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SGLT2阻害薬、4つ目の適応に道?腎結石の形成を抑制する作用が明らかに

更新日

穴迫励二

東北医科薬科大などの研究グループが11月、SGLT2阻害薬が腎結石の形成を抑制する可能性があるとの研究論文を発表しました。SGLT2阻害薬は糖尿病治療薬として承認されて以来、慢性心不全や慢性腎臓病にも適応を広げていますが、今回の研究はこれらに続く4つ目の適応症に道を開くことになるのでしょうか。研究を発表した同大医学部泌尿器科学教室の阿南剛助教(現・四谷メディカルキューブ泌尿器科長、同大学非常勤講師)に話を聞きました。

 

 

抗炎症作用が結石形成抑制か

研究は東北医科薬科大、東北大、四谷メディカルキューブの共同研究で、論文は学術誌「Pharmacological Research」に掲載されました。

 

研究チームはまず、日本人の大規模患者データベース(メディカル・データ・ビジョン提供)を使ってSGLT2阻害薬の服用と尿路結石の関係を解析。糖尿病と診断されている患者約153万人(男性約90万人、女性約63万人)のうち、結石を生じやすい男性のデータを分析したところ、SGLT2阻害薬を処方されている患者(約10万人)の尿路結石有病率は2.28%で、処方されていない人の2.54%に比べて統計学的に有意に低いことがわかりました。

 

次にSGL2阻害薬の原型であるフロリジンをラットに投与する動物実験を行ったところ、腎臓結石の形成量を有意に抑制する結果が得られました。実験では、尿量の増加は認められなかった一方、炎症マーカータンパク質の有意な低下が見られ、SGLT2阻害薬による腎結石形成抑制は利尿作用ではなく抗炎症作用によるものだということが判明しました。ヒト近位尿細管培養細胞を使った実験でも、シュウ酸カルシウムの結晶接着量の低下などが認めました。

 

これらの結果から、研究チームは「SGLT2阻害薬が腎結石に対する有効な治療アプローチとなる可能性がある」と結論付けました。現在、カルシウム含有腎結石に対する予防薬・治療薬はなく、研究成果が新薬開発へとつながるかどうか注目されます。今後、臨床試験に入ることになれば、糖尿病、慢性心不全、慢性腎臓病に次ぐ4番目の適応症獲得に期待が高まります。

 

研究の阿南氏「有効な薬になる可能性」

―SGLT2阻害薬と腎臓結石の関係に着目した背景を教えてください。

阿南剛・四谷メディカルキューブ泌尿器科長:東北医科薬科大学に在籍していた当時、糖尿病に使うSGLT2阻害薬は腎臓内科でも話題の薬剤でした。腎臓を保護するとともに抗炎症作用という特性があるためですが、それなら腎臓結石にも効果があるのではと考え、研究を開始しました。

 

まず、糖尿病においてSGLT2阻害薬は多く処方されている薬剤なので、疫学データからSGLT2阻害薬の服用と尿路結石病名の有無の関係を分析したところ、男性では有意差をもって服用患者に尿路結石が少ないことが分かりました。ただし、服用と結石の因果関係は証明できておらず、あくまで相関関係があったというだけなので、動物実験で確認することにしました。

 

実験には、医療用医薬品として販売されているSGLT2阻害薬ではなく、その原型であるフロリジンを使っています。これは、製薬企業と研究契約を締結すると時間を要するというのが最大の理由です。時間的な制約を受けないよう、一般的に入手できるフロリジンで実施しました。ラットによる実験の結果、尿量(利尿作用)とは関係なく、炎症反応を下げること(抗炎症作用)により、腎臓結石の形成が抑制するというデータを得ました。

 

フロリジンはSGLT1/2阻害薬なので、SGLT2特異的阻害の効果を検討するためにSGLT2が機能していないマウスを使用して実験を行いました。ラットと同様の結果で、抗炎症作用により腎結石形成抑制効果を認めました。

 

さらに、ヒトの尿細管細胞を使った実験を行ったところ、SGLT2阻害によってシュウ酸カルシウムの結晶接着量が低下し、抗炎症作用を認めました。腎臓結石の形成メカニズムには炎症が関与しており、その炎症マーカーのひとつにオステオポンチン(OPN=糖たんぱく質)があります。結石は結晶が核になって形成されると考えられていて、そこにはOPNが必要だと言われています。今回の動物実験と細胞実験では、OPNが低下していることを確認しました。

 

今回の研究では、結石形成を抑制することは示しましたが、結石溶解までは示せていません。SGLT2阻害薬が腎臓結石に予防効果があるのではというのは世界でも注目されはじめ、海外でエンパグリフロジンによる医師主導の臨床第2相試験(SWEETSTONE)が行われているほか、ダパグリフロジンとサイアザイド系利尿薬でどちらが結石の予防になるかといった研究も始まっています。

 

SGLT2阻害薬の腎結石形成抑制作用に関する研究成果を発表した阿南剛氏(四谷メディカルキューブ提供)

 

―SGLT2阻害薬の新たな適応につながりますか。

阿南氏:今回、世界で初めてSGLT2阻害の腎結石形成に対する効果とそのメカニズムを基礎研究で示しました。世界で臨床研究が開始されたばかりなので、今後は日本でも臨床研究が必要になると思います。

 

ゼロからの新薬開発には時間がかかりますが、ほかの疾患で使用されている薬剤が別の疾患に有効である場合、ドラッグリポジショニングという考え方になります。薬剤自体の安全性や有効性はある程度立証されているので、開発期間は短縮できることもあります。腎臓機能を保護しつつ腎臓結石も抑制できるのであれば、臨床的に大変有効な薬になる可能性があります。

 

―今回の研究の意義をどうお考えですか。

阿南氏:尿路結石による痛みは心筋梗塞、群発頭痛とともに“3大激痛”と言われます。結石はすべて腎臓で形成され、尿路の流れを悪くする尿管に落ちきたときに痛みを感じます。再発率は5年で約50%と低くありません。尿路結石を溶解する薬剤はないため、結石が大きくならない、もしくは再発予防になればメリットは大きいと思います。

 

尿路結石は高血圧や糖尿病がリスク要因となります。また、メタボリックシンドロームの初期段階としても表れます。1度尿路結石ができた時点で生活習慣を改めれば、将来の心筋梗塞や脳梗塞を防ぐことにもつながり、患者個人にとってメリットとなるほか、医療費全体の軽減にもつながるでしょう。

 

尿路結石の手術などは経時的に発展していますが、基礎研究はこれからだと思います。今回の発表により、尿路結石の基礎研究が進むきっかけになればと思います。今後は、SGLT2阻害薬によって腎臓結石発症が抑制できるか、臨床研究で検討が進められればと思っています。

 

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