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日本勢の執念を感じた2つの臨床試験|コラム:現場的にどうでしょう

更新日

黒坂宗久

何かとネガティブなニュースが多い日本の製薬業界ですが、9月末、奇しくも同じ日に発表された日本企業による2つの最終治験結果には久々に心を踊らされました。

 

お察しの通り、その2つの最終治験というのは、エーザイのアルツハイマー病治療薬レカネマブと、塩野義製薬の新型コロナウイルス感染症治療薬「ゾコーバ」(一般名・エンシトレルビル フマル酸)です。いずれも社会的に関心の高い疾患であり、これまでいろいろあったことを考えると、両社の意地というか、執念というか、そうしたものを感じずにはいられませんでした。

 

思わず声が出た

レカネマブはアルツハイマー病の原因とされるアミロイドβのプロトフィブリルを標的とした抗体医薬で、臨床第3相(P3)試験「ClarityAD」ではプラセボに比べて臨床症状の悪化を27%抑制しました。失敗続きのこの分野で明確にポジティブな結果が示されたことに、私も思わず「おーーーっ!」と声を出してしまいました。エーザイにとっては、バイオジェンと手掛けた「アデュヘルム」(アデュカヌマブ)のリベンジを果たしたことになるでしょう。

 

アデュヘルムのときは、米FDA(食品医薬品局)が諮問委員会の否定的見解を振り切って迅速承認し、久々のアルツハイマー病新薬ともてはやされたものの、有効性をめぐって物議を醸し、メディケアが保険適用の範囲を厳しく制限したこともあって使用はほとんど広がっていません。レカネマブについても、まだ詳細なデータが公表されていません(11月のアルツハイマー病臨床試験会議=CTADで発表予定)ので何とも言えない部分はありますが、商業的に成功するためにはやはり米国でフル承認を取得することが条件になると思います。

 

ただ、アデュヘルムの苦い経験を思い返すと、今回レカネマブが主要評価項目達成というど真ん中の結果を出したのは本当にすごいことだと思います。エーザイとしては社運を賭けていた部分もあったわけで、結果を出すことへの並々ならぬ思いを感じたわけです。

 

地道な日々の積み重ね

もう1つのゾコーバは、P2/3試験のP3パートでプラセボに比べて統計学的に有意に症状改善までの時間を短縮したことが発表されました。こちらは「おーーーっ!」と声が出たというよりは、むしろ「塩野義の関係者はほっとしただろうな」というしみじみとした気持ちというか、「塩野義の皆さん、良かったですね!」という気持ちのほうが大きかったように思います。皆さんもご存知の通り、ゾコーバもこれまでいろいろゴタゴタがありました。騒がしい外野(主に政治家ですが)の声が物議を醸したこともありましたし、有効性が明確に示されなかったP2パートの結果に基づく緊急承認の申請は議論を呼びました。

 

薬について国産かどうかにこだわる必要はないと個人的には思いますが、今回のコロナでは日本企業によるワクチン・治療薬の開発が遅れたことが問題として認識されており、そうした意味で国産治療薬が承認に近づいたことは日本の製薬業界にとって明るいニュースと言えるでしょう。

 

エーザイはアルツハイマー病で、塩野義は感染症で、それぞれ長年にわたって研究開発を続けてきました。医薬品の研究開発は、地道な日々の積み重ねが本当に大切で、一足飛びにはいかないのがこの業界だと私は思っています。両社の関係者の皆様、まだまだ道は続きますが、ひとまずおめでとうございます!

 

黒坂宗久(くろさか・むねひさ)Ph.D.。Evaluate Japan/Consulting & Analytics/Senior Manager, APAC。免疫学の分野で博士号を取得後、米国国立がん研究所(NCI)や独立行政法人産業技術総合研究所、国内製薬企業で約10年間、研究に従事。現在はデータコンサルタントとして、主に製薬企業に対して戦略策定や事業性評価に必要なビジネス分析(マーケット情報、売上予測、NPV、成功確率や開発コストなど)を提供。Evaluate JapanのTwitterの「中の人」でもあり、個人でもSNSなどを通じて積極的に発信を行っている。
Twitter:@munehisa_k
note:https://note.com/kurosakalibrary

 

AnswersNews編集部が製薬企業をレポート

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