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ギリアド、日本市場参入から10年…社長が語った次の10年の成長戦略

更新日

前田雄樹

画期的なC型肝炎治療薬をひっさげて日本市場に参入した米ギリアド・サイエンシズ。2012年の日本法人設立からこの秋で丸10年を迎えます。今年1月に就任したケネット・ブライスティング社長が語った「次の10年」の成長戦略とは。

 

 

日本市場にコミットし、根を張っていきたい

「10年で13の製品を日本にもたらし、それによって強力な存在感を確立してきた。日本には多くの投資を行ってきた。これからも日本市場にコミットし、ここに根を張っていきたい」。米ギリアド・サイエンシズ日本法人のケネット・ブライスティング社長は6月8日、日本法人が設立10周年を迎えるにあたって開いた記者会見でこう力を込めました。

 

ギリアドが東京に日本法人を設立したのは2012年11月。15年には「ソバルディ」(一般名・ソホスブビル)、「ハーボニー」(ソホスブビル/レジパスビル)という2つの画期的なC型肝炎治療薬を発売しました。ソバルディとハーボニーは、高い有効性と利便性を背景に発売されるやいなや爆発的な売り上げを記録し、発売初年度の15年度にソバルディが1509億円、ハーボニーが2693億円を販売(いずれも薬価ベース。IQVIA調べ)。この年の国内製薬企業売上高ランキングでいきなり6位にランクインしました(IQVIA調べ)。

 

記者会見で今後の成長戦略を語ったギリアド・サイエンシズ日本法人のケネット・ブライスティング社長(主催者提供)

 

ウイルス分野のリーダーシップは維持

その後も、17年にB型肝炎治療薬「ベムリディ」(テノホビルアラフェナミドフマル酸塩)、19年に非代償性肝硬変の適応を持つC型肝炎治療薬「エプクルーサ」(ソホスブビル/ベルパタスビル)と抗HIV薬「ビクタルビ」(ビクテグラビルナトリウム/エムトリシタビン/テノホビルアラフェナミドフマル酸塩)と、ウイルス性疾患の領域で立て続けに新薬を市場投入。19年には、「ツルバダ」「デシコビ」などそれまで日本たばこ産業(JT)とその子会社の鳥居薬品を通じて日本で販売していた抗HIV薬6製品を買い戻し、HIVの領域でも事業基盤を構築しました。

 

コロナ禍では、20年5月に初の抗ウイルス薬として「ベクルリー」(レムデシビル)が特例承認を取得。ブライスティング社長は「10年かけてウイルス性疾患の分野で強力なフットプリントを確立してきた」と振り返り、「このリーダーシップを今後も維持、継続したい」と語りました。国内では、長時間作用型の抗HIV薬レナカパビルや新型コロナの経口抗ウイルス薬「GS-5245」を開発中。GS-5245は今年後半から臨床第3相(P3)試験に入る予定です。

 

【ギリアド日本での事業の動き】2012年/11月/日本法人設立|2015年/5月/C型肝炎治療薬「ソバルディ」発売/9月/C型肝炎治療薬「ハーボニー」発売|2016年/4月//16年度薬価改定で「ソバルディ」「ハーボニー」が特例拡大再算定の対象となり、薬価が約30%引き下げ|2017年/2月/B型肝炎治療薬「ベムリディ」発売|2019年/2月/C型肝炎治療薬「エプクルーサ」発売/4月/抗HIV薬「ビクタルビ」発売/12月/JTから抗HIV薬6品目を承継|2020年/5月/新型コロナウイルス感染症治療薬「ベクルリー」が特例承認/11月/JAK阻害薬「ジセレカ」発売(販売はエーザイ)|2022年/3月/「ジセレカ」が潰瘍性大腸炎に適応拡大|※ギリアドのプレスリリースなどをもとに作成

 

第2、第3の柱は「炎症性疾患」と「オンコロジー」

ギリアドがウイルス性疾患に続く第2、第3の柱と位置付けるのが、炎症性疾患とオンコロジーです。特にオンコロジーは「これからの10年に向かっていく戦略の柱」(ブライスティング社長)と高い期待を寄せています。

 

炎症性疾患の領域では、2020年にJAK阻害薬「ジセレカ」(フィルゴチニブマレイン酸塩)を関節リウマチの適応で発売。今年3月には潰瘍性大腸炎への適応拡大の承認を取得しました。同薬の販売・情報提供ではエーザイと協力しており、向こう2年以内にクローン病への適応拡大も目指しています。

 

オンコロジー「向こう10年の戦略の柱」

オンコロジー領域では、TROP2を標的とする抗体薬物複合体(ADC)サシツズマブ ゴビテカンの国内P1試験を実施中。欧米では「Trodelvy」の製品名でトリプルネガティブ乳がんを対象に承認されており、2つ以上の治療歴のある患者を対象に行われた国際共同P3試験では、対照群(医師選択治療)に比べて無増悪生存期間(PFS)を3.1カ月、全生存期間(OS)を4.9カ月延長しました(PFSはサシツズマブ ゴビテカン群4.8カ月に対して対照群1.7カ月、OSはサシツズマブ ゴビテカン群11.8カ月に対して対照群6.9カ月)。

 

ギリアドは、現在実施中のP1試験で安全性が確認でき次第、トリプルネガティブをはじめとする乳がんのほか、肺がん、尿路上皮がん、前立腺がんといったがん種で開発を進めていく方針。各がん種でより早期の治療ラインへの適応拡大を目指すほか、別の抗がん剤やがん免疫療法との併用も検討していく考えです。

 

【ギリアド日本での主な開発品目】<領域/品名/作用機序>HIV/レナカパビル/HIVカプシド阻害薬/GS-6207|オンコロジー/サシツズマブ ゴビテカン Trodelvy(海外製品名)/抗TROP-2ADC|COVID-19/GS-5245/RNAポリメラーゼ阻害薬|※ギリアドの記者会見資料をもとに作成

 

米ギリアドは近年、がん領域でM&Aを積極的に行っており、17年に細胞療法を手掛ける米カイト・ファーマ、20年に血液がん治療薬を開発する米フォーティー・セブンとサシツズマブ ゴビテカンを開発した米イミュノメディクスを相次いで買収。会見で今後の新薬開発について説明した表雅之・臨床開発本部長は、先月発表した米ドラゴンフライ・セラピューティクスとの提携でポートフォリオに加わったNK細胞エンゲージャーについて、来年前半に臨床試験を始める方針を明らかにしました。

 

外資系製薬企業からは最近、日本の医薬品市場に対して、薬価引き下げを背景に投資の継続を不安視する声が上がっています。ギリアドも、ソバルディとハーボニーを狙い撃ちする「特例拡大再算定」の導入で両剤の薬価を大幅に引き下げられた経験を持ちます。「これからも日本の市場にコミットする」と話したブライスティング社長ですが、薬価制度については「懸念しているのは予測性。毎年の薬価改定はわれわれの業界にとって良いことではない。われわれは透明性と予測性を求めており、価格のレベルを維持することは非常に重要だ」と注文を付けました。

 

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