RSウイルスに対するワクチンの開発が佳境を迎えています。現在、承認されているワクチンは存在しませんが、今年秋、英グラクソ・スミスクラインが日米欧で申請。米ファイザーや同モデルナなども最終治験を進めています。一方、シナジスが唯一の選択肢だった予防薬では、英アストラゼネカと仏サノフィの抗体医薬が欧州で承認されました。
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世界初のワクチン申請
グラクソ・スミスクライン(GSK)は10月21日、承認されれば世界初となるRSウイルス(呼吸器合胞体ウイルス)ワクチン「GSK3844766A」を日本で申請したと発表しました。世界17カ国から60歳以上の成人約2万5000人を登録した国際共同臨床第3相(P3)試験では、RSウイルス下気道疾患(RSV-LRTD)に対して82.6%の有効性を示し、重度のLRTDでは94.1%、70~79歳のLRTDでは93.8%、基礎疾患を有する人のLRTDでは94.6%の有効性を示しました。
同ワクチンは、膜融合前の遺伝子組換えRSウイルスF糖タンパク質抗原と、GSK独自のアジュバントを組み合わせたワクチン。日本での申請に続き、10月には欧州で、11月には米国で申請受理を発表しており、欧州では2023年第3四半期(7~9月)、米国では同年5月に当局の判断が示される予定です。
ファイザーも米国で年内申請へ
RSウイルスは呼吸器症状を引き起こすウイルスです。症状は軽い風邪のような症状から重い肺炎までさまざまですが、乳幼児や高齢者では細気管支炎や肺炎を引き起こし、重症化することがあります。RSウイルス感染そのものに対する治療薬は存在せず、治療は発熱や呼吸器症状を和らげる対症療法が基本。重症化リスクの高い乳幼児に対しては、下気道疾患を予防する抗RSウイルス抗体「シナジス」(一般名・パリビズマブ)が承認されていますが、ワクチンはありません。
GSKに続くRSウイルスワクチンとしては、ファイザーの「PF-06928316」やモデルナの「mRNA-1345」、米ジョンソン・エンド・ジョンソン(J&J)の「VAC18193」などがP3試験を実施中。第一三共の「VN-0200」やサノフィの「SP0125」はP2試験を行っています。
PF-06928316は高齢者だけでなく母子免疫でも開発を行っていて、両方の適応で年内に米国で申請を行う予定。その後、数カ月以内にほかの国や地域でも申請を行うとしています。これまでに発表されたP3試験の結果によると、母子免疫では生後90日までで81.8%、生後6カ月までで69.4%の有効性を示し、高齢者でも85.7%の有効性を示しました。
モデルナやJ&J、デンマークのバイエルン・ノルディックは高齢者を対象に開発を進めており、来年にかけてP3試験の結果が明らかになる見通しです。
予防薬、2番手のニルセビマブが承認
一方、これまでシナジスしか選択肢がなかった予防薬では、アストラゼネカとサノフィが共同開発した抗RSウイルス抗体ニルセビマブ(製品名・Beyfortus)が欧州で承認を取得。米国では年内の申請受理を見込んでおり、日本ではP3試験の段階にあります。
ニルセビマブはアストラゼネカ独自の半減期延長技術を活用した長時間作用抗体。シナジスの予防期間は1カ月間で、1シーズンに5回投与する必要があるのに対し、ニルセビマブは単回投与で1シーズン予防効果が期待できます。出生後初めて流行シーズンを迎えるすべての乳幼児を対象としており、早産児などリスクの高い乳幼児が対象のシナジスと比べて投与対象も広範です。
承認の主な根拠となったP2/3試験では、単回投与後151日間、受診を要した下気道感染症の発現率をプラセボに比べて74.5%低減。シナジスを対照群としたP2/3試験では、同薬の投与対象となる高リスクの乳幼児で同等の安全性・忍容性を示しました。
米メルクもニルセビマブと同様に広範な乳幼児を投与対象とする抗RSウイルス抗体「MK-1654」を開発中。現在、P2/3試験が行われています。