沢井製薬が第二九州工場に建設する新棟の完成イメージ(同社提供)
後発医薬品の供給拡大に向け、来月から第二九州工場(福岡県飯塚市)で新棟の建設を始める沢井製薬。8月23日に現地で行った起工式後の記者会見で同社は、供給拡大に意欲を示した一方、毎年の薬価改定などで収益が厳しくなっているとし、「大型の投資は今回が最後になるかもしれない」と訴えました。
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新工場、年間30億錠の生産能力
沢井が第二九州工場で新たに建設するのは、固形製剤を製造する工場棟など。工場棟は地上7階建てで、新棟全体の延べ床面積は2万9446平方メートルとなります。9月に着工し、完成は2023年12月を予定。24年1月から生産を開始し、同年4月の出荷開始を目指します。最終的な投資総額は約405億円となる見込みです。
新棟の生産能力は最終的に年間30億錠となる見込みで、第1段階として竣工時点で年間20億錠を生産できる設備を導入する予定。24年度は250人体制で7億錠の生産を見込んでおり、その後、330人まで人員を増やして26年度には年間20億錠を生産する計画です。第2段階となる10億錠分の追加については「市場の動向や新製品の開発状況などを勘案しながら遅滞なく実施していく」としています。
安定供給の礎に
同業他社で相次いだ品質不正の影響で沢井製品への需要は拡大しており、既存の工場が老朽化する中、新棟の建設で安定供給体制を強化したい考え。同社の澤井健造社長は8月23日に現地で開いた起工式後の記者会見で「ジェネリック医薬品は国民にとって不可欠なもの。リーディングカンパニーとしての自覚を持ち、安定的に供給していく礎となるような工場にしたい」と話しました。
沢井製薬を傘下に収めるサワイグループホールディングス(HD)は今年3月末、品質不正で撤退した小林化工から3つの工場を含む生産関連の設備と人員を譲り受け、4月1日から子会社「トラストファーマテック」として事業を開始。23年4月の出荷開始を目指し、小林化工からの転籍者への教育や譲り受けた工場への技術移管などを進めています。トラストファーマテックは年間30億錠の生産能力を持ち、第二九州工場の新棟を合わせると、サワイグループHDの生産能力は現在の年間155億錠から215億錠へと約4割アップします。
今の薬価制度ではもたない
国内最大手の後発品メーカーとして供給拡大に意欲を示す沢井ですが、事業環境は厳しさを増しています。2021年度から始まった薬価の毎年改定で原価率は悪化しており、急激な円安や原材料価格の高騰による調達コストの上昇が追い打ちをかけています。沢井は23年3月期の日本事業の売上原価率を前期比3.4ポイント増の68.2%と予想していますが、今年4月以降の調達コストは計画を原薬で2%、添加剤で2.6%上回っているといい、4~6月期の売上原価率は前年同期比6ポイント増の69.2%となりました。
沢井の木村元彦生産本部長は、8月23日の記者会見で「われわれも非常に原価率を厳しくコントロールしているが、それでも毎年改定で原価率が上がってくる。今の薬価制度のままでは、沢井としても今回のような大型投資はこれが最後になってしまう可能性もある」と指摘。澤井社長も「今の薬価制度ではもたないのは明白だ」と話しました。
3割が赤字
沢井が販売する後発品は約800品目ありますが、このうち3割近くは採算がとれず赤字だといいます。「しかもそれはどんどん増えていくわけで、そういう状態が続けば事業としてはなかなか難しい」と澤井社長は話し、最低薬価の引き上げや品目の整理を検討すべきだと指摘。「今、薬価収載されている薬剤は1万8000品目あるが、本当にすべての品目が必要なのか。本当に必要なものを残し、役割を終えたものはやめていくというように、医療全体として薬剤を淘汰していくべきではないかと考えている」と訴えました。
厚生労働省は、医薬品を迅速かつ安定的に供給するための流通・薬価制度のあり方を検討する有識者会議を立ち上げ、今月31日に初会合を開いて議論を開始します。メーカーの訴えは届くのか、議論の行方が注目されます。