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ニュース解説

医薬品サプライチェーンに見直し機運…新型コロナで供給リスク露呈

製薬業界で、医薬品のサプライチェーン(供給網)を見直そうという機運が高まっています。新型コロナウイルスの感染拡大で、中国など特定の国に原薬の調達を依存するリスクが顕在化。業界は、原薬製造国と政府間協定を結ぶなど、国レベルでの対策を求めています。

 

 

「医療の安全保障」

「今までは、グローバリゼーションはすべての面で『善』に見え、経済の発展に大きく寄与してきたと考えるが、今後は単なるグローバリゼーションではなく、『医療の安全保障』を意識した戦略的な多国間主義・国際協力を強化すべき局面に来ている」

 

日本製薬工業協会(製薬協)の中山譲治会長(第一三共常勤顧問)は6月17日の記者会見でこう訴えました。製薬協はこの日、新型コロナウイルスの感染拡大を踏まえた日本の感染症対策に提言を発表。公衆衛生上必要性の高い医薬品については、感染症流行時にも必要な原材料を確保できるよう、製造国との政府間協定の締結や備蓄に対する公的支援、国内製造のための共同製造設備の設置などを提案しました。

 

後発品の65%が原薬・中間体を輸入

新型コロナウイルスの流行は、医薬品のサプライチェーンが抱える脆弱性を露呈させました。

 

世界で流通する医薬品の多くは、製造コストの安い中国やインドに中間体や原薬の供給を依存しています。日本も例外ではなく、厚生労働省の「後発医薬品使用促進ロードマップ検証検討事業報告書」(2018年度)によると、すべての製造工程を国内で行った原薬を使っている後発品は薬価収載されている品目全体のうち35.0%。残りの65.0%は海外から輸入した中間体や原薬を使っており、調達先としては中国やインド、韓国が多くなっています。

 

【後発医薬品の原薬調達状況(2017年度)のグラフ】: すべての製造工程を国内で実施・35.0%/中間体を輸入・6.6%/粗製品・最終製品を輸入・9.9%/輸入した製品をそのまま使用・46.6% |<粗製品・最終製品の仕入先>中国・32.2%/インド・24.0%/韓国・13.9%・イタリア・8.9%/その他・21.0% |<原薬の仕入先>中国・18.5%/韓国・17.0%/インド・16.0%/イタリア14.8%/その他・33.7% |※「後発医薬品使用促進ロードマップ検証検討事業 報告書」(2018年度)をもとに作成

 

新型コロナウイルス感染症をめぐっては、インド政府が一時、一部の原薬の輸出を制限。中国からの原薬供給も不足しました。これにより、国内では東和薬品や陽進堂が一部製品で出荷調整を実施。米国や欧州でも供給不安が広がりました。

 

活発化する「脱中国」

原薬の調達を中国など特定の国に強く依存するリスクは、以前から指摘されてきました。

 

日本では昨年、市場シェアの約6割を占める日医工の抗菌薬セファゾリンナトリウムの供給が9カ月間にわたってストップ。原料のひとつであるテトラゾール酢酸を世界で唯一製造していた中国企業が、環境規制にからむ中国政府からの指示で供給を停止したのに加え、イタリア企業から調達していた原薬に異物混入が見つかり、日医工の製造も止まりました。

 

セファゾリンは感染症の治療や周術期の感染予防に広く使われており、日医工の供給停止で医療現場は混乱。日本化学療法学会など4学会は昨年8月、「一部の企業に極端に依存する現在の生産体制では、急に供給が途絶えるリスクが大きく、海外の状況によって国内の患者の命が左右される安全保障上の問題に陥っている」とし、抗菌薬の安定供給を求める提言を国に提出しました。

 

国内製造に補助

政府は、新型コロナウイルス感染症対策を盛り込んだ2020年度第1次補正予算で、海外依存度の高い原薬の国内製造を促すため、生産設備に対する補助として30億円を計上。3月には厚生労働省が「医療用医薬品の安定確保策に関する関係者会議」を立ち上げ、医療上必要性の高い医薬品の安定供給を確保するための方策について検討を進めています。

 

中国依存に危機感を強める米国政府は、必須薬を国内製造する製薬会社フロウと、3億5400万ドル(約379億円)で4年間の供給契約を締結。議会には、中国で製造された原薬を含む医薬品の購入を制限する「Protecting Our Pharmaceutical Supply Chain from China Act of 2020」(我々の医薬品サプライチェーンを中国から守る法律)や、製薬企業に製造の中国依存度を開示するよう求める「Strengthening America’s Supply Chain and National Security Act」(米国のサプライチェーンと安全保障を強化する法律)が提出されるなど、「脱中国」の動きが活発化しています。

 

インド政府による輸出規制で供給不安に直面したEU(欧州連合)でも、見直しの議論が進みます。独仏首脳は5月18日に発表した声明で、コロナ危機に対してEUが取り組むべき4つのテーマの最初に「健康戦略を通じた戦略的健康主権の強化」を掲げ、医薬品などの共同備蓄と域内生産能力の強化を提案しました。

 

国内回帰にもリスク

ただし、過度な国内回帰はリスクをはらみます。製薬協の中山会長は「医薬品の製造を日本国内に集中すべきといった議論もあるが、エネルギー資源に乏しく、自然災害の多い日本に生産を集中させることには大きなリスクが伴う」と指摘。2011年の東日本大震災では製薬企業の工場も被災し、供給不能に陥った品目もありました。製薬協は「一国閉鎖主義ではなく、国際的アライアンスの強化を」と訴えます。

 

コスト増への対応も課題です。日医工のセファゾリンは海外から原薬を調達していたにもかかわらず、製造原価が薬価を上回り、採算割れを起こしていたとされます。国内製造に切り替えた場合、品目によっては製造コストが10倍に跳ね上がるとの試算もあります。

 

コスト増どう吸収

今年4月の薬価改定では、一部の抗菌薬の薬価が引き上げられたり、維持されたりしました。「国内の生産設備への補助のような一時的な支援では、やがて採算割れを起こして供給を続けられなくなるメーカーが出てくるかもしれない。コスト増を吸収する薬価上の対応が必要だ」。業界関係者からはこんな声も上がります。

 

政府は、製薬を含む製造業の国内回帰を掲げる一方、20年度第1次補正予算にASEAN(東南アジア諸国連合)での生産拠点整備に対する助成(235億円)を盛り込み、サプライチェーンの多元化・分散化も促しています。「感染症は必ずまたやってくる」(製薬協・中山会長)と言われる中、強靭かつ柔軟なサプライチェーン構築に向け、官民挙げてベストバランスを確立することが求められます。

 

(前田雄樹)

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