国のバイオ戦略に基づいて今年4月に「グローバルバイオコミュニティ」に認定されたGreater Tokyo Biocommunity(GTB、東京圏)とバイオコミュニティ関⻄(BiocK、関西圏)。6月に公表されたそれぞれの活動計画から、東西バイオコミュニティが目指すエコシステムの姿をまとめました。
【GTB】ベンチャーへの投資額を10倍以上に
日本橋(東京都)、つくば(茨城県)、柏の葉(千葉県)、湘南(神奈川県)、川崎(同)など、8つのバイオイノベーション推進拠点を抱えるGTB。域内のGDP(国内総生産)やバイオ関連雇用者数は、英ロンドンや米マサチューセッツなど有力なバイオコミュニティを有する海外の都市と比較して数倍の規模だといい、すでに多くの関連企業が集積しています。
GTBが最も重要なKPIとして掲げるのが、圏内の関連企業(バイオ産業関連5団体に加盟する企業)の売上高の合計を2030年に147兆円に引き上げることです。20年の売上高は計103兆円で、KPI達成に必要な年平均成長率は3.6%。既存企業の規模拡大や域内バイオベンチャーの成長に加え、異業種の参入による売り上げの拡大を狙っています。
この実現を支えるKPIには、▽2030年まで毎年5~10件の新たな大型共同研究を形成する▽圏内バイオベンチャーへの投資額を現在の年間330億円(推定)から年間3500億円に拡大する(うち半分は海外からの投資)――などを掲げています。共同研究でシーズの創出を、ベンチャー育成でその実用化を支援し、生産設備への投資やネットワークなどの基盤強化と合わせて事業化を促進するねらい。30年には米調査会社スタートアップ・ゲノムによるライフサイエンス分野のスタートアップエコシステムランキングで5位以内に入る(21年は25位)ことを目指します。
関連記事:連載:バイオコミュニティの萌芽(1)
これらのKPIは、現在地から見ると意欲的な目標です。中でも海外からの投資額は、現在の推定20~30億円と比べると57~85倍という規模で、GTB会長の永山治氏も「かなりアンビシャス」と話します。GTBは「これまで東京圏の強みや実⼒を可視化して海外に発信することはほとんど⾏われておらず、海外から⼈や投資を引き付けるうえでも不⼗分な状態であったことは否めない」としており、今後、国内外のネットワーク交流を促進するほか、域内の各拠点のポテンシャルを数値化し、特徴や強みをまとめた「バイオイノベーション推進拠点マッピング」を日本語と英語で発信する計画。海外から注目を集めるには、短期的には「スタートアップが企業として成功することが最重要」と捉えており、国内バイオベンチャーの海外進出支援にも力を入れる考えです。
これらの取り組みに加えて「極めて重要」と位置付けるのが、若手人材の育成です。22年度には▽協議会メンバーの人材育成策の可視化と相互利用の促進▽NEDO(国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構)のバイオものづくりの人材育成の利用促進▽バイオ医薬・ワクチンデュアルユース生産を支える人材の育成案の検討――を計画しています。
【BiocK】「世界に通用するフラグ企業をどうつくるか」
大阪、京都、神戸を中心とするBiocKは、KPIとして、コミュニティの成長を評価する4つの指標を21年との比較で1.5倍に向上させることを掲げています。4つの指標とは▽圏内の関連企業(バイオ産業関連5団体に加盟する企業)の売上高の合計(21年は22.2兆円)▽未上場バイオベンチャーに対する投資額(21年は1億4500万ドル)▽未上場バイオベンチャー企業数(21年は海外データベース〈DB〉で34社、国内DBで92社)▽BiocK分科会でのプロジェクト数(21年は14件)――です。
BiocKは4つの指標を並列していますが、活動の結果として重視するのは売上高の指標。GTBと同じ3.6%の年平均成長率を達成し、30年に30.5兆円を目指します。
BiocKの坂田恒昭副委員長/統括コーディネーターは、「世界に通用するフラグ企業をどう作っていくかがコミュニティの大きな役割で、それができないとヒトもカネも回らず、若い人が夢を描けない。海外で認められている企業が少ないのは、わかりやすい成果が出ていないところが関係している。モノを出して成功事例を作らなければ、その周りに新しい産業が生まれてこず、次が続いていかない」と話します。
分科会で「連携」を促進
これらの目標を実現するためにBiocKが注力するのが「連携」です。BiocKは「『集積』から『連携』へ」をキーワードに掲げており、オープンイノベーションを推進するコンソーシアムとして複数の分科会を立ち上げ、域内の企業や関連機関が連携する場を提供しています。今年8月19日時点で19の分科会ができており、塩野義製薬(テーマ:メンタルヘルス)やNTT西日本(テーマ:パーソナルデータ利活用)、次世代バイオ医薬品製造技術研究組合(テーマ:抗体・遺伝子治療薬・ワクチン製造)などがリーダーとなって運営。AMED(日本医療研究開発機構)など、国の機関が進めるプロジェクトと連携する分科会も複数あります。
BiocKが特に力を入れるテーマは▽スタートアップ支援(人材、資金不足)▽人材確保(CXO、バイオ製造人材)▽バイオファウンドリー▽データ連携と利活用――。スタートアップ分科会ではたとえば、大企業の人材をスタートアップに短期派遣する大阪のプログラム「V:DRIVE(ベンチャードライブ)」などと連携し、事業化人材を育成する仕組みづくりを目指しています。
京都大iPS細胞研究所(CiRA)や神戸アイセンター、住友ファーマなどのプレイヤーを擁し、国際的にも強みを有する「再生医療」では、京阪神での相互連携の仕組みを構築し、競争力を高める狙いです。
域内での連携推進とともにBiocKが取り組むのが「国内外のバイオコミュニティや関連機関とのネットワーク形成」と「国内外への情報発信」。「京都」「大阪」「神戸」といった個々の都市ではなく、「関西」としての認知度を高めるとともに、ブランドの構築を目指します。「大きなアピールチャンス」と位置付ける2025年の大阪万博では、バイオメタンやプラスチックといったテーマで分科会が中心となって実証実験を行う予定です。