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ニュース解説

日本市場参入から1年…インサイトの現在とこれから、ドラッグ・ラグ解消への想い

更新日

前田雄樹

昨年6月、胆道がん治療薬「ペマジール」を日本で自社販売する最初の製品として発売した米インサイト。日本市場に新規参入して1年あまり。日本事業の今とこれから、そして昨今再び問題となっているドラッグ・ラグへの想いについて、日本法人インサイト・バイオサイエンシズ・ジャパンの幹部に話を聞きました。

 

 

「年間数例」希少がんへの適応拡大申請

――昨年6月にFGFR阻害薬の胆道がん治療薬「ペマジール」(一般名・ペミガチニブ)を発売し、日本市場に本格参入しました。日本事業の足元の状況について教えてください。

 

黒山祥志・プロダクト&コマーシャルストラテジー エグゼクティブ・ディレクター:「FGFR2融合遺伝子陽性の治癒切除不能な胆道がん」の治療薬として昨年6月に発売したペマジールは、これまでに約60人の患者にお届けしています。ペマジールを患者に届けるためには、がん遺伝子パネル検査を適切に行ってもらい、FGFR2融合遺伝子陽性の患者を特定することが必要です。ペマジールの適正使用推進活動を通じて、がん遺伝子パネル検査への理解も広めることができたらと思っています。

 

国立がん研究センターのデータを見ると、胆道がんにおけるがん遺伝子パネル検査の件数は、すべてのがん種の中で3番目に多くなっています。胆道がんは非常に希少ながんですが、これだけ検査が行われているということは、我々の活動がきっかけの1つになっているのではないかと手応えを感じています。

 

ただ、課題もあります。1つは、がん遺伝子パネル検査を実施できる医療機関が全国に230施設しかなく、まだ取り残されている患者が多くいることです。薬剤へのアクセスを確実にしていくため、何か手助けできることはないかと常に模索しています。

 

もう1つの課題は、今の制度では1次治療が終了または終了見込みにならないとがん遺伝子パネル検査が受けられないことです。胆道がん・胆管がんは予後が悪く、進行も早い。がん遺伝子パネル検査をして、実際に患者に薬剤が届くまで6~8週間かかると言われていますが、その間に亡くなってしまったり、状態が悪くなってしまったりするケースもあります。1次治療からがん遺伝子パネル検査を保険償還していくことが強く望まれるところです。

 

――ペマジールについては、今年8月に「FGFR1融合遺伝子陽性の骨髄性またはリンパ性腫瘍」への適応拡大を申請しました。非常に希少ながんだそうですね。

 

鈴川和己・臨床開発 シニアメディカルディレクター:この疾患は血液がんの一種で、日本血液学会の登録事業で把握されている年間の発症数は数例という非常に稀な疾患です。緩やかに進行する「慢性期」と急速に悪化する「急性期」に分けることができますが、慢性期で診断された患者でも同種造血幹細胞移植を行わない場合の全生存期間の中央値は9カ月、急性期では1年生存率が30%と報告されており、非常に予後は悪い。標準的な薬物治療はなく、治癒あるいは長期寛解を期待できる治療選択肢は同種造血幹細胞移植のみとされています。造血幹細胞移植は患者の負担も大きく、高齢者や合併症のある患者では実施できないケースもあり、今回の申請はこうしたアンメットメディカルニーズに応えうるものだと考えています。

 

黒山氏:昨今、海外の新興バイオファーマの台頭が新たなドラッグ・ラグを引き起こしていると指摘されています。インサイトは新興バイオファーマと呼ばれる会社より少し大きい中堅の会社ではありますが、やはり我々のように日本に新しく進出したような会社がアンメットニーズの高い疾患に革新的な医薬品を届ける努力をしていかないと、ドラッグ・ラグはなくならない。小さいかもしれませんが、その一歩になれたらという想いを強くしています。

 

日本市場「注意深く見ている」

――ドラッグ・ラグの話も出ましたが、米国本社は日本市場をどのように見ていますか。

 

黒山氏:日本は世界3位の医薬品市場で、薬事承認とその後の保険償還の確実性は高い。非常に重要な市場として強くコミットしています。我々として、アンメットニーズを抱えている日本の患者を取り残すことはできません。ただ、日本市場は欧米の先進国と違って成長がフラットもしくは少し縮小している傾向にあるので、そこはグローバル本社も注意深く見ています。将来的な日本への投資については、グローバルのエグゼクティブが定期的にレビューし、どうするかということを検討しています。現時点では高いコミットメントを持っていますが、そうした仕組みがあるので、5年後、10年後もコミットメントが続いていると断言することはできません。

 

――ペマジールは薬価算定で35%の有用性加算と10%の市場性加算がつきましたが、原価の開示度合いが低い新薬の加算を減らすルールによって、本来の加算額の20%しか薬価に反映されませんでした。

 

黒山氏:私も薬価交渉に携わりましたが、我々としても原価の開示を透明性をもって最大限やるという方向で努力してきました。ただ、製造の多くの段階でアウトソーシングを行っていることもあり、契約上の守秘義務によってどうしても出せないところがある。何も隠し立てするようなことはないんですが、そうした事情で開示度を上げることができませんでした。

 

イノベーションをきちんと評価し、リワードしていく薬価制度でないと、ドラッグ・ラグは広がっていく可能性があります。合理的でイノベーションに報いるような制度であってほしいと思います。

 

――今年4月の薬価制度改革では、原価の開示度が50%未満の新薬は加算係数が0.2から0に引き下げられました。もしも今、ペマジールが薬価収載されたとすれば、加算はまったく薬価に反映されないことになります。

 

黒山氏:イノベーティブな薬で加算がついたにもかかわらず開示度だけでイノベーションの評価がゼロになってしまうのは残念です。開示度50%でいきなりシャッターを下ろすのではなく、40%、30%と段階的に減らす配慮があっていいと思いますし、ほかに何か合理的なやり方がないものかと思っています。特に外資系企業の場合、薬価制度が合理的であるということを本社に説明できないと、日本への投資も難しくなります。欧米の制度と比べても合理的であるということを説明できる制度であってほしいと思います。

 

タファシタマブ、パルサクリシブなど数年以内に市場投入

――そうした中でも現在は日本市場に強くコミットしているとのことでしたが、日本での新薬開発の状況や製品投入の計画を教えてください。

 

黒山氏:多くのパイプラインが臨床開発の段階にありますが、特に期待している2つの新薬候補についてお話しします。1つ目は、非ホジキンリンパ腫を対象に開発している抗CD19抗体タファシタマブです。欧米ではすでに販売していますが、これをいち早く日本の患者に届けたいと思っています。もう1つが、温式自己免疫性溶血性貧血と骨髄線維症で臨床第3相試験を行っているPI3Kδ阻害薬パルサクリシブです。温式自己免疫性溶血性貧血という疾患はあまり馴染みがないかもしれませんが、主な治療法はステロイドで、ステロイドが使いにくい患者には代替の治療法がないというアンメットニーズがあります。両剤とも数年以内に日本市場に投入できるよう努力しています。

 

MRは現在8人ですが、ペマジールの適応拡大のために増員することは、対象疾患の希少性から考えていません。ただ、将来的にはタファシタマブやパルサクリシブを含めた大型製品の発売を控えているので、それに向けたMRの人員増や社内的なケイパビリティの増強についてはすでに検討を開始しています。

 

繰り返しになりますが、我々としては日本の患者を取り残すことなく、アンメットニーズの高い疾患に革新的な薬剤を届けたいと強く思っています。今回申請を行ったペマジールの適応拡大も、患者数としては非常に少ないですが、その一歩は重要な一歩だと思っています。

 

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