IQVIAによると、2022年の国内の医療用医薬品売上高は前年比3.2%増の10兆9395億円となり、過去最高を記録しました。ただ、市場拡大に貢献したのは「ベクルリー」「ラゲブリオ」といった新型コロナウイルス感染症関連の治療薬や診断薬で、これらを除くと国内市場が停滞傾向にあることは変わりありません。
「コロナ特需」でも年平均成長率は1.37%
10年前の2012年の国内市場は9兆5473億円でした。この10年で約1兆4000億円、率にして14.6%増加しています。22年は新型コロナ治療薬2剤で1638億円、新型コロナ診断薬を含めると数千億円の押し上げ効果がありましたが、それでも12~22年の年平均成長率は1.37%にとどまっており、低成長市場であることをあらためて実感させられます。
12年と22年の市場を販路別に見てみると、「病院」(病床数100床以上)が34.9%増で5兆円を突破。全体に占める割合も7ポイント増の46.0%となりました。新薬開発や製品販売が生活習慣病関連から専門性の高いスペシャリティ領域にシフトしていることが関係していそうです。一方で「開業医」(100床未満)は金額が減少し、構成比も4.5ポイント減の18.9%に縮小しました。「薬局その他」(主に調剤薬局)は、金額は増加したもののシェアは低下しています。
薬効別(中分類)では、さらに顕著な変化が見られます。12年は「抗腫瘍剤」が6535億円(前年比4.5%増)で「レニン-アンジオテンシン系作用薬」を抜き、初めてトップに立った年でした。当時はまだ上位に生活習慣病関連が目立ちますが、このころを境に高血圧症や高脂血症の薬剤は徐々に順位を下げていきます。
抗腫瘍剤は22年に12年比2.7倍の1兆7520億円まで膨らみ、2位以下を大きく引き離しています。市場全体に占める割合は6.8%から16.0%に拡大しました。レニン-アンジオテンシン系作用薬は売上高が半分以下の2726億円まで落ち、「脂質調整剤および動脈硬化用剤」は上位10薬効から脱落。後発医薬品の普及に加え、目立った新薬が登場していないことが要因です。
一方で、「糖尿病治療剤」は4175億円から6690億円へと1.5倍以上に拡大。この間、SGLT2阻害薬をはじめGLP-1受容体作動薬やその他の新薬が相次いで発売されました。新薬開発はなお続いており、今年もGIP/GLP-1受容体作動薬「マンジャロ」の発売が見込まれています。
売り上げトップ ファイザーから中外に
トレンドの変化は製品別の売上高を見ても顕著です。12年はARB「ブロプレス」「ディオバン」が、ともに1000億円超で1位と2位を占めていました。現在は「オプジーボ」「キイトルーダ」の2品目がけん引する格好で、6位の「タグリッソ」を含め3つの抗がん剤が1000億円を突破。19年12月にバイオシミラーの参入を受けた「アバスチン」も9位に踏みとどまっています。10年にわたってトップ10を維持しているのは同薬だけです。
企業の顔ぶれにも変化が見られます。製造販売承認を持つオリジネーター企業で見た売上高は、トップがファイザーから中外製薬に変わりました。ファイザーは後発品と長期収載品を分社化したために5723億円から2522億円へと売り上げを減らし、順位も12位まで下がりました。近年は大手企業が新薬に集中する傾向を強めており、見かけ上は減収となるケースも目立ちます。
21年に初めて国内トップに立った中外は2年連続の首位。がん領域を中心とした新薬群による成長に支えられています。IQVIAが集計する売上高には、政府が一括購入している新型コロナ治療薬「ロナプリーブ」は含まれていません。トップ10のうち外資系企業は中外を含め7社。10年前と比べるとファイザー、サノフィ、グラクソ・スミスクラインが外れ、アストラゼネカ、ヤンセンファーマ、バイエル薬品、ブリストル・マイヤーズスクイブが新たにランクインしています。
22年は、前年との比較でアストラゼネカが28.3%増と最大の伸びを示しています。同社は「25年までに国内ナンバー1」を宣言していて、がん領域の「タグリッソ」「イミフィンジ」やSGLT2阻害薬「フォシーガ」、高カリウム血症改善薬「ロケルマ」などが成長。22年からの3年間で27件の新薬発売と適応追加を予定しています。ヤンセンファーマも「24年に国内トップ3」を目指すとしており、外資が上位独占をうかがいます。
上位20社まで広げると、売上高の合計は12年の6兆2154億円から6兆1055億円へと若干減少しました。主に長期収載品を別会社として切り離したり他社に売却したりして、事業の構造が変化してきたことが影響しています。市場全体に占める上位20社の売上高の割合は、12年の65.1%から22年には55.8%に低下。かつてほどの集中度はなくなりました。