1. Answers>
  2. AnswersNews>
  3. 連載・コラム>
  4. 事業性評価ってどんなふうにやってるの?|コラム:現場的にどうでしょう
連載・コラム

事業性評価ってどんなふうにやってるの?|コラム:現場的にどうでしょう

更新日

黒坂宗久

「この製品はピーク時に世界で○億円の売り上げが期待できます」「この製品は○年に○億円まで売り上げが拡大する見込みです」。製薬企業の中期経営計画で、このような記述を目にすることがよくあります。こうした試算は、大手製薬企業の場合、多くは経営企画部や製品戦略部といった部署が行っていて、社内外のさまざまな条件を考慮した上で一定の予測を出しているのだと理解しています。

 

どうしてこんな話を書いているのかというと、最近、弊社Evaluateで「事業性評価をやってほしい」という依頼を受けることが増えているからなんです。クライアントとなるのは、経営企画部のような部署を持たないバイオベンチャーやスタートアップが多く、日本国内というよりは欧米、特に米国市場を志向した案件が中心ですが、事業性評価とは簡単に言うと売り上げ予測です。製薬企業が「この新薬候補は○億円売れます!」と言うとき、その裏側でどんなことが行われているのかが分かれば、数字を受け止める際の参考になるのではないかと思い、今回は事業性評価をどのように行っているのかについて書いてみたいと思います。

 

対象となる新薬候補がどの開発段階にあるのかにもよりますが、弊社の場合、非臨床段階でこれから臨床を目指そうという段階で依頼をいただくことが多いです。先にも書いた通り、開発を行う国として日本国外、特に米国を目指すケースが非常に多く、日本のベンチャーから見ても日本市場は魅力に欠ける(少なくとも最初に臨床試験を行う場所ではないと捉えられている)のだなと、依頼をいただくたびに寂しい思いをしています。

 

話がそれましたが、皆さんもご存知の通り、非臨床から臨床へ進もうという段階は、これから必要となる多大な開発費用を用意しなければならない段階です。ベンチャーやスタートアップの場合、多くはベンチャーキャピタル(VC)から資金を調達して臨床試験を始めることになると思いますが、そのためには投資家に自社製品が有望であることを示す必要があり、この段階で事業性評価を行うことが多いようです。

 

【事業性評価の要素(例)】売上予測モデル→Target Product Profile/対象疾患 効能・効果 投与経路など|類似薬の状況 売り上げ・薬価データ 採用カーブ ピークシェアなど|競合状況 ポートフォリオ R&D製品 など|患者数モデル 最新の疫学文献調査 治療アルゴリズムや標準治療|Webサーベイ・KOLインタビュー 専門医・ペイヤーの意見

 

上の図は、事業評価を行う際に調査・検討する要素を一例として示したものです。通常、まずはクライアントとなる企業から「TPP」(Target Product Profile=目指す製品の特性や性能)を開示してもらい、それを確認します。多くの場合はこの時点で対象疾患も決まっていますが、そうでない場合は開発対象となる疾患に優先順位をつけるための調査を行うこともあります。

 

TPPを確認したあとは、類似した製品や開発品を探します。例えば、対象となる疾患や患者層が重なるもの、モダリティや作用機序が同じもの、などがそれにあたりますが、そう簡単にいかないこともあるので、幅広く検討することが多いです。類似薬の薬価がどれくらいで、どんな売れ方をしているのか、といったデータを分析し、評価対象品目の売り上げを予測する材料にするとともに、あわせて競合状況の分析(上市品や開発品の整理、開発企業の把握など)を行い、将来的な脅威も理解します。同時に、弊社の疫学データと疫学文献の調査を組み合わせ、患者数のモデルを作成します。

 

ここまでが自社のデータソースと論文などを使った調査ですが、これだけでは足りないので定性的な調査(弊社では「プライマリー調査」と呼んでいます)を行います。これは、専門医を対象としたウェブ調査やKOLへのインタビューなどで、ウェブ調査は数十人、KOLインタビューは数人に行い、量と質をカバーするイメージです。これとは別に、米国ではペイヤーに対するパネル調査も行っていて、米国での薬価を想定するためのデータを取得しています。

 

これらの調査結果を踏まえ、自社データと論文などをもとにつくった患者モデル、売り上げカーブ、薬価情報、採用カーブ、ピークシェアなどを修正し、最終的な売り上げ予測モデルができあがります。

 

一般的な事業性評価の流れについて書いてきましたが、実際はクライアントによって状況も異なるため、患者数モデルだけをつくるの場合もあれば、対象疾患の選定や競合情報のデータ抽出を行うだけの場合もあるなど、さまざまです。

 

私たちの仕事はこうしたレポートを作成するところまでですが、これを活用して実際にビジネスを動かすクライアントの方々はすごいなといつも思っています。決断し、それを行動に移すことは大変なことです。私たちは、提供したレポートがビジネスにどう生かされたのか知ることはほとんどありません。ただ、数年後にクライアントのプレスリリースなどを見て「これはあの時の!」と思うことがごく稀にですがあり、そんな時はとても誇らしい気持ちになれるのです。

 

事業性評価については、10月14日に「BioJapan」のランチョンセミナーで英国本社の担当者と私が詳しくお話しする予定です。興味のある方はぜひお越しください。

 

黒坂宗久(くろさか・むねひさ)Ph.D.。Evaluate Japan/Consulting & Analytics/Senior Manager, APAC。免疫学の分野で博士号を取得後、米国国立がん研究所(NCI)や独立行政法人産業技術総合研究所、国内製薬企業で約10年間、研究に従事。現在はデータコンサルタントとして、主に製薬企業に対して戦略策定や事業性評価に必要なビジネス分析(マーケット情報、売上予測、NPV、成功確率や開発コストなど)を提供。Evaluate JapanのTwitterの「中の人」でもあり、個人でもSNSなどを通じて積極的に発信を行っている。
Twitter:@munehisa_k
note:https://note.com/kurosakalibrary

 

あわせて読みたい

メールでニュースを受け取る

  • 新着記事が届く
  • 業界ニュースがコンパクトにわかる

オススメの記事

人気記事

メールでニュースを受け取る

メールでニュースを受け取る

  • 新着記事が届く
  • 業界ニュースがコンパクトにわかる