米国の薬局に並ぶ抗菌薬(2016年撮影、ロイター)
[ロンドン ロイター]抗菌薬を製造する際に発生する有害物質の排出を規制するため、製薬業界が独自の基準を打ち出した。
抗菌薬を製造する製薬企業などでつくるAMRインダストリーアライアンスは6月14日、抗菌薬の責任ある製造を保証するための独自の基準を導入すると発表した。
製造過程で環境中に浸透した抗菌薬は、土壌や水、生物にとって有害であるだけではなく、薬剤耐性菌の出現に拍車をかける可能性がある。加えて、抗菌薬を摂取した人間や動物の排泄物、農作物に使用される肥料、下水に廃棄された医薬品によっても環境が汚染される可能性がある。
「安全レベル」設定
医薬品による環境汚染のルートはさまざまだが、業界としては製造時の排出をコントロールすることは可能だ。そこでアライアンスは、生態毒性を考慮し、製造時に排出される抗菌薬の「安全レベル」を独自に設定した。
抗菌薬の世界的な生産国でありながら規制が緩いと批判を浴びているインドをはじめ、いくつかの国では過去にもこうした規制が提案されたことがある。しかし、ほとんど実現には至らなかった。アライアンスの製造業部会でリーダーを務めるスティーブ・ブルックス氏は「国ごとに事情が異なるため、国際的な環境規制を設定するのは非常に難しい」と話す。
アライアンスは近年、加盟企業に対して自主規制を促してきた。ブルックス氏は「すべてのメンバーが現時点で基準のすべてを満たしていると言うつもりはない。ただ、今回の自主規制によって大きな進歩を遂げたのは確かだ」と話す。アライアンスの加盟企業は、抗菌薬製造のサプライチェーンの約3分の1を占める。
アライアンスは2018年、抗菌薬製造による廃棄物の管理に関する枠組みをまとめ、加盟企業に導入を求めた。2021年の報告書によると、加盟企業の保有する製造サイトの約85%が同枠組みへの対応状況について評価を受け、そのうち75%強が設定された基準を完全に満たしていた。
ブルックス氏によると、対策にはシンプルなものも多い。例えば、廃棄物を集めて化学物質を別々に処理したり、水生環境に放出するかわりに焼却したり、といった具合だ。「最終的に必要とされない限り、業界に対して高額な制御装置の導入を強制することはない」と彼は言う。
細分化されたサプライチェーン
ただ、法的拘束力のない自主基準がどこまで浸透するかは不透明だ。
抗菌薬のサプライチェーンは細分化されている。メーカーは製造のあらゆる段階で外部委託を行っており、中でも中国やインドへの依存度が高い。こうした背景もあり、問題は複雑だ。
抗菌薬の主要なメーカーの1つである英製薬大手グラクソ・スミスクライン(GSK)は、2022年末までにサードパーティーの製造サイトにも環境基準を完全に導入するとの見通しを示した。同社の広報担当者はロイターに「サプライヤーが排出規制を満たせない、あるいは満たそうとしない場合は、契約を打ち切る」と話した。
ブルックス氏は、抗菌薬を調達する側も責任を持って製造された製品を求め始めていると指摘する。アライアンスでは、独立した第三者による認証プロセスを導入することを目指している。
オランダに本社を置く抗菌薬メーカー、セントリエント・ファーマシューティカルズの広報担当社は、環境基準を採用する意思があるなら、対応する方法はあると指摘する。「進むべき方向さえ決められれば道は開ける。われわれはそう楽観視している」
(Natalie Grover、編集:Susan Fenton、翻訳:AnswersNews)