(写真:ロイター)
[フランクフルト ロイター]仏サノフィの最近の株価下落は、新薬探索の取り組みを強めるよう求める投資家からの圧力を浮き彫りにしている。
サノフィのポール・ハドソンCEO(最高経営責任者)は来月で就任から丸3年を迎えるが、これまで同社で数々の失敗を司ってきた。最近では、高い商業的可能性があるとアピールしてきた乳がん治療薬候補アムセネストラントの開発に失敗した。
同薬の開発中止は、胃薬「ザンタック」(一般名・ラニチジン)の発がんリスクを巡る訴訟によって高まる投資家の不安に拍車をかけ、8日間で14%以上の株価下落を招いた。
サノフィのジャン=バティスト・ド・シャティヨンCFO(最高財務責任者)は今月17日、ロイターに対し「会社のファンダメンタルズとその評価の間に、信じられないほどの乖離がある」と述べた。彼は、ベストセラーとなったアトピー性皮膚炎・喘息治療薬「デュピクセント」(デュピルマブ)のおかげで財務は堅調だと指摘。開発中の血友病治療薬や小児呼吸器感染症治療薬の可能性を強調し、「今後出てくる非常に強力なアセットによって、成長は再び加速されるだろう」との見通しを示した。
一方、サノフィの株式を保有するユニオン・インベストメント(ドイツ)のポートフォリオ・マネジャー、マーカス・マンズ氏は、ド・シャティヨン氏の発言は見当違いの楽観論だと指摘する。彼は「アムセネストラントの失敗は大きな後退であり、スイス・ロシュや英アストラゼネカといった企業と比較すると、パプラインは乏しい。サノフィがそうした現実を受け入れないとすれば不幸なことだ」と話した。
サノフィは新型コロナウイルスワクチンの開発競争でも大きな挫折を味わい、独ビオンテックと米ファイザー、同モデルナに市場を奪われた。
この事実は、ワクチン、免疫、希少疾患、がんを中心とした事業を簡素化させ、株価を回復させる使命を負ったハドソンCEOにプレッシャーを与えている。
ハドソン氏の就任以来、サノフィの株価は5%上昇した。しかし、大型新薬候補が少ないことが懸念材料となっており、欧州医薬品セクター全体に比べると低調に推移している。
後退
サノフィの業績を支えているデュピクセントの売上高は、今年上半期に前年同期比で40%以上の伸びを示し、年間では130億ユーロ(131億ドル)に達すると予想されている。マンズ氏によると、同薬の主要な特許は2032年まで有効で、サノフィはこれで時間を稼いでいる。
ただ、後退はアムセネストラントの失敗1回限りではない。今年初めには、独メルクやスイス・ノバルティス、ロシュと争っている多発性硬化症治療薬トレブルチニブの臨床試験で、肝障害の懸念から患者登録の停止を余儀なくされた。
サノフィにとって最も重要な2つの開発プロジェクトで問題が発生したことを受け、先行きを改善するための取り組みを今後強化するという経営陣からのシグナルが発せられていれば歓迎しただろうとマンズ氏は話すが、「経営陣がそれを認めないのであれば、追加の懸念事項だ」とも述べた。
米SVB証券のアナリストは、この2つの打撃は「サノフィの研究開発の生産性とトップラインの成長見通しに対するセンチメントにマイナス影響を与える」として目標株価を引き下げた。一方、下落した株価はまだアウトパフォームできるとの見方は維持している。
米投資会社グッゲンハイムのアナリスト、シェイマス・フェルナンデス氏は、ザンタックの訴訟に対する市場の反応は行き過ぎだとの見方を示す一方、この下落に乗じて買った投資家は忍耐を強いられるかもしれないと述べている。彼は18日、「この種の暴落はしばしば、規律正しい長期投資家に機会を与える」と書いた。
かつて人気を博した制酸薬ザンタックには発がんリスクがあるとされ、米国で訴訟が相次いでいる。原告は、サノフィや英グラクソ・スミスクラインと多くの後発医薬品メーカーがリスクについてユーザーに適切な警告を行わなかったと訴えている。一連の訴訟で最初の裁判は来年初頭に始まる。サノフィは原告の主張に根拠はないとしている。
(Ludwig Burger、編集:Josephine Mason/Elaine Hardcastle、翻訳:AnswersNews)