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診断にこそイノベーションが必要だ|コラム:現場的にどうでしょう

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ノブ

日本の総人口に占める65歳以上の高齢者の割合はおよそ29%。皆さんご承知の通り、高齢者の増加は医療費の増大につながり、高齢化に伴う医療費の増加は先進国を中心に世界的な課題となっています。

 

医療費の増大には各国とも頭を悩ませており、可能な限りその伸びを抑えたい状況です。とはいえ、医療行為や薬の使用を制限しても、救えるはずの命を救えない、治せたはずの病気やケガを治せない、ということになりかねません。

 

広がる「成功報酬型薬価」

医療費は「行われた医療行為」や「投与された薬」に対して支払われるのが一般的です。ただ、近年では、医療費の効率化や医薬品の適正使用といった観点から、一部の薬剤で「成功報酬型」の支払いを行う国が出てきています。

 

成功報酬型の支払いは、投与された薬の効果によって医療費を支払う(あるいは支払わない)仕組みです。保険者は、患者に効果が出れば製薬会社が決めた薬剤費を支払いますが、効果がなければ支払いが不要となったり、値引きされたりします。

 

成功報酬型の支払いは欧米で広がってきており、代表的なものとして知られるのが、米ジョンソン・エンド・ジョンソンの多発性骨髄腫治療薬「ベルケイド」や、スイス・ノバルティスのCAR-T細胞療法「キムリア」など。今後は、疾患の発症を抑える予防薬にもこうした考え方が広がっていくと予想されています。アウトカムという観点から考えると、予防はその最たるものと言えるでしょう。

 

成功報酬型の支払い制度の下で薬が使われるようになると、製薬会社としては売り上げに対する影響が懸念されます。たくさん処方されても売り上げにつながらない、そんな時代が来るかもしれません。そこで重要になるのが「効果が期待される患者に適切に使われること」です。薬剤の適正な使用のためには、効果が期待される患者とそうでない患者を見分けることが必要になります。

 

患者にとっては「自分に効果のある薬をいち早く投与してもらう」のが理想ですし、医師としても「この患者に効く適切な薬を選択したい」と考えます。近年、抗がん剤では特定の遺伝子変異を標的とした治療薬が相次いで開発されていますが、同じ組織にできるがんでも、どの遺伝子に変異があるかは患者によって違います。がんの分野では遺伝子検査によって治療薬を選択するのが当たり前になってきているものの、一方で、遺伝子解析だけでは判定できない疾患マーカーも存在するため、そこをどう解決していくかが課題です。

 

医療費抑制の観点から考えると、薬の効果はなるべく早く評価したいところです(効かなかった場合は薬剤費の支払いがなくなるため)が、特に慢性疾患の場合は薬の効果がアウトカムとして評価できるレベルで明らかになるまでに年単位の時間がかかります。そもそも、実臨床で結果を適切に測定するのは簡単ではありませんし、有効性の有無をどう定義するかについても熟慮が必要です。

 

簡便な検査が必要

効果が期待できる患者とそうでない患者を見分けるにせよ、薬の効果を適切に評価するにせよ、重要なのは診断です。

 

今年1月、エーザイのアルツハイマー病治療薬レカネマブが米国で迅速承認を取得して話題となりましたが、これは脳内のアミロイドβプラークを減少させる効果を示した臨床第2相(P2)試験の結果に基づくものでした。疾患の進行度合いや重症度を適切に判別or追跡できるバイオマーカーの設定は、現代における新薬開発には不可欠とも言える存在になっています。

 

バイオマーカーの測定は、可能な限り簡便に行えるのがベターです。特殊な施設でなければ対応できない、検査に痛みを伴う、高額な費用がかかる、といったハードルがあると、検査をためらう患者もいるでしょう。適切な患者に適切な薬を使ってもらうには、障害となりうるものを取り除く努力も必要です。

 

レカネマブの投与には「治療開始前にアミロイドβ病理が確認された患者」という条件があります。アミロイドβ病理の確認には今のところ、PET検査や脳脊髄液検査が必要です。ご存知の方も多いと思いますが、PET検査には特殊な設備が必要で、できる病院が限られる上に高額の費用がかかります。脳脊髄液の採取は侵襲性が高く、腰椎穿刺時に痛みを伴ったり、検査後に頭痛が起こったりすることがあるなど、比較的高いハードルがあります。

 

エーザイは、島津製作所やシスメックスといった分析技術を持つ企業とともに、血液検査(比較的侵襲性が低く、多くの病院で実施でき、コストも低い)によるアミロイドβの検査法を開発しています。血液検査ができるようになれば、たとえば自治体で毎年行われている健康診断で一定年齢以上の人にはアミロイドβの測定を組み込み、基準値を超えた人を確定診断に誘導することも可能になるかもしれません。こうしたフローがうまくワークするようになれば、レカネマブ処方へのハードルはぐっと低くなると予想されます。

 

医療費削減の観点のみならず、薬剤の使用機会を最大化し、薬剤の価値を高めるためにも、診断薬・診断方法にこそイノベーションが必要なのかもしれません。必ずしも自前でやる必要はなく、技術を持った外部企業との連携が開発のカギを握るような薬剤もどんどん増えてくるでしょう。製薬企業の研究者にとっては、社外の情報に幅広くアンテナを広げる重要性がさらに高まっているように感じます。

 

ノブ。国内某製薬企業の化学者。日々、創薬研究に取り組む傍らで、研究を効率化するための仕組みづくりにも奔走。Twitterやブログで研究者の生き方について考える活動を展開。
Twitter:@chemordie
ブログ:http://chemdie.net/

 

AnswersNews編集部が製薬企業をレポート

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