就任後初の記者会見を開いたアストラゼネカの堀井貴史社長
昨年7月、武田薬品工業出身の堀井貴史氏が社長に就任したアストラゼネカ。2022年の国内売上高は前年比39%増と好調で、開発パイプラインも豊富です。同社は「25年までに国内1~2位」を目標に掲げていますが、達成への道筋は見えているのでしょうか。
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22年の日本売上高は5300億円
アストラゼネカは4月13日、堀井氏の社長就任後初となる記者会見を開き、2022年の日本の売上高が41億1000万ドルだったと発表しました。日本円に換算するとおよそ5300億円(22年の平均レート1ドル=130円で換算)となります。21年7月に買収したアレクシオン・ファーマシューティカルズの業績が年間を通じて貢献したこともあり、前年からの伸びは為替変動の影響を除いて39%増となりました。
疾患領域によって4つに分かれる事業本部ごとの成長率は、最大領域である「オンコロジー」が7.1%増。IQVIAの集計で1098億円(薬価ベース)と大台を突破した「タグリッソ」や免疫チェックポイント阻害薬「イミフィンジ」などがけん引しました。
循環器・腎・代謝14%増、呼吸器・免疫16%増
14.2%の高成長となった「循環器・腎・代謝疾患」はSGLT-2阻害薬「フォシーガ」が寄与しました。同薬の販売元である小野薬品工業は、23年3月期の売上高予想(決算ベース)を期初から80億円上乗せの550億円に上方修正。心不全や腎臓病への適応拡大を追い風に大型化しています。
「呼吸器・免疫疾患」は、重症喘息治療薬市場でトップの「ファセンラ」が競合激化の中で4割超のシェアを維持。22年11月には新製品「テゼスパイア」を発売し、この領域の売上高は15.9%増となりました。22年9月に新設された「ワクチン・免疫療法」は、アッヴィから移管された抗RSウイルス薬「シナジス」などを扱います。
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「国内トップ」の目標を掲げたのは、堀井氏の前任であるステファン・ボックスストラム前社長。それぞれの領域で主要製品が順調に育っていることに加え、アレクシオンがグループ入りしたことで、国内首位をうかがう手応えを得たようでした。アストラゼネカとアレクシオンは当面、それぞれ別の製造販売業者として業務を続けますが、目標とする25年の時点では統合も視野に入ります。
アレクシオンは、2010年6月に発作性夜間ヘモグロビン尿症治療薬「ソリリス」を発売したのを皮切りに日本での事業を本格化。ウルトラオーファンを主体に活動を行っており、これまでにソリリスの後継品「ユルトミリス」(ピーク時売上高予想331億円)、低ホスファターゼ症(HPP)治療薬「ストレンジック」(同76億円)など5製品を発売しています。
売り上げは4年で倍増
官報などに掲載される決算公告を見てみると、アストラゼネカ日本法人の22年の売上高は4435億円で、18年の2211億円から倍増しています。業績を開示していないファイザー日本法人が新型コロナウイルスワクチン・治療薬で業績を大きく拡大させているとみられますが、同社を除くと外資系製薬企業日本法人ではアストラゼネカが他社を抑えることになりそうです。同社の国内売上高はすでに日本の大手製薬企業にも匹敵する規模に達しています。
一方、国内市場全体を見渡してみると、現在トップの位置にいるのは中外製薬だと言われています。過去5年の国内売上高を比べると、両社の差はさほど縮小しておらず、22年は中外の6547億円に対してアストラゼネカは4435億円と2000億円以上の開きがあります。ただ、23年は中外が新型コロナ治療薬「ロナプリーブ」の売り上げ減によって5417億円まで落ち込む予想。アストラゼネカにも新型コロナ治療薬「エバシェルド」がありますが、業績への影響は大きくありません。今年は両社の売り上げが接近することになりそうです。
22年は5~7品目の申請を予定
アストラゼネカの開発パイプラインは豊富です。22年は「イジュド」「オンデキサ」「テゼスパイア」「エバシェルド」の4製品が承認。適応拡大も「リムパーザ」「イミフィンジ」「カルケンス」など6製品で8つの効能とデバイスの追加がありました。ちなみに、同年の国内の承認取得数ランキングでは中外が1位(適応拡大含め10)、AZが2位(同9)という結果でした。
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アストラゼネカは今年、5~7品目の承認申請を予定。臨床第3相試験実施中の新薬候補が多くあり、この先も「24~25年にかけてかなりの数の申請を予定している」(大津智子執行役員研究開発本部長)といいます。堀井社長は会見で、売り上げだけにとらわれず「イノベーションを通じて患者さんの人生を変えることでナンバー1のパイオニア企業を目指す」と話しましたが、国内トップに向けての基盤も整いつつあるようです。