「オミクロン株陽性」のラベルが貼られた試験管(ロイター)
[ジュネーブ ロイター]WTO(世界貿易機関)は先月、新型コロナウイルスワクチンに関する知的財産権について、困難な議論の末に保護義務を一部免除することで合意した。それからまだ1カ月も経っていないが、今度は新型コロナの治療薬・検査薬にも免除の範囲を拡大するかどうかで新たな「戦い」が迫っている。
6月の閣僚合意には、新型コロナ治療薬・検査薬についても特許の放棄を議論し、6カ月以内に結論を得ると明記された。製薬業界は、仮に新型コロナ治療薬・検査薬にも保護義務免除の範囲が拡大されれば、ほかの疾患にも広がっていくことにつながる可能性があると警戒している。
ロイターが入手した文書によると、「6カ月」という期間の設定を主張したのは6カ国からなるグループだ。インド、南アフリカ、パキスタン、インドネシア、エジプト、タンザニアで、これら6カ国は「治療薬と検査薬への拡大は、開発途上国による生産の拡大と多様化を阻んでいる知財という障壁に対処するのに役立つだろう」と指摘。特許の放棄は「生命を救う重要な新型コロナ対策ツールへのアクセスを高める」としている。
この文書はほかのWTO加盟国と共有され、11月か12月の一般理事会(WTOの最高意思決定機関)で決定されることを想定している。WTOの広報担当者は、ロイターの取材にただちにコメントを出さなかった。
今月6日の非公開会合に出席した関係者によると、米国を含む先進国はまだ立場を明確にしていないという。情報筋によれば、研究や投資の縮小につながるとして反対する先進国と、インドや南アフリカといった推進派の間で、再び激しい対立が起こる可能性がある。
ジュネーブで活動するある国の大使は匿名を条件に取材に応じ、「今回も大規模な戦いになるだろう」と指摘。「治療薬・検査薬にも拡大される可能性に期待してワクチンの知財保護義務免除に賛成した国もある」と話した。
パンドラの箱?
反対派は危機感を強めている。
新型コロナの治療薬や検査薬は、ほかの疾患に使われているものも多い。科学情報会社エアフィニティ(英国)の調査によると、63の新型コロナ検査はインフルエンザなどほかの感染症にも使用でき、123の新型コロナ治療プロジェクトはほかの95の感染症に使われている。
国際製薬団体連合会(IFPMA)のトーマス・クエニ事務局長は「これはパンドラの箱であり、将来にパンデミック対策にとって完全に間違ったシグナルを送るものだ」とし、品質管理や研究へのインセンティブが損なわれると指摘。「(賛成する国は)知財を根本的に否定する国の連合体であり、彼らは(知財を)弱体化させる前例をつくろうとしている」と話した。
治療薬・検査薬の特許放棄に賛成する国々は、6月の閣僚合意はシンボリックなものに過ぎないと主張。新型コロナワクチンに対する需要が激減し、多くの国が未使用の在庫を破棄しているためで、治療薬・検査薬への免除拡大はワクチンのそれよりはるかに有意義なものになるとしている。
新型コロナワクチンの特許放棄を支持する団体「ピープルズ・ワクチン・アライアンス」の政策リーダーで、貧困の根絶を目指して活動する「オックスファム」の保健政策マネジャーを務めるアンナ・マリオット氏は、検査や治療への知財保護義務免除の拡大は、これまでと大きな違いを生む可能性があると強調。彼女もまた、「戦い」が待ち受けていると見通し、「大手製薬企業は新型コロナ治療薬による収益のチャンスを手放したくはないだろう」と話した。
新型コロナに関連した特許の放棄をめぐる最初の交渉は2020年10月に始まった。WTOはいかなる決定も加盟全164カ国の全会一致を原則としており、議論は難航した。WTOのヌゴジ・オコンジョイウェアラ事務局長は、インド、南アフリカ、米国、欧州連合(EU)に4者間協議「クワッド」を呼びかけ、膠着状態の打開を図った。
今回、彼女がその招集権を行使するかはまだわからない。ワクチンをめぐる議論では、貧困国やそれを支援する団体が富裕国を激しく批判し、時に険悪な雰囲気に包まれた。
当初はワクチンの特許放棄に反対し、その後、立場を変えた米国はかつて、知財保護義務の免除はワクチンに限って検討する意向を示していた。
(Emma Farge、編集:hilip Blenkinsop/Frances Kerry、翻訳:AnswersNews)