後発医薬品部門サンドのスピンオフを発表したスイス・ノバルティス(ロイター)
[ロンドン ロイター]スイス・ノバルティスから独立する同社の後発医薬品事業部門サンドは、上場にあたって投資家を呼び込むのに苦労するかもしれない。後発医薬品への価格圧力と金融市場の動揺がハードルとなるからだ。
合理化策は終盤に
ノバルティスは8月25日、サンドをスピンオフしてスイスと米国で上場させる計画を発表した。2018年にヴァス・ナラシンハン氏がCEOに就任する前の2014年から進めている一連の合理化策はいよいよ幕を閉じることになる。
ナラシンハンCEOの就任後、ノバルティスはアルコンのアイケア事業を切り離し、英グラクソ・スミスクラインとの合弁事業として展開していたコンシューマーヘルスからは手を引いた。最近では、スイス・ロシュの議決権株式3分の1を210億ドルで売却することで合意し、最大8000人規模(世界の従業員の7.4%に相当)の人員削減を実施中だ。
ノバルティスは昨年10月、サンドについて戦略の見直しに着手し、事業継続、分社化、売却などさまざまな選択肢を検討してきた。特に米国では、特許切れ医薬品に対する価格圧力の高まりを背景に長く低迷が続いていた。ノバルティスは18年にも一度、サンドの米国事業の一部売却を試みたが、オーロビンドファーマ(インド)との9億ドルの取引は反トラスト法に抵触することとなった。
バークレイズのアナリスト、エミリー・フィールド氏はロイターの取材に、コモディティ化した後発医薬品の市場環境(特に米国)は依然として非常に厳しく、多くの企業が今年、2桁の価格下落にさらされていると語った。彼女は「投資家は、2023年に環境が大きく改善されると期待しているとは思えない」と話している。
シティのアナリストは8月26日の顧客向けメモで、「これまでの製薬企業からのスピンアウトは、それが親会社をアウトパフォームするという強力な実績があったため、短期的な興奮を生み出してきた。後発品市場での競争圧力は、短期的な関心の低下につながる可能性がある」と述べている。
サンドは昨年、516億ドルを売り上げ、これはノバルティス全体の売り上げの5分の1を占めている。2021年、サンドの欧州での売上高は2%減少し、米国では為替変動の影響を除いた数値で15%の減収となった。価格圧力と新型コロナウイルス感染拡大に伴う行動制限で需要が減少したことが痛手となった。
一方で、明るい兆しもある。ノバルティスは先月、サンドの今年の収益は主に欧州での成長によって安定的に推移する可能性が高いと発表した。より複雑な後発品やバイオシミラーへの取り組みも成果を上げ始めると予想される。自己免疫疾患治療薬「ヒュミラ」や多発性硬化症治療薬「タイサブリ」などブロックバスター薬のバイオシミラーの承認を来年に控え、ノバルティスは米国での成長回復を期待している。
ジェフリーズのアナリストは先月のメモで、サンドはほかの後発品メーカーと比較して大きな法的負担がなく、バイオシミラーや複雑なジェネリック薬で主導的な地位にあり、地理的展開も広いため、プレミアムが正当化できるとして現在はやや過小評価されていると書いている。
スイスのトップ銘柄に
不振の非新薬事業を切り離すことは、特許のある医療用医薬品に焦点を当てることに熱心になっている製薬業界のトレンドに合致している。
グラクソ・スミスクラインは先月、コンシューマーヘルス事業を新会社「ヘイリオン」として分離し、この10年ほどで欧州最大となる上場を果たした。米ジョンソン・エンド・ジョンソンも昨年、同事業を分社化する計画を発表した。
アナリストによるサンドの予想株式評価額は140億ドルから260億ドルと幅がある。最も低い予想が当たったとしても、サンドはスイス証券取引所で上位20社に入る規模となり、過去10年ほどで2番目に大きな新規上場となる。
しかし、投資家は慎重かもしれない。GSKから分社化したヘイリオンに対する株式市場の受け止めは冷ややかだった。同社は上場後1カ月で株価が22%下落し、約305ポンドだった時価総額は約243億7000ポンドまで下がった。
ロシアのウクライナ進行に伴う地政学的な見通しや世界経済への懸念から、欧州市場から投資家が遠ざかっており、2021年に過去最高を記録した欧州の新規上場件数は急激に減少している。
(Natalie Grover、編集: Josephine Mason/Elaine Hardcastle、翻訳:AnswersNews)