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製薬企業、原材料費高騰に悲鳴…中間年改定「薬価引き下げる環境にない」

更新日

前田雄樹

原材料価格の高騰に製薬企業が悲鳴を上げています。円安や物価高の影響で、ものによっては調達コストが昨年末から2倍以上に上昇しており、低薬価の医薬品を中心に原価率が悪化。来年4月には薬価の中間年改定を控えていますが、業界側は「薬価を引き下げる環境にない」と訴えています。

 

 

調達コスト 昨年から倍増も

昨今の物価・エネルギー価格の上昇と円安は、製薬企業の研究開発や生産にも大きな影響を及ぼしています。研究開発では、試薬の価格が上昇しているほか、円安によってドル建ての海外臨床試験費用が増加。製造では、原薬・原材料費やエネルギー費の上昇で工場経費が膨らんでおり、ウクライナ情勢で輸送コストも上昇しています。

 

日本製薬団体連合会(日薬連)が一部の会員企業(29社)を対象に行ったアンケートによると、9割の企業が物価上昇や為替変動が調達コストに影響を与えていると回答。昨年12月と今年8月を比べた調達コストの上昇率(50%タイル値)は、原薬24%、原材料25%、包装材料15%となっており、最も上昇率が大きかった品目では、原薬で200%、原材料で420%、包装材料で225%上がっていました。乳糖、有機溶剤、プラスチックボトル、PTPなど、医薬品製造に幅広く使われる原材料・包装材料の価格が上昇しており、多くの製品で製造コストに影響が出ているといいます。

 

【調達コストの上昇率】原薬:25%Tile 114%/50%Tile 124%/75%Tile 138%/最大値200%|原材料:25%Tile 120%/50%Tile 125%/75%Tile 135%/最大値420%|原材料:25%Tile 110%/50%Tile 115%/75%Tile 122%/最大値225%|※日本製薬団体連合会調べ(保険薬価研究委員会常任運営会社29社へのアンケート)。今年8月時点で調達コストが上昇した上位5品目について、昨年12月を100とした場合の上昇率

 

国内主要製薬企業の2022年4~6月期の売上原価率は、新薬メーカー8社で29.2%、後発医薬品メーカー3社で75.1%。昨年の同じ時期と比べると、新薬メーカーは3.9ポイント、後発品メーカーは4.7ポイント悪化しました。日本ジェネリック製薬協会(GE薬協)によると、会員企業が調達する原薬の価格は、昨年12月から2倍になっているものもあるといいます。

 

【主要製薬企業の売上原価率】新薬メーカー8社:21年4~6月/25.3%/22年4~6月/29.2%/後発品メーカー3社:21年4~6月/70.4%/22年4~6月/75.1%|▽新薬メーカー8社=武田薬品工業、アステラス製薬、第一三共、エーザイ、住友ファーマ、小野薬品工業、塩野義製薬、参天製薬▽後発品メーカー3社=サワイグループHD、日医工、東和薬品|※各社の決算短信をもとに作成

 

オイルショックでは薬価引き上げ

日薬連の眞鍋淳会長(第一三共社長CEO)は9月22日に開かれた厚生労働省の「医薬品の迅速・安定供給実現に向けた総合対策に関する有識者検討会」で、「特に低薬価の医薬品で調達コストの上昇が大きな負担になっており、原価率が著しく上昇している」とし、来年4月に予定される薬価の中間年改定については「薬価を引き下げる環境になく、実施の是非も含めて慎重に検討すべき」と主張。オイルショック時に緊急の薬価引き上げが行われたことを例に挙げ、「中間年改定とは別に、原価率が悪化している品目などについては薬価を引き上げる措置を実施すべきだ」と訴えました。

 

オイルショックさなかの1974年4月の薬価改定では医療費ベースで1.5%(薬剤費ベースでは3.4%)の薬価引き下げが行われたものの、エネルギー価格や原材料費の高騰によって医薬品の安定供給に支障が出る恐れがあったため、緊急対策として同年6月に局方品153品目、7月に局方外品192品目で薬価の引き上げを実施。いずれも医療費ベースで0.04%の引き上げとなり、9月には3品目で追加の値上げが行われました。

 

9月22日の有識者検討会ではGE薬協の高田浩樹会長(高田製薬社長)も「低薬価品の収益性は急激に悪化している。原薬価格については交渉中のものも多く、影響が本格的に顕在化するのはこれからだ」と指摘。「原材料の高騰と円安が続く状況で、現行の流通・薬価制度の下では中間年改定による引き下げを行える状況にはない」と主張しました。

 

さらに9月29日に開かれた同検討会の会合では、日本医薬品卸売業連合会が、ガソリン価格や電気料金の高騰が卸の収益にも影響を及ぼしているとし、コスト転嫁を可能にする柔軟な価格形成の仕組みを検討するよう求めました。

 

欧州でも対応求める声

製造コスト上昇への対応を求める声は、欧州でも広がっています。

 

ロイター通信によると、テバ(イスラエル)、サンド(スイス)、フレゼニウスカービ(ドイツ)などの後発品メーカーで構成する業界団体Medicines for Europeは9月27日、EU(欧州連合)加盟国の保健大臣とエネルギー大臣に原材料費やエネルギー価格高騰への対応を求める書簡を送付しました。

 

書簡では、欧州の一部の医薬品工場で電気料金は10倍に、原材料費は50~160%上昇していると指摘。このままでは製造を中止せざるを得ない製品が出てくるとして、価格設定の見直しを求めており、Medicines for Europeのエイドリアン・ヴァン・デン・ホーフェン事務局長は「エネルギーコストの上昇が多くの必須医薬品メーカーのわずかな利益を食いつぶしている」と話しています。

 

関連記事:欧州後発品メーカー「エネルギーコスト上昇で製造中止も」価格設定方法の見直し求める

 

GE薬協によると、ある会員企業では取り扱う内用薬653品目のうち、111品目で製造原価が薬価の8割を上回っているといいます。GE薬協の高田会長は「原材料費高騰の収益への影響は今後、顕著になる。ここままでは多くの後発品企業が不採算品の製造中止を余儀なくされる。安定供給にかかわる緊急非常事態だ」と訴えます。

 

2021年4月に行われた前回の中間年改定では、乖離率が平均(8.0%)の0.625倍にあたる5.0%を超えた1万2180品目(薬価収載されている全医薬品の69%)を対象に行われました。23年度の中間年改定に向けた議論はこれから本格化しますが、エネルギー価格・原材料費高騰への対応も焦点の1つになりそうです。

 

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