、特にマイノリティと地方の患者を締め出している」と指摘している。
(Deena Beasley/Julie Steenhuysen、編集:Caroline Humer/Bill Berkrot、翻訳:AnswersNews)