ジェンマブ日本法人の高木実加社長(同社提供)
デンマークに本社を置くバイオテクノロジー企業ジェンマブが、日本市場への本格参入に向けて体制構築を進めています。今月1日、日本法人として初めてメディア向けの説明会を開き、国内での新薬開発の進捗を明らかにしました。
導出から自社開発・販売へ戦略転換
ジェンマブが、日本で開発から販売までを手掛けるEnd-to-Endの体制構築に乗り出しています。
ジェンマブは1999年にデンマークのコペンハーゲンで創業した、がんに対する抗体医薬の研究開発を専門とするバイオテクノロジー企業。日本法人は2019年に設立されました。日本では現在、抗CD3/CD20二重特異性抗体エプコリタマブ(予定適応症=再発・難治性のびまん性大細胞型B細胞リンパ腫)と、抗TF(組織因子)抗体薬物複合体(ADC)チソツマブ ベドチン(同=子宮頸がん)の臨床第3相(P3)試験を行っており、これらの販売に向けて営業インフラの整備を進めています。
ジェンマブは、抗CD38抗体ダラツムマブ(国内製品名・ダラザレックス/ダラキューロ)、抗CD20抗体オファツムマブ(同ケシンプタ)、抗IGF-1R抗体テプロツムマブ(国内未承認)などを生み出した企業として知られ、これらの製品は導出先を通じて世界各国で販売されています。
その創薬力への評価は高く、米ヤンセンに導出したダラツムマブは2021年に世界で60億2300万ドルを販売。アイルランドのホライゾン・セラピューティクスが販売するテプロツムマブもブロックバスターに成長しました。ジェンマブは、これらがもたらすロイヤリティで売上高のおよそ8割にあたる約11億ドルを稼いでいます。
好調な財務を背景に、ジェンマブはライセンスアウトを中心とする従来の戦略を転換。自社開発・販売(パートナー企業との共同開発・販売を含む)へと舵を切りました。同社はデンマークと日本、米国、オランダに拠点を構えていますが、このうち「重要拠点」と位置付けるのが米国と日本。欧州の拠点は本社と研究開発の2機能に特化し、日米2つの市場で販売基盤の構築を進めています。
1000施設カバーできるMR揃えたい
日本でP3試験を行っている2剤のうち、エプコリタマブは米アッヴィと共同開発しており、ジェンマブが承認取得後、両社で共同販売する予定。同薬はB細胞非ホジキンリンパ腫の適応でもP2試験を行っています。一方、チソツマブ ベドチンは米シージェンと共同開発していますが、同社が日本の拠点を持たないことから、ジェンマブが単独で販売する方針です。
日本法人の高木実加社長は、国内の営業体制について「どちらの薬剤が先に承認されるかで変わってくる」として詳細は明かしませんでしたが、「目標施設数は1000プラスアルファと考えている。それを十分カバーできるだけのMRを揃えたい」と話しました。日本法人は現在、50人強の体制ですが、将来的には日米同時開発・同時申請を目指しており、開発、販売ともこれを実現できるよう体制を拡充していきたいとしています。
日本事業の位置付けについて高木社長は、「企業として日本市場へのコミットを示し、ビジネスを成功させることが、今後(日本と米国以外の)他の地域に拡大していくための試金石になる。その意味で日本は重要なポジションを担っている」と説明。高齢化が進み、がん患者の多い日本で新たな治療選択肢を提供し、プレゼンスを確立していく考えです。
グローバルのパイプラインに9品目
グローバルでは血液がんと固形がんを対象に9つのパイプラインが臨床試験の段階にあります。このうち日本では、エプコリタマブとチソツマブ ベドチンに加え、抗PD-L1/4-1BB二重特異性抗体「DuoBody-PD-L1×4-1BB」を開発中。同薬は固形がんを対象に国内でP1試験を行っています。
エプコリタマブは、T細胞上のCD3とB細胞上のCD20を標的としており、細胞傷害性T細胞を選択的に誘導してがん細胞を攻撃します。皮下注製剤として開発しています。米国ではジェンマブが申請中で、来年5月21日までに当局の判断が示される予定。欧州ではアッヴィが申請を済ませています。同じ作用機序では、スイス・ロシュが一足先に欧州で「Lunsumio」(一般名・mosunetuzumab)の承認を取得(適応は濾胞性リンパ腫)していて、CD3とCD20に対する二重特異性抗体としては2番手となる見通しです。
チソツマブ ベドチンは、抗体薬物複合体(ADC)の技術を有するシージェンと開発した、ファーストインクラスの抗TF ADC。ジェンマブの抗TF抗体で微小管阻害薬を誘導し、抗腫瘍効果を発揮します。TFは子宮頸がんや卵巣がんでがん細胞に発現するタンパク質。米国では2021年に再発・転移性子宮頸がん治療薬「Tivdak」として迅速承認を取得しています。
独自技術に自信
一方、DuoBody-PD-L1×4-1BBは、独ビオンテックと共同開発する二重特異性抗体。T細胞を4-1BBアゴニストで刺激するとともにPD-L1を阻害し、抗腫瘍免疫反応を誘導する薬剤です。先行して開発が進む海外では非小細胞肺がんを対象としたP2試験が行われています。
エプコリタマブとDuoBody-PD-L1×4-1BBには「DuoBody」と呼ばれるジェンマブの独自技術が使われています。この技術は、ヒトの生体内で二重特異性抗体が作られる現象を参考に開発されたもので、提携先のヤンセンが販売する抗EGFR/cMET二重特異性抗体アミバンタマブや抗BCMA/CD3二重特異性抗体テクリスタマブにも応用されています。
グローバルではこのほか、抗体の六量体形成を誘導して治療効果を増強する「HexaBody技術」を使った「HexaBody-CD38」(自社開発)や「HexaBody-CD27」(ビオンテックと共同開発)、DuoBody技術とHexaBody技術をかけ合わせた「DuoHexaBody-CD37」(アッヴィと共同開発)の開発を進めています。
これらの新規パイプラインは早期段階が中心。日本法人で研究開発本部長と医学本部長を兼任するエドワード・ラミレス・ガノザ氏は、「個人的には(POCで効果が確認できれば)すべてのパイプラインを日本で開発したい」と話しています。
日米で自社販売体制を整える一方、高木社長は「パートナーとの協業も重要なビジネス」と強調します。技術への自信をもとに、「自前」と「協業」の両輪で事業拡大を目指す構えです。